遡るは時の流れ   作:タイムマシン

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ありがとうございます(唐突な感謝)
次かその次くらいでイベントは終わらせる予定です
ちょっと戦闘シーン書くの疲れるので閑話的なのを一つ





酒場の少女から見た冒険者たち

「ほら、シル! サボってんじゃないよ!!」

「サボってなんかいませ~ん!」

 

 店長の張り上げられた声にまだ幼さの残った少女が返事をする。

 夜のとばりが落ちてきた頃、『豊穣の女主人』は最も忙しい時間帯を迎える。エルフにドワーフ、小人族(パルゥム)人間(ヒューマン)果てには獣人と全ての種族が酒を煽り、互いのジョッキを鳴らしながら一日を締めくくるのだ。

 

 ギルドがあり、『冒険者通り』と呼ばれる通りの近くに存在するこの店には、ダンジョン帰りの冒険者がそのままなだれ込んでくる。生きるか死ぬかの間を常にさまよう冒険者たちにとって、生を実感できる欲求を満たすことは明日以降への活力にもなる。ここで働く少女──シル・フローヴァはそんな彼らを見ているのが好きであったし、話に混ざって冒険譚を聞くのも大好きだった。

 とはいえ、今夜はどうも勝手が違った。

 

「ミア母さん、人が多すぎますー!」

「ごちゃごちゃ言う前に手を動かしなぁ!」

 

 どういうわけか、非常に忙しい。席が満席なのはこの時間帯ならよくあることだ。だが、注文のペースがいつもより速い。注文を取ったかと思えば、他のテーブルの注文が飛んでくる。それを承ったら次はまた他のテーブルの注文が……といった風に休む暇がない。これでは冒険者の話を聞くどころではない。店長であるミアは厨房にかかりっきりで、腕が四本にも六本にも見えるほど忙しなく働いていた。

 

 まさにネコの手でも借りたい状況。シルだけでなく、他の従業員(ウェイトレス)も小さく悲鳴を上げている時だった。一人の少女が現れたのは。

 

「あの……宜しけば、少し手伝いましょうか?」

「いいんですか!?」

 

 項垂れていた頭をガバッと上げる。目の前には自分と同じ年頃の少女がいた。緑を基調にした軽装、剣を携えているところを見るに彼女も冒険者か。耳はちょこんと尖っていて、エルフだと一目見て理解する。

 どうやら【ファミリア】1団で来たらしく、後ろにも見目麗しい少女たちが並んでいた。どこかで見たことがあるのだろうか、高名な冒険者かもしれないと思ったが、パッと思い当たらない。

 

「……ええ、この時間は忙しいでしょうし」

「ありがとうございます!」

 

 申し出が嬉しくて、思わず目の前にいた少女の手を両手で握る。手を握られたエルフの少女は驚いたように身体を震わせたが、直ぐに柔らかな笑みを浮かべて手を握り返した。そんな少女の様子に驚いたのは後ろに控えていた者たちだ。

 

「あら、リオンいいの?」

「はい、大丈夫です」

「リオンさん、と言うんですね!」

 

 そうシルが問いかけると、少女は緩やかに首を振った。

 

「……はい、私の名前はリュー・リオン。ですが、貴女には是非ともリューと呼んで欲しい」

 

 敬語も不要です、とリューが頬を緩ませる。シルもつられて笑った。

 

「私はシル、シル・フローヴァ。よろしくね、リュー!」

 

 もう4年も前の話になる、少女たちの出会いだ。

 

 

 ◇◇

 

 

 その一件を境に、リューとシルは交流を交わすようになった。マスクの裏にある素顔を見たときは、たいそう美人だと驚いたが──もともとエルフという種族は美形で知られているので、当然といえば当然なのだが──一番の驚きはリューがあの【疾風】だったということだ。

 

 常に覆面(マスク)で顔を隠し、一般には本名すら知られていない【疾風】のリオン。そんな凄腕の冒険者がシルと同年代だと誰が予想できようか。シルはてっきり、孤高を求めている冒険者だとでも思っていたので、シルの前で見せる人懐っこい笑顔を見て、頭の中にあった【疾風】像が音を立てて崩れていった。

 この話を彼女と同じファミリアの眷属に話すと、彼女たちは目を見開き、シルは特別なのだと笑って語ってくれた。

 

