AI   作:海沈生物

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 何か焦げ臭い匂いがしたと思ってまたもや意識を失ったのだが、今度は雨音がしない場所に来た。しかも、今度は手錠だけで目隠しも足枷もなかったのだ。だからと言って、逃げ出すことは出来ない。手錠は壁に併設されたものだし、なによりドアの向こう側には前野が立っていたからだ。時折、ドアの上部についた鉄格子から少女の方を向いてきたが今までと違い、全く干渉してこない。少女は不審がりながらも、ひとまずは生き延びれそうなことにホッとした。

 

「でも、時間の問題だよね……多分」

 

 ギロッといつもの数十倍は鋭い目つきで少女のことを睨みつける前野。思わず、少女は背中をピーンッと伸ばしてしまう。前野は少女から目線を外した。くぅーとお腹から音が鳴る。

 

(お腹空いたなぁ……)

 

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 病院のベッドから抜け出した本条は看護師たちに制止させられるのも聞かず、そのまま病院から抜け出した。誰が残したものなのかは不明だが、あの白い紙の後ろに見覚えのある住所が書かれていた。それは本条がよく知る人物……少女の家……ではなく、本条の祖母の家の住所だった。あの幾つもの希望とか涙とか青春がうまい棒に消されてきた場所。少女との、初デートの終着点。そこに何があるのか分からなかったが、行く宛のない本条はひとまずそこに行くことにした。

 小走りで街を歩きながら、初めてデートした時のことを思い出す。そう言えば、ここらへんでアイアイに本の解説をしてもらったなぁ……とか、ぬいぐるみ取ってくれたのカッコよかったなぁ……など、まだ”普通”の関係だった頃のことを回想する。ホムンクルス君のぬいぐるみは本条の毎日の抱き枕になっており、毎日寝るたびに少女からもらったんだと再認して、ふふっと微笑みを漏らすのがもはや日課となっていた。ギュッと手を握る。

 本条の祖母の家……兼駄菓子屋に着いた。病院の患者の服のままで来てしまった本条を祖母は驚いた表情で迎えた。けれど本条の目を見て。ぽつりと誰に似たんだかね……と懐かしそうに呟いた。

 

「……正直、これは一種の賭けだよ。正直、これ以上アンタに無理はさせたくないんだけどねぇ」

 

「おばあちゃん、お願い……私にはもう」

 

「分かってる、分かってる……これは昨日の夜にヘルメットを被った男からもらった紙だよ。おそらく、”あの子”がいる場所が書かれてるよ」

 

 本条は紙を受け取ると、すぐさま裏返して書かれている住所を見た。こんなまどろっこしいことしなくても、最初から病院に紙を置いていってくれたら良かったのに……と少女は不思議に思ったが、ひとまず祖母にありがとうと伝えた。なんだか祖母は機嫌が悪そうだったが、ふんっと言って、お店に戻ろうとした。

 

「……死ぬんじゃないよ、バカ娘」

 

「……うん。絶対おばあちゃんが生きている間には、アイアイと結婚式を挙げるつもりだからさ。応援しててね」

 

 ふんっときまり悪そうに、本条の祖母は店の中に戻った。本条の手の中には、いつの間にか鍵が入っていた。




そろそろ中身のある話でもしますか。
最近、指輪物語を読破しました。映画版見てもよかったんですが、やっぱり映画って端折られる場所結構あるじゃないですか。だから原作を読んだんですが……サムフロ、本当にエモくありませんか。昔BL好きだったころの血が騒ぎました。ラストの展開で限界オタクで半泣きしてました。もう歳ですね……

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