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食後、三人はのんびりと今日読んだ本について互いに語り合った。大学で近代文学者の研究をしている前野は久方ぶりに読んだ夏目漱石の「坊ちゃん」の話を、見た目に反して本を読むことが好きな亜鈴は同じく夏目漱石の「草枕」の話を、そして少女”雨宮藍”はちょうど読んでいる作者不明の原書「Old Story」の話をした。三人ともが文学を沢山読んでいるということも相俟って、話はとても盛り上がった。例えば「草枕」のラストシーンの駅での主人公についてどう思うかだったり、坊ちゃんのストーリーのその後を妄想しあったり。ただ、少女の借りた「Old Story」だけは二人ともタイトルすら聞いたことのない作品で、少女からどんな話かを聞くことになった。少女曰く、その物語は三つの短編で構成された本であったそうだ。図書館の彼女が言っていた”Evening”の話だけ取り上げると、おおよそこんな話のようだ。
『遥か昔、昼を支配する神様が夜を支配する神様に恋をした。しかし、夜を支配する神様は夕方を支配する神様に片思いをしていた。夕方の神様の眷属は夜の神様が嫌いだったので、あの手この手を使って夜の神様と昼の神様が付き合うように誘導した。しかし健闘虚しく、夜の神様の心は不動で、絶望した昼の神様はどこかに姿を隠してしまった。しかしある日、昼の神様が隠居していた場所に夜の神様が訪ねてきた。何の用かと昼の神様が聞くと、夜の神様は何でもないと言ってそのまま帰っていった』
なんとも後締まりの悪い話である。慟哭するほどの悲恋でもなければ、最後に二人が結婚する幸せ恋物語でもない。正直、少女はなぜ図書委員の彼女がこの物語が一番オススメと言ったのか理解できなかった。亜鈴も然りだったが、三つの物語を聞いた前野はなるほど、と頷いた。
「……多分これは言わぬが花なんだろう。この推理には確証はないし、仮に合っていても、推理小説の最後のページをチラ見した気分になるからね」
「そう……なんですか?よく、分からないんですが」
「すまないね。こればかりは”君自身”がその意図を理解しなければならない問題だからね」
「意図……?」
少女はその意図が理解出来ないままに、前野は微笑みを浮かべながら亜鈴と仕事場のある二階へと戻っていった。その後もぼんやりと考えたが、全くと言っていいほど分からなかったので、仕方なく少女は原書の続きを読むことにした。
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次の日。いつものように学校に行くと、珍しく校門の前で友達と楽しそうに登校している本条の姿があった。なるたけ見つかりたくなかった少女はこそこそと人混みに紛れて、バレないように努めた。しかし、逆にその行動が裏目に出た。少女のその不審な動きを察知して、本条は「あ!おはおはー、アイアイ!」と言って、猛スピードで走ってきた。人混みはモーセの奇跡の如く割れ、少女に向かって、抱きつきタックルを喰らわせてきた。しかし、少女は華麗に横に避けてスルー……できるほど、反射神経は良くなかった。少女はコンクリートの上に押し倒され、本条に馬乗りにされた。
「ふっふっふっ……アイアイ、ゲットだぜ!」
「……意味わからないから退いてくれないかしら、本条さん?」
「だーかーらー紗耶っちで良いって言ってるじゃん。そう言わないと退かないよ、アイアイ!」
「……そう呼んだら、退いてくれるのかしら?」
「いえす、あいどぅ!」
周りの生徒たちの目線が怖く、何の騒ぎだと生徒指導部の教師が走ってきている。仕方がない。いち早くこの場を離れたい一心で、少女は心を無にした。
「紗耶っち、おはよう!……だから、行くよ!」
本条が慌てふためくのを無視して立ち上がると、本条の手を掴んで、注意しに来た教師の魔の手から一緒に逃げ出した。この後の呼び出しを考えて憂鬱な顔の少女とは対照的に、本条はとても頬をゆるゆるに蕩けさせていた。
市販の硬い煎餅より固い煎餅どこかにないかな