 ──ということをリューに伝えてみれば、彼女は顔を赤くして。シルはますます嬉しくなった。

 

 リューたちは自分たちの本職(ダンジョン攻略)があるにも関わらず、定期的に店の手伝いを無償で行ってくれるようになった。他ならぬリューが言い出したことだ。ミアとしてもタダ働きの人員が増えることはやぶさかではなく、二つ返事で了承した。

 高名な美人冒険者が働いているということで店はますます繁盛し、結果的には対して忙しさは変わらなかったのだが、それはまぁご愛嬌というものだろう。

 

 ──そして時はあっという間に流れる。

 

 

 

 4年が経過した。強くて凛々しくて、それでいてどこか抜けている所もあった可愛らしいエルフの少女は、

 

「……ベル、美味しいですか?」

「はい、すごく美味しいです!」

(リュー……)

 

 色ボケていた。あまりの変わりように2度見するレベルで。彼女の名誉のために、もう少しオブラートに包むならば、恋に落ちていた。

 今もご飯を美味しそうに頬張る少年の手を握ろうかどうかで逡巡している少女は、どこからどう見ても恋真っ只中だ。ちなみに、彼女の料理はまだまだ店で出すには躊躇われるので、ミアが作った料理が出されている。

 

「あの、あのですね……」

「リューさん?」

「い、いえ! なんでもありません」

 

 シルは少し前から変な相談をリューから受けていた。あまり要領を得ない話だったので思うようにやればいいと言ったのだが、その結果がコレだと直感的に理解する。純粋そうな少年よりも顔を赤くしている初心なエルフがそこには居た。

 

 少年の名前はベルと言うらしい。リューとの会話に耳をそばだてていると、まだオラリオに来たばかりの新人(ルーキー)らしい。ならば、リューはこの一、二ヶ月の間に少年と出会って恋をしたことになる。

 

 人を好きになるのに時間は関係ないと言うが、それにしても接点が少なすぎではないだろうか。片や田舎からでてきたばかりのルーキー。片や、オラリオでも名の知れた第一級冒険者。もしや一目惚れかと勘ぐったものの、リューはそういう(エルフ)だったかと自問自答する。少なくとも面食いなどではないはずだ。

 

(ダンジョンで出会ったのかな……?)

 

 そうに違いないと結論付けた。命をかけたダンジョンではその人間の真価が問われる。きっとリューのお眼鏡にこの少年はかなったのだ。

 リューが選んだ人ならばシルも文句はない。だが、だからといってすんなり認めるかと言えば、そういうわけではない。親友として少年の性根を見定めねば。そう決心してシルは少年を目で追うようになった。

 

 

 ◇◆

 

 

 少年はよく『豊穣の女主人』を訪れた。一人で来ることは滅多になく、周りには彼の主神や一緒にダンジョンに挑んでいる仲間がいた。少年もその周りに居る者も、活発で明るくて、善良な人間だ。──少年のそばにいた小人族(パルゥム)の少女は少し事情が違ったが。

 少年に直接想いを訪ねたわけではないので──リューが居るときは二人きりで会話をするチャンスがなかなか与えられなかったため──、彼がリューのことをどう思っているのかは知らないが、様子を見ている限りでは、それが恋慕かは置いておいて向こうも憎からず思っているだろう。

 では、これで一安心か。そう思っていた矢先、シルはベルを目撃した。

 

 ──【剣姫】と仲良く手をつないで歩いている場面を! 

 

 

 

「ベルさぁぁん? どういうことですかぁ?」

「シ、シルさん……?」

「リューという人が居ながら何をしてるんですかぁ?」

「────」

 

 その日の夜、ベルを補足したシルはそのまま彼を店にまで連れ込んだ。

 年上の女性に迫られてベルが思わず後ずさる。この時に催されていたイベントは【怪物祭(モンスターフィリア)】。見世物としてはよくできていて、若い男女で見に行くとあればなかなか良い選択だといえる。現に、【怪物祭(モンスターフィリア)】を見に行ったシルも、そういった若いカップルを見て淡い憧れを抱いたりしたのだから。

 しかし、それが親友の想い人と別の女性が歩いていれば話は別だ。リューを袖にするなど許すまじ。場合によっては()()をする必要もある。鬼気迫った顔のシルに気圧されて、ベルが慌てて弁明しだす。

 

「ち、違うんです! アイズさんとは……」

「アイズさん……? 随分と仲がよろしいようで……」

 

 ヒュ、とベルの息をのんだ声が聞こえた。ハーレムか、ハーレムでも作ろうというのか? 

