遡るは時の流れ 作:タイムマシン
すいませんゆるしてくださいなんでもしますから
…………ん?
──第一回
そんな知らせがベートたちの耳に入ってきたのは、逆行者会議が開かれた三日後のことだった。
発案者はリューの提案を受け入れたアストレアとアイズの
大会で勝利した時に手に入る賞金は自分たちのファミリアが受け持ち、チケット代を含めた入場料をギルドに還元するといわれたら、
開催にあたってロキたちが定めた
・対戦はお互いの同意のもとに行われる。
・お互いのレベルに差がある場合、もしくは、同じファミリア内での対戦の場合は賞金は支払われない。また、その場合はお互いが
・ケガをしても文句を言わない。
・みんな仲良く楽しくやろう!
冒険者は力の競い合いや賞金獲得を目指して対戦相手を求め、一般人は超人的な能力を持った冒険者の実力を間近で見ることができるため、彼らを一目見ようとオラリオが湧いた。ベルとヒュアキントスを公衆の面前で堂々と戦わせるためだけにこの
「……ちゅーわけで、見事に祭りは開けるようになったでーアイズたん!」
「……ありがとうございます」
褒めて褒めて! と飛び掛かってくるロキを華麗に躱し、アイズは小さく礼を述べる。ここまでは予定通りだ。ロキたちは立派にその役割を果たしてくれた。だから──
「後は私たちが頑張る番、ですね」
「なにしれっと俺を入れてんだよ。一人でやりやがれ!」
「…………チッ」
「おい」
ベートにすげなくあしらわれ、アイズが不満げに頬を膨らませる。レフィーヤは一刻も早くフィルヴィスと友好関係を築くために試行錯誤を行っている最中で、ヒュアキントスは追って連絡するとだけ伝えてすでに帰らせた。
そして、ベートも暇ではない。前回よりも平和な世界ということで、より狡猾かつ慎重になった
今呑気に過ごしてるのはアイズとリューくらいだろう。そして、リューは不倶戴天の敵(仮)、仲間にはなり得ない。
「……にしても、ずいぶんとんとん拍子に話が進むもんだな」
「まぁ、
今頃ほかのファミリアも大変やでー、とベートの問いにケラケラ笑いながらロキが答える。
開催が決定されてからというもの、生産系のファミリアは大忙しである。ゴブニュやヘファイストスという鍛冶を中心に行うファミリアはイベントに参加しようとする冒険者からの発注で目を回し、ディアンケトたち医療系のファミリアは今が稼ぎ時だと目の色を変えて
ギルドとしても、今回の話は悪いものではない。ほとんど出費をせずにお金だけは手元に入ってくるというのだ。加えて、市民の娯楽、ガス抜きまで向こうが提供してくれる。冒険者の力を見せつけることで畏敬の念を植え付けるとともに、こんなに強い人がモンスターと戦っているという安心感まで与えることができる。まさにWin-Winの関係というわけである。
また、もし問題が発生しても多少は気にしない。そもそも第一回と銘打っているものの、第二回を開催する予定はない。この手の祭りは
「じゃあ、失礼します……ベルがどこにいるかベートさん知ってますか?」
「知ってるわけねぇだろ」
「ドチビのとこの子供? それならダンジョンに向かってるのを見たでー」
「ちょっと出かけてきます」
それだけ言い残すと、アイズは武器を持って部屋を出て行った。まさかダンジョンに今から行くつもりだろうか。いくらベルの攻略している階層を知っているとはいえ、流石に無謀ではないかとベートは思ったものの面倒くさいので止めはしない。
「ウチのアイズたんが遠くに行ってしまう……」
ロキがシクシクと泣きながらベートのほうへ視線を送る。それが嘘泣きだとわかっているのでベートは舌打ちで返す。
以前はベル許すまじと燃えていたロキではあるが、アイズとベートの話を聞いているうちに考えが変わってきた。
アイズの横に並び立っても問題のない白く純粋な心を持った少年。
この二柱の女神に対抗心を抱いているロキは思った。アイズ本人が望んでいるならばいいか、と。
