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ドアの向こう側の部屋に少女は既視感を感じた。ベッド、小さいちゃぶ台、空っぽのタンス。まるで引っ越し一日目のようなほど生活感のない部屋。まるで”彼女”の、本条の部屋の二重写しのように見えた。いやむしろ、”コピーされた”と言うべきか。実際にはもちろん部屋の広さは違うわけだが、部屋のレイアウトやベッドなんかの配置が同じなのだ。
「……それで、本はあるのかしら」
気になることには気になるが、レイアウトが同じなのはたまたまかも知れない。今は一刻も早い"証明"が必要なのだ。部屋を微に入り細を穿つように事細かに調べる。ベッドの下、シーツの隙間、クローゼットの中。思い当たる場所は粗方探したが、見つからなかった。もうこの部屋にはないのかしらと一瞬過ぎったが、そんなことは無いとどうにか振り払う。もしもこの部屋にないとしたら、私がたまたまでも見つけることがない場所と言えば、"あの部屋"しかないのだから。
「もう一度……もしかしたら隠し部屋があって、それで……」
壁に触れようとした瞬間、少女の身体は刹那に宙を舞った。床に叩きつけられ、声にならない声と共に痛みが骨に染み入る。
「……一度だけだ。今すぐ出ていったら、俺は何も見なかったことにしてやる」
その声には肌を凍えさせるような冷徹さが宿っていた。普段からぶっきらぼうな亜鈴だったが、今は微かに宿っていた温かさすら消え失せているように聞こえた。それでも、少女は動かなかった。今度は棚を動かそうとしたが、亜鈴が首元を掴んで止めに入った。
「聞いてんのか、おい!」
「駄目……離して!私は……私には!」
このままこの部屋にはない事実を許容してしまったなら、それは逆説的に"あの部屋"にあるということになってしまう。廃棄された可能性だって充分に有り得る。でもそれは"証明"にならないのだ。結局本条の言葉の信憑性を下げることにもならず、むしろ私が私の手でその可能性が存在することを証明してしまうのだ。亜鈴が本条を床に押し倒す。
「お前も俺も、この関係を……居場所を失いたくないんだろ?だったら頼む。どんな理由で俺の部屋に入ってきたか分からないが、今すぐ出て行ってくれ。頼む……」
亜鈴は涙を流していた。その顔はとても冷ややかだった。けれど、その声には得体の知れない温かさがあった。少女はなんともなしに、日常的に経験している感覚ーーそれはまるで”逢魔が時の温かさ"のようであるーーを感じた。
前回からの続きなんですが、お茶漬けの素を個体だけ未だに苦手なんですよ。さすがに緑の塊がしょっぱ過ぎて……まぁ懲りずに、不定期的に食べてるんだけどね