 その後もベルがここにいるという情報を手にしたアイズとリューが訪れるまで、ベルはたっぷりとシルに絞られるのであった。

 

 

 ◇◇

 

 

 それから二か月ほどが経過し、新たな催しがもう間もなく開催される頃になると、ベルと行動する人間が変わった。件の小人族(パルゥム)の少女や赤髪の人間(ヒューマン)──名前はリリとヴェルフらしい──とは変わらず行動を共にするものの、リューとアイズがベルのそばにいなくなったのだ。リューは遠征に赴いているから当然とはいえ、アイズまでもが近づかないのはシルの目には不自然に映った。高度な恋愛頭脳戦は一般の人間には知られていないのだ。

 

 その二人の代わりに行動を共にするようになったのは【ロキ・ファミリア】のLv6、【凶狼(ヴァナルガンド)】ベート・ローガだ。最近、アイズやリューとこそこそしているのは見かけていたが、何の話をしているのか聞いても教えてくれなかったし、とてもじゃないが馬が合うとは思えなかった。

 しかし、案外そうでもないようで、ベートはベルの兄貴分のような存在になりつつあった。今もこうして二人で食事に来る程度には仲がいい。史上最速でランクアップを果たした世界最速兎(ルーキー)は、高レベル冒険者の琴線に触れる逸材らしい。

 僅か一ヵ月で器を昇華させるという快挙に、同業者からの嫉妬ややっかみもあったものの、ベートの前ではそんなものは形無しだ。

 

 

「ベートさん、ベートさん!」

「あァ? んだよ」

「僕、【ステイタス】が全部S()()になりました!」

「ハァ!?」

 

 ベートが口に含んでいた飲み物を思いっきりぶちまける。シルも慌てて周りを見渡した。幸いにもまだ時間は昼過ぎで、二人以外に客はいない。ベートも同じ考えだったのか、あたりを確認したあと大きく息を吐いた。これが夜なら今頃とんでもない事態になっていたかもしれない。今のオラリオで、良くも悪くも一番注目を集めているのが自分だとベルは正確に理解できていないのだ。

 

 ベートがすっと手を伸ばしたのを見て、ベルが顔を近づける。そのまま無骨な手で頭を撫でる────ようなことはなく、額にデコピンをお見舞いする。

 

「痛っ」

「テメェ、いつか痛い目見るぞ」

「?」

 

 目を白黒させるベルに、ベートは大きなため息をついて席を立った。金を机に置いて店を出る。ベルも追従して出口に足を進める。

 

「それじゃあ、シルさんさよなら!」

「はい、気を付けてくださいね」

 

 シルは二人を見送ったあと、闘技場(コロシアム)の方角へ視線を送る。少年はあそこで格上──Lv3の冒険者と戦うことになったらしい。シルも二人には何か因縁があることは前の事件で分かっている。

 とはいえ、ベルは彼に勝てるのだろうか。リューもアイズも自信満々に勝てるといっていたが、常識的な立場から言わせてもらえば勝ち目は限りなくゼロに近いように思えた。

 いくら少年が異常ともいえる速度で成長していても、レベルの差というのは絶対的だ。

 

「ベルさん……」

 

 ふるふると首を振る。結局自分にできるのは信じることだけなのだ。もうすぐ遠征から帰ってくるリューと、当日は応援に行こう。何故かリューは既に特等席を手に入れているらしい。勝てたらいっぱい褒めてあげて、負けても慰めたらいい。

 

 

 ────激突の日まで、あと七日。

 

 

 

 




ベート・ローガ:個人情報保護しないと(使命感)

ベル・クラネル:すでに【ステイタス】評価が最低Sのバグキャラ。懸想パワーがなくとも師匠が合っていれば何とかなるの精神

シル・フローヴァ:原作でも謎の多い女の子。色々言われてるけど今作では訳あり少女くらいのイメージ。ベルにちょっかいだそうとするとリューの目が怖い。

リュー・リオン:今度は自分から歩み寄った。ぽんこつかわいい
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