今朝もまた、やかましい鳥のさえずりに叩き起こされた。
いや、状況は昨日よりひどいと言っていい。
他にもチュンチュンという鳴き声が混ざっているのだ。
昨日はプテラノドンが断末魔を上げているような鳴き声で目覚めたが、今日はチュンとプテラがお互いの声をかき消さんばかりに喚き散らかしている。
別段詳しいわけでもないが、チュンと鳴く鳥は僕でも知っている。スズメ(雀、すずめ、学名 Passer montanus )だ。スズメ目スズメ科スズメ属に分類される鳥類の1種で、人家の近くに生息する……だっけな?
一応、僕は鳥の中なら雀が一番好きだったりする。
どのくらい好きかと問われれば、修学旅行で京都を訪れた際、屋台の雀の焼き鳥を見て胸が痛んだくらいだ。
蜂ならスズメバチが強いから好き。
しかし、今日は鳥たちの間で合唱コンクールでも開催されているのだろうか?
一羽でもやかましいというのに、二羽で喚かれてはアルマゲドンだ。
合唱コンクールといえば、練習中に壇の上から突き落とされたこともあったっけ? 思えばあのとき見たのが、僕の記念すべき初走馬灯だったな。今となっては良い思い出だ。
そんなクソどうでもいい回想を挟んで、僕はようやく布団の魔の手から脱出する。
布団を羽織りながら一生を終えたいと、きっと誰しも一度は願ったことだろう。だから大丈夫、君は間違ってない。
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鶴さん改め鷺さんが鷺だったと知ったところで、特に僕の日常が変わることはなかった。
僕の能天気さの前では、些細な問題でしかなかったのだ。いや、だって今は人間の姿をしているわけだし……。
まず人間に化けてるあたり気にしろよ、というツッコミが聞こえた気がするがスルーして行こう。細かいことを気にする男はモテないらしいからね。
そんないつも通りの日常に異変が起きたのは、学校に着いてすぐのことだった。
「おはよう」
ただ一言。たかだか隣の席の女子が挨拶をしてきただけ。
だけどお恥ずかしながら、そんな些細なことすら僕にとっては天地がひっくり返るような一大事なのだ。
あまりに挨拶経験がないせいで、他の人に向けられた言葉なのかなと勘ぐってしまった。きょろきょろと周りを見渡すが、それらしき人影はない。
やっぱり、僕に挨拶しているのだろうか?
いや、一人だけいるっちゃいる。
すぐ前の席に、顔が厳つくて、筋肉が制服を弾き飛ばしそうなほど隆起した大柄な男子生徒が座っている。だけど、彼よりはまだ僕に挨拶をしたと考えた方が可能性があった。彼には失礼だが。
しかし、まずいな。
皆さんはご存知ないだろうが、挨拶には賞味期限がある。
だいたい五秒程度で返さなければ、「は? なんだこいつ?」となり挨拶は不成立になってしまうのだ。
考え事をしていたせいで、既に三秒ほど経ってしまっている。
なんでもいいから早く返さなければ!
「おはよぉぉ〜〜♡ 今日も素敵だね♡」
そこまで考えて、僕は無難に挨拶を返した。
僕は自他ともに認める冷静沈着な男だから、突然クラスメイトから挨拶されたからってテンパったりしない。
それにここで変に好かれようとして引かれでもしたら最悪だ。
席が隣なもんだから、一日中気まずさを感じなければならない。シンプルイズベストとはよくぞ言ったものである。
「あはっ、そう思ってくれてたんだ?」
僕の何一つ無難ではない返しに対して、彼女は口を三日月のようにして歪めた笑みを浮かべる。
なぜだろう。その瞳の奥に、ねっとりとした澱のようなものを感じて、背筋が少しだけ粟立った。
対人経験のなさすぎる僕には、この後どうすればいいのか分からない。
気の利いた談笑で楽しませるようなスキルはないし、お金もないし力もないし、地位も名誉もない。ははは、と曖昧に笑って、強制的に話を切り上げた。
髪型……。そういえば、僕の好きなボブカットだったな。
ボブとかいう筋肉モリモリマッチョマンの変態みたいな名前しといて、普通に可愛らしいところが堪らなく面白いと思う。
ただ、さっきの笑い方だけは、少しだけ引っかかった。
初めて話した相手を見る目にしては、妙に楽しそうだったからだ。
まあ、気のせいだろう。
あまりクラスメイトと関わろうとしていなかったせいか、僕は彼女の雰囲気すらろくに知らなかったのだ。相変わらずの見識の狭さが嫌になるな。
ため息を吐きながら顔を正面に戻す。
しかし、どうして今日に限って挨拶してきたのだろう? 機嫌でもよかったのかな?
なんてぼんやり考えていると、僕の目にとんでもない光景が飛び込んできた。
前の席の男子――名前は松井というが、その彼が図鑑を広げて読んでいたのだ。
いや、人の趣味にとやかく言うつもりはないよ。ないけどさ。そんなにぶっとい体しといて、図鑑とか読んじゃうの?
ギャップ萌え、感じちゃうじゃん……?
□
昼休み。僕は鷺さんお手製の唐揚げ弁当(唐揚げは嫌いじゃないけど、流石に白米を詰めるべきスペースまでみっちり唐揚げで埋め尽くすのはどうかと思う)を食べ終えてそうそうに、図書室へと足を運んでいた。
教室に居づらくなったとかいう悲しい理由ではなく、単純に調べごとがあったのだ。
とはいっても、最近モーニングロックフェスティバルを開催している不届き者がなんて鳥なのか知りたいってだけなのだが。
「えっと、図鑑の場所はたしか……」
図書室には教室に居づらくなったときによく寄るので、だいたいの構造は把握している。
確か壁際の本棚に、ハリーポッターや図鑑といった鈍器になりそうな分厚い本が集まっていたはずだ。
場所が分かっているのなら話は早い。目当ての本は簡単に見つけ出すことが出来た。
やや高めの棚に鎮座する図鑑へ、背伸びをして手を伸ばす。
「「あっ」」
そのときだった。全く同時に違う誰かの手が横から伸びてきて、お互いの指先が重なり合った。
大袈裟なほど心臓が跳ね上がり、さっと体を引く。
お決まりのように、発した言葉は見事にハモっていた。
一瞬遅れて、はっとする。
本を取ろうとして手が触れ合ってしまう。こんな王道展開、ボーイミーツガールを期待せずにはいられない。
心臓の鼓動が早まり、BPM190に達する。
淡い期待を胸に、僕はそっと手の主を見た。
不良のような厳つい面をした、イイ男だった。クソが!
はいはい、なんか途中からそんな気はしてたよ。
手に触れた感触が、どう考えても女の子の柔らかさじゃなくて鋼鉄の塊だったもんね。
僕に限って、運命的出会いからの素敵な恋愛なんて王道コンボは繋がらないんだ。
というか、よく見たら前の席の筋肉モリモリマッチョマンの松井じゃないか。ギャップ萌えの達人の。
ん? なにお前ちょっと顔赤らめてんだよ。
始まんねえよ? ここからラブコメなんて始まんねえかんなっ!
えっ、始めない……よね?
一番好きなヒロインは?
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大鳥鷺里
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夜鳥雀
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小鳥遊凰佳
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黒羽美烏
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松井ぽっぽ