──いやまぁアイズたんをくれてやる訳じゃないけどそれはそれこれはこれという訳で仲良くお友達になって一緒に遊びに行ってレベルもアイズたんと並ぶくらいに成長するなら考えてもやらんことは無い……いややっぱりちゃんとあいさつに来させないといけないかな! フィンたちと面談しないと
◇◇
翌日、町を散策していたベートは何時ものごとくリューに捕らわれて『豊穣の女主人』に足を運んでいた。ベートもそろそろ来ると思っていたので文句を言わずに大人しく席に着く。
「……んで、どうなったんだ」
「それが……」
ベートの正面に座ったリューがぽつぽつと話し始める。
ベルを
「【剣姫】は前回ベルの訓練相手をしたのならば、今回は私に譲るべきではないかと思うのですが」
「……………………ハァ」
見事な理論武装に、さしものベートもため息をつく。何がすごいかといえば、昨夜ダンジョンから帰ってきたアイズも同じようなことをベートに言ってきたことである。確か、アイズの理論は『私は二回目だからリオンさんよりも上手に教えられる』だったか。まぁ、どちらの言い分もわからないことはない。問題は、それをベートに伝えられても困るということだ。ベートはベルの保護者ではないし、どちらが教えようとベルが勝つならば問題はない。
「【剣姫】に私の意見を伝えに行っても、『私の方が強い』の一点張りで話になりません」
だから貴方をこうして呼んだのです、とリューは至極真面目に言う。確かにアイズなら言いそうだ。人にものを教えるときに必要なのは圧倒的な実力ではなく、教え方や言葉なのだがそんなものに屈するアイズではない。ベルならば自分の言いたいことを理解してくれると信じているのだ。
そろそろ、この役割をレフィーヤに押し付けようかとベートは本気で思うようになってきた。これならばヒュアキントスと愚痴を言い合っていた方がよほど楽しいのではないか? なんて思考まで出てくる始末だ。
いや、でも多分それは楽しくないかなと思い直して口を開く。
「俺はどっちが受け持とうと興味ねぇ。だから」
「……だから?」
「運試しで決めるぞ」
ヤケクソである。
◇◇
その日の夜、同じく『豊穣の女主人』に集まったリューとアイズ、そしてベートは一つのテーブルを囲んで座る。
ベートの手には先ほど買ったトランプが握られていた。これから起こるであろう出来事にリューは得心して小さく声を漏らし、アイズはクエスチョンマークを頭に浮かべた。
「今からコイツで勝負してもらう。ルールはそっちで勝手に決めてやれ」
「では、ポーカーなどどうでしょう」
これなら勝てると、すかさずリューが言う。ファミリアにいる手癖の悪い
「……それ、やったことない。ババ抜きじゃ、ダメですか?」
「……仕方ありませんね」
(狡いことばっかじゃねぇか!)
ドン引きするベートの横でアイズが小さく拳を握る。アイズもポーカーの経験くらいある。何度かフィンたち幹部のメンバーで集まった時にやったことがあるからだ。アイズもポーカーフェイスは出来るはずなのに何故かとてつもなく弱いだけでルールもしっかり把握してる。
つまり、アイズはポーカーをやったことがないのではなく、
(自分が勝つような勝負を)やったことがないのだ。
それに比べてババ抜きなら、ポーカーフェイスを意識して無心で引いていけば特に技術がなくとも勝てる勝負だ。
無表情のアイズに気付かず、リューはババ抜きの準備を進めていく。
「ではもう一度ここで確認を。勝者がベルと訓練する権利を得て、敗者はこの催しが終わるまで二人で訓練を行わない、と」
「……わかりました」
「屁理屈をこねられても困りますから、もう少し詳しく──」
「いいから早くやりやがれ!」
◇◇
「──私の勝ち、ですね」
「──そんな……」
馬鹿な、とアイズが膝をつく。手には主神にどこか似た
目を離す隙も無いほど早く、運命は決定した。それも原因は──
「アイズよォ、お前どんだけ弱いんだよ」
「……そうですね。ここまですんなりいくのは中々起こりません」
