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本条の祖母の言う通り、スマホは圏外になっていた。こうなってしまえば、もうどうしようもない。少女は砂浜の上へ大の字になった。これからどうしようか、と思う。水もない、食べ物もない、そんな環境下でいつまで生き永らえることが出来るだろうか。でも、このままここで死んでしまうのも悪くないような気もする。雨上がりのむわっとした感じはあるが、時折気持ちよい風も吹いてくるし、この砂も慣れてくれば肌に気持ち良いし。それに、もう今目の前にある問題をどうにもこうにもする必要がなくなることが大きい。真実も嘘も有耶無耶になって、ただ意識だけが蕩けていくのだ。そう考えると、なんだか肩の荷が軽くなった。今頃、前野さんや亜鈴はどうしているだろうか。心配して私を探しているだろうか。でも私が死んでしまえば、二人は二人で幸せに暮らせるのだ。それは私がいない頃の二人に戻るだけで、亜鈴は前野さんを独り占めできるのだ。なんだか、自分が余計なお荷物だったような気がしてくる。
「でも……どうしてだろ。胸が少し疼くのは」
声だけが空しく砂浜に響く。誰もいないこの空間では、その答えを誰も返してくれない。もしかすると、本条の祖母の狙いは”そこ”にあったのかもしれないと少女は思った。いつも自分は孤立はしているけれど、胸の中にしっかりとした信念を持っていると思い込んでいた。でも私は”選択”出来なかったわけで。結局、私の矜持は誰かの価値観に左右される程度のものなんだ。なんだか一人で本を読んで、孤独を深めていただけの自分がただの背伸びしたかっただけの子供に思えてくる。
「でも”あの症状”がある限り、私に友達なんて……友達?」
妙な違和感を感じた。何か、私は大切なことを忘れているんじゃないだろうか。そもそも、私が”呪い”を受けて話せなくなってしまったのだろうか。あの時、私の身に起きたのが”何”だったのか。ズキッと頭が痛む。何かがおかしい。あの時の……そう、小学生の時に呪いを受けたのだ。あの頃はまだ、今よりは社交的だった。友達も少なからずいたし、毎日がキラめいていた。でもあの日……担任に呼ばれて理科の実験の補習を一人で受けに行った時に、突然私の事を押し倒して来て、それで。
「……っ!」
思い出すだけで吐きそうだが、違う、”そうじゃない”。第一に担任は確か女性だったはずだ。しかも、いつもノロケ話をしているような。だったら一体、私の記憶の中の男は誰なのか。確かあの頃、教育実習生が来ていた。少しぽっちゃりしていて、どこか皆を落ち着かせる雰囲気があって、とても博識で。
「……それって、もしかして」
頭がズキズキ痛む。そうだ、あの男は私を押し倒してきて、こう言ったんだ。
『これは復讐なんだ。あんな男と死にやがったーーーへの。ただ今は……君はまだ早い。君が高校生になった時、君は私の物語の”ヒロイン”になるんだ。私は君の大事なモノを全て奪い去り、やがて君は私以外の存在を受け入れられなくなる。君は自分で何も考えられない存在、”AI"以下の存在に成り下がるんだ。いいね?いいだろ?』
怖くて何も声が出せなかった。髪の毛に触れられる度に悪寒が走り、胸に触れられると嫌悪感で息が出来なくなった。気が付くと、いつの間にか意識を失っていた。そうだ、私は全て思い出した。その後すぐ、その教育実習生は大学の教授になるとかでどこかに行ってしまったが、あの顔は。
「……前野さん、だったんだ」
「よく分かったね、"藍ちゃん"」
「えっ?」
少女が振り返ろうとした瞬間、鈍い痛みが少女の後頭部を襲い込んだ。薄れゆく意識の中、見えていたのは"信頼していた者"の姿だった。
さて。4分の3もあと一話。内容には触れない毎度のあとがきですが、触れないのは私が物語に読者が見る"世界に対する見方"を提示したくないだけなので悪しからず。
はてさて、あと二話は何の話題?と思ったかもしれません。
私も書きながら考えています。うーん……そうだ、これにしよう。
『ということで次回に続きます』