鶴が恩返ししないんだが   作:エタリオウ

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 明日はホワイトデーですね。
 皆さん、母や姉妹にお返しを考えているでしょうか。作者は5円チョコやチロルチョコ辺りを叩きつけるつもりです。えっ、安い? 知るか。


なにお前顔赤らめてんだよ

 その日も昨日と同じく、鳥のやかましい(さえず)りにより意識が浮上した。いや、状況は昨日よりも酷い。

 

 チュンチュン、と鳴く鳥がいるのだ。昨日はプテラノドンの耳を塞ぎたくなるような歌声で目覚めたが、今日はお互いがお互いの声を覆い被すかのように(わめ)いている。

 

 別段詳しいわけでもないが、チュンと鳴く鳥は僕でも知っている。スズメ(雀、すずめ、学名 Passer montanus )だ。スズメ目スズメ科スズメ属に分類される鳥類の1種で、人家の近くに生息する……だったっけな?

 

 僕は一応、鳥の中ならスズメが一番好きだったりする。どのくらい好きかというと、修学旅行で京都に行った時、スズメの焼き鳥を見て少し悲しくなったくらいだ。ちなみに蜂ならスズメバチが強いから好き。

 

 しかし、今日は鳥の間で合唱コンクールでも開催されているのだろうか?

 

 合唱コンクールと言えば、合唱練習中に壇の上から突き落とされたトラウマを思い出す。思えばあのとき見たのが、僕の記念すべき初走馬灯(そうまとう)だったな……。今ではいい思い出だ。良くはないか。

 

 そんなクソどうでもいい回想を挟んで、ようやく僕は布団の魔の手から脱出する。布団を羽織りながら生活したいとは、きっと誰しも一度は願ったことがあるだろう。

 

 いや待てよ? 誰もが一度は願ったことがあるのなら、それを実現できたら大儲けできるんじゃないか? これについては要検討だな。

 

 

 

 

 鶴さん改め鷺さんの正体を知ったところで、特に僕の日常が変わるわけではなかった。

 能天気な僕の前では、鶴と鷺なぞ些細な問題でしかないのだ。いや、だってどちらにしろ今は人間の姿をしているわけだし……。

 

 何処かから常人ならまず鷺が人間に化けてるあたり気にする、とツッコミが入った気がするがスルーして行こう。細かいことを気にする男はモテないらしい(気にしなければモテるとは言っていない)。

 

 と、変わらない僕の日常に突如として異変が起きたのは、学校に着いてからすぐのことだった。

 

「おはよう」

 

 たった一声だ。たかだか隣の席の女子が挨拶をしてきただけ。しかし、それだけのことが今までの僕の日常にはなかったのだ。

 

 もしかして他の人に向けて言ったのかな、と思って周りを見渡すが、それらしき人影はない。やっぱり僕に挨拶をしたのだろうか。

 

 いや、一人だけいるにはいる。

 僕の前の席に、顔が厳つくて、筋肉モリモリで、背が高い。典型的な大柄の男子生徒が座っているが、それよりはまだ僕に向けて挨拶をしたと考えた方がありえる。失礼だが(自惚れが過ぎるぞ)。

 

「……おはようさん」

 

 そこまで考えて、僕は無難に挨拶を返した。

 

 変に着飾って引かれでもしたら、何分(なにぶん)席が隣なもんで気まずいったらありゃしない。

 それに女子の情報網は国境を越えるのだ。ここで白けるような挨拶をしたら、忽ち僕は世界中で腫れもの扱いとなる。

 

「ふふっ」

 

 そんな捻りもない返しに、挨拶をしてきた女生徒は何が面白いのか微笑みを湛える。水泳でもやっているのか、黒が薄まった茶色の髪がちょうど雀の毛色のようで愛らしく思えた。

 

 そういえば、髪型も僕の好みのボブカットだ。ボブとか筋肉モリモリマッチョマンの変態みたいな名前しといて、蓋を開けてみれば普通に可愛いらしいのが堪らなく面白いよね。

 いやぁ、なぜ今まで気づかなかったのだろう。相変わらずの自分の見識の狭さに嫌になる。

 

 ため息を吐きながら顔を正面に戻す。

 

 しっかし一体どうして今日に限って挨拶してきたのだろう? 機嫌でもよかったのかな? とぼんやり考えていると、僕の視界に目を見張るものが映り込んだ。

 

 前の席の男子――名前は松井というが、その彼が図鑑を広げて読んでいたのだ。いや、人の趣味にとやかく言うつもりはないけどさ、そのぶっとい体で図鑑とか読んじゃう?

 

 ギャップ萌え、感じちゃうじゃん……?

 

 

 

 

 昼休み、僕は唐揚げが詰まった弁当(唐揚げは嫌いじゃないけど、流石にご飯を詰めるべき場所にも唐揚げはどうかと思う)を食べ終えてそうそうに、図書室へと足を運んでいた。

 

 教室に居づらくなったとか悲しい理由ではなく、単純に調べごとがあるのだ。といっても、ただ今朝の鳴き声の正体が知りたいだけなのだが。

 

「えーっと……」

 

 図書室には教室に居づらくなったときによく寄るので、だいたいの構造は把握している。確か壁際の本棚にハリーホ◯ッターや図鑑などの分厚い本が集まっていたはずだ。

 

 分かっているのなら話は早く、目当ての本はザッと目を通すだけで見つけることが出来た。

 

 早速、高めの棚に入っている鳥類図鑑に背伸びして手を伸ばす。

 

「「あっ」」

 

 そのとき、全く同時に違う誰かの手が伸びてきて、お互いの手と手が重なり合った。大袈裟なほど心臓が跳ね上がり、思わずサッと素早く体に手を引き戻す。

 お決まりのように、発した言葉はハモっていた。

 

 一瞬遅れてハッとする。もしやこれが、都市伝説にも近いあのラブコメ展開というやつだろうか……! 

 

 期待せずにはいられない。さらに鼓動を早める胸をよそに、僕はそっと前を見た。

 ……不良のような厳つい面をした、イイ男だ。クソがッ!

 

 というか、よく見たら前の席の松井だった。

 ……ん? なにお前顔赤らめてんだよ。始まんねえよ? 絶対に、ここからラブコメ始まんねえかんなっ! ……始めないよね?




 松井と聞くと、作者は小学校の教科書に載っていた『白いぼうし』を思い出します。覚えている方はいるだろうか……。
 はい。作者が考えると、こんな平々凡々な名前になってしまうので、他のキャラクターの名前の案とかいただけるとありがたいです。

 バトル? ちゃんと最初に鷺と雀が歌声勝負してましたよね?(そんなん後書き詐欺やん!)……いや、すみません。本当にこの小説バトルにする気なかったんで、いろいろ考えた結果こうなりました。
 一応ボツとなったやつは活動報告に載っけときます。

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