偏にアイズが弱かったからだ。リューが持つジョーカーを的確に引く能力。手元から離れたジョーカーが次の番には自分の手札に帰ってきていた。もう逆に凄いレベルである。無心で札を引いていてコレは最早奇跡。なぜババ抜きを選んだのか分からなくなってくる。
初めはイカサマする気満々だったリューも少し申し訳なさそうにしている。だが、リューもファミリア内での会議をサボって参上している身である。そう簡単に譲るわけにはいかない。
「ま、まあ、勝負は私の勝ちですのでベルとは私が訓練します。……あの【剣姫】……大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないっ……」
そう言い残してアイズはとぼとぼと店を後にした。こちらに見せた背中が少し悲しそうだったのは間違いではないだろう。とはいえ、もともとこういう約束なので仕方ない。あの鬱憤は恐らくダンジョンでモンスターにぶつけるに違いない。
ベートからすれば、二人で教えたら良いんじゃねぇのか、とか色々言いたいことは出てくるのだが、それは駄目らしい。なんとも難しいものだ。
「あー! リオンはっけーん!」
「アリーゼ、どうしたのですか?」
「良いことを教えに来たのよ! 喜びなさいリオン!」
トランプの回収を行っているところに【アストレア・ファミリア】団長のアリーゼがやって来た。頬はやや上気し、急いでやって来たことが見てとれた。
「前にね、もうすぐ遠征に行かないと行けないって話をしてたじゃない? いつ行こうか悩んでたらベルが大会に出るらしいじゃない! だからね──ベルの戦いの前に遠征へ行こうと思ったの!」
ピシリ、とリューが固まった。
「ア、アリーゼ。もう一度お願いします」
「だーかーら、三日後に遠征に行くのよ! 『深層』の未到達領域まで一直線ー!」
もう書類もギルドに出してきちゃったー、とニコニコ笑うアリーゼに今度こそリューが完全に停止した。『深層』までの遠征ともなれば数日で帰って来れるものでは無い。それが分かっているからだ。
遠征は高位のファミリアにとって義務である。破れば重いペナルティが課せられる。別にリュー一人ならば行かなくてもペナルティに接触することは無いが、それは出来ない。『深層』とは未知の領域──何が起こるか分からない本物の地獄だ。リューが居るかいないかではファミリアの生存率は段違いとなる。
「な、何故もっと早くに相談してくれなかったのですか!」
「だってリオン集まりに来なかったじゃない」
「な──」
痛いところを突かれてとうとうリューが屈する。せっかく纏めたトランプはリューの手から落とされ、再びバラバラになった。
蒼白になったリューの顔から雫が零れたのをベートは見て見ぬ振りした。
「なら俺からアイズに言っといてやるから、てめぇはとっとと遠征の準備でもして来いよ」
その言葉に嘲りはなかった。ちょっと見てられない。顔を背けたのはベートに残った良心故か。
幸福の絶頂から地獄のどん底まで突き落とされたかのような人間を、こんな下らないことで目にするとは思ってなかった。
「──待ってください」
リューが消えそうな声でベートを呼び止める。ベートがリューに向き合うと、リューは胡乱な瞳に、やはり涙を貯めていた。
「彼女にベルを任せる訳には行きません」
「……なら誰がやるっつーんだ」
「貴方です」
「………………アァ?」
「
「はぁ!?」
────死なば諸共。リューの決断にベートは頓狂な声を上げた。
──机に散らばっている道化の札だけが彼らを嗤っていた。
ベート・ローガ:賭け事とかやらないけどめっちゃ出来る。ファミリアでやるならフィンとリヴェリアの次に強い(当社比)
リュー・リオン:そこそこ強い。涙を堪えてるのかわいい。かわいそう。ベル関連で会議をサボることがある。怒りの遠征へ
アイズ・ヴァレンタイン:びっくりするほど弱い。やはり運命は自らの手で勝ち取らねば。怒りのダンジョンへ
ベル・クラネル:出番が中々やってこない。これも逆行って奴が悪いんだ
アリーゼ・ローヴェル:悪意0%で遠征を決めた人。楽しみの前に面倒事を済まそうとしただけ。輝夜たちの意見を取り入れたらすぐ行くことになった