AI   作:海沈生物

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四分の一
#1


 ここは河野高校の図書館。学校のパンフレットに”蔵書数三万冊!”と銘打っている高校だけあり、かなり広い。

本棚も数列整然と並んでおり、中にはぎっしりと古今東西の古本が詰まっていた。また、窓辺には勉強スペースも完備されており、大きな机が三つ、椅子と共に並んでいた。

そんな図書館の最奥部。外国文学の原書が詰められたその列の前に、目をキラキラと輝かせて本を選ぶ蒼髪の少女がいた。深海みたいな蒼をしたサラサラの髪はとても美しく、見るものを魅了させること間違いなしと思われた。

 

「……あっ。あった」

 

 温かな感情を内包した声を漏らし、その少女は本棚の上段右端の本に手を伸ばした。それは赤い表紙の、片手だと少し重いぐらいのサイズの本だった。ガタンと音を立てて少女はその本を取り出す。少女が本の表を見ると、「Old Story」と刷られていた。筆者名は不明なのか書かれていないことも相俟って、近年のライトノベル作品の表紙と比べると、かなりインパクトに欠ける表紙のデザインであると思われた。本を取り出した少女は、それが思っていたものであると再確認すると、両手に抱いてカウンターへと持って行った。

 

「これ、貸してください」

 

 本の世界に入り込んでいた女子生徒は一テンポ遅れてその声に気付くと、すいませんと軽く謝った。慣れた手つきで貸し出し処理を行うと、本の一番最後のページに返却日のハンコを押した。

 

「5月15日返却です。…その短編集、二つ目の”Evening”という話が、繊細優美な語り口調で癒されますよ」

 

「…あ、ありがとう」

 

 女子生徒に軽く会釈すると、少女は本を持ったまま教室へと帰った。図書館の窓の向こうでは、花を落とした桜が木漏れ日を広げ始めていた。

 

# # #

 少女が教室に帰ってくると、教室は幾つかのグループが楽し気に語らい合っていた。ある男子のグループからはスマホゲームの話、ある女子のグループからは来週末にある中間試験の話が聞こえてきた。どこのグループに所属している訳でもない少女はその喧騒の中を潜り抜けると、自分の椅子にストンと座った。ふぅと一息つくと、少女は借りてきた本の一ページ目を、まるで宝箱でも開けるように開けた。中には白と黒と黄ばみがあった。しかし、少女の目にはそこにもう一つの世界が見えていた。始めの話のタイトル”LOVE"。その下にダラダラと文字が書き連ねられてあった。もし英語と本が三度の飯より嫌いな人が見たならば、拒否反応で燃やしてしまうだろう。ただ何度でも言うが、少女にとってこの本は宝物のようなものである。彼女は心を飛び跳ねさせて、黙々と読み進めていく。周りの生徒はその異様な姿を別段気にしない。いや全くという訳ではないが、もう見慣れていた。

 

(また雨宮さん本読んでるよ。しかも英語の原書)

 

 誰も彼もがそう思っていたが、決して口に出すことはなかった。なぜなら、彼女に関わると”面倒”だからだ。噛み砕いて言えば、彼女は極度の人嫌いなのだ。本を嗜む人とはまともに会話できるが、それ以外とはからっきしだった。先生の中でも文系の先生とは話せるが、理系の先生とは話せない。もちろん生徒も例外ではなく、文系ではないクラスメートとも話せなかった。…ただ、唯一一人を除いて。

 

「アイアイー!こんこんちー!」

 

「……こんにちは、本条さん」

 

 目の前の女子生徒はムッと頬を膨らませた。

 

「もぉ!アイアイ、いつも紗耶っちって呼んでって言ってるでしょー!」

 

「……そんなことより、昼登校って貴方の腹時計は狂ってるの?」

 

「えっとね…ゲームセンターでぬいぐるみを乱獲していて、気が付いたら十一時だったの!本当に焦ったよ!」

 

 少女はため息をつく。目の前のオレンジ髪の本条紗耶香に呆れたわけではない。本の世界に入り込んで精神の休憩をしていた彼女を、無理矢理心休まらない現実の世界に引き戻されたことに呆れているのだ。

 

「……貴方らしいわね。でも、程々にしないと進級できなくなるわよ?」

 

「えへへ……まぁ私、テストの点数だけはいいから、大丈夫だって!」

 

「はぁ……テストの点数”だけ”はね。……それじゃあ、本の続き読んでいいかしら?」

 

「あっ。邪魔してごめんね!全然大丈夫だよ!それじゃあね、アイアイ!」

 

 ぶんぶんと大きく手を振ると、彼女は仲の良い女子達が話す元へと向かっていった。ふぅと少女は安堵のため息をつく。これでやっと本の世界に戻れる。視線を本条から本に戻す。およそ高校生レベルとは思えないその単語達をするりするりと脳内で読み替え、自分なりの意訳で物語を読み進めていく彼女の姿はまさに”文学少女”だった。

 その後もぺらりぺらりと頁をめくって物語を楽しんでいた彼女だったが、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ったので、鞄の中に本を仕舞った。頁数を忘れないように、手の甲にマジックで”205”と書き記した。




ふろふき大根食べたい気分。
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