AI   作:海沈生物

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 本条の高校では他の多くの学校と同じく、バイクの免許を取ることを卒業するまで禁じていた。けれど、本条は既に隠れて免許を取っていたのだ。というか、本条の祖母によって取らされていたのだ。まさかこんなところで役に立つとは……と思いつつ、本条はバイクをその紙に書かれていた住所に走らせる。道路交通法はしっかりと守っている辺りに、病院を何も言わずに脱走した時よりも”その後”を考える彼女なりの思考の変革が見えた。

 

「……お腹空いたなぁ」

 

 本条はなんともなしに、少女は今頃何を考えているのだろうと思った。

 

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少女の心には一種の迷いがあった。確かに、前野のやろうとしていることは間違っている。というか、狂っている。そうなのに、未だに少女は前野のことを見限れていなかった。少女を今から殺そうとしているのも前野だが、一方で私を”冷たい”孤児院から連れ出して、”温かい”居場所に連れてきてくれたのも前野なのだ。今ならまだ間に合うんじゃないか、何かをきっかけにしたら、”居場所”に戻れるんじゃないか。少女はそんな小さな希望を抱かずにはいられなかった。はぁとため息をもらすと前野はまたギロッと少女の方を向いた。しかも、今回は扉を開けたのだ。少女に近づいていくと、顎を親指でクイっと上げてくる。突然の行動に困惑する少女。前野はしばらく”冷たい”表情で少女を見つめていたが、ふっと顔色を”温かく”した。それはパスタを一緒に作ったり、少女と亜鈴のことを見ていた時と同じ表情で。前野は優し気な笑みをこぼす。

 

「……藍ちゃん、聞いてくれるかい?」

 

「何を……ですか?」

 

「おそらく、もう少しすれば君の”彼女”さんがここにやってくる。もちろん邪魔する奴は皆殺し……なんだけど、藍ちゃんも命は大事だろ?僕だって、大切な藍ちゃんが失われるのも正直辛い。だからね……」

 

 前野は少女の耳元に口を寄せると、小さく甘い吐息を漏らした。

 

「”君に本条紗耶香を殺して欲しいんだ”。そうすれば君を助けて上げるし、死体の隠蔽は私が上手くやろう。……あっ、武器に関しては気にしなくていい。砥石で切れ味抜群にしておいたナイフがここにあるからさ。大根でも、カボチャでもすっぱすっぱだよ?」

 

 少女は心臓が縮こまる思いだった。本条を、殺す。自分を好きだと、自分を”誘拐”したいぐらい好きだと言ってくれた彼女を殺す。孤独な自分を助けてくれた前野の為に、殺す。少女は前野の顔を眺め……やがて、決断した。

 

「”分かりました”。私も辛い……ので」

 

 前野は少女の頭を優しく撫でた。




でも指輪物語をしっかり評論するなら、ルーン文字すごいですよね。最初の森の所……だったかは記憶が定かじゃないですが、トールキンの名のある物書き特有の異常性が見られて、私は嬉しかったです。

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