AI   作:海沈生物

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 一時間目を告げるチャイムが鳴る。しかし少女は教室にはいない。図書室の端に、ポツンと縮こまっていた。体質は仕方ないとは言え、口が開かないと言い訳もできなくて困る。ごちゃごちゃした頭の中を整理するために、近くの本棚から適当な本を取り出す。タイトルは「落窪物語」。確か平安時代の作品だったか。ページをめくると新たな世界。召使い、女、女に恋する人、意地悪な人。所謂シンデレラストーリーなのだろう。ペラペラ。めくる度に疲れた精神が物語の世界に取り込まれていく。少女は少しずつ、少しずつ現実のことを忘却していく。いつの間にか佳境、女が意地悪な女の夫の屋敷から脱出した頃。少女の世界が”途切れ”てしまった。何事かと少女が上を見上げると、そこには目が真っ赤に腫れている本条の姿があった。いつもの本条とは違い、その顔はまるで阿修羅のようだった。少女が後ずさりすると、本条は少女の肩を掴んだ。

 

「……ねぇ、アイアイ。どうして私がアイアイに関わろうと思い始めたか分かる?」

 

「……」

 

「それはね……ある男に脅されたからだよ。もしアイアイに関わらなかったら、お前の秘密写真をばらまくって。だから……最初は仕方なく、アイアイに絡んでた。でもね……いつの間にか私、アイアイの事が好きになってた」

 

「えっ……」

 

手が離さたが、少女はぽかんと呆然としたままだった。本条は言葉を続ける。

 

「……私ね、その男から昨日あの後に聞いたの。アイアイの過去のこと」

 

「……そう。でも私みたいな件は世の中に一万とあるわ。それに、”あの人たち”はまだ生きている。いつまた襲いに来るのかなんて、全く分からないわ。前野さんの元も高校卒業後には立ち去る予定だから」

 

突然、本条が壁ドンをしてくる。少女は動けずに、カチンと固まる。

 

「……独りよがりもいい加減にして、アイアイ!お金も稼げない、これと言った才能もない、しかも高卒。そんな人間が一人暮らし出来るお金なんて稼げると思う?私がまともな企業サイドなら、絶対に雇わないわ」

 

「……ね、ねぇ、本条さん。あ、貴方は一体何が言いたいの?」

 

「……私が貴方を引き取って、守って、そして”結婚”する」

 

少女は突然の告白に言葉を失った。いや頭の中に”結婚”という言葉が乱立して、正常な思考が保てなくなっていた。自分と本条さんが結婚、結婚、結婚。えっ、結婚。うそ、結婚。そう言った感じに。そしてその言葉の意味が心に浸透したとき、少女は顔を真っ赤にした。真っ赤にして、両手で顔を覆い隠した。

 

「……ほ、ほ、本当に?じ、じ、冗談じゃなく?」

 

「うん、私、アイアイのこと愛してるから」

 

 満面の笑みで答える本条に、また少女は頭をハテナだらけにする。なぜ、どうして、どこが、私のどこが。少女のそんな問いに答えるかのように、本条は言葉を続ける。

 

「やっぱり一番はアイアイの楽しそうな顔が好きなんだけど、いつも一貫としてツンツンした態度取ってくるとこも好きだよ。あとは……そう!あの人嫌いなおばあちゃんに駄菓子屋への入店を認めさせたこと……かな?」

 

「……うまい棒投げてこられたけど、あれは認められてたの?」

 

「いつも色んな友達連れて行ったことがあったんだけど、ことごとく、百連うまい棒乱舞で近づけなくてね……でも、あそこで確信したんだよ。あぁ、私がこの目で見定めたこの人は間違ってなかったんだって」

 

「そう……なんだ」

 

 確かに最後に「あの子をよろしく」と頼まれたが、そういうことだったのか。少女は色んなことに確信がいきながらも、未だ頭の中で結婚という言葉が荒ぶっていた。本条はまた肩を掴んで、強い眼差しで少女の目を見つめた。

 

「それでね、アイアイ。嫌なら嫌って断ってもいいんだけど……どうかな」

 

 少女は戸惑った。正直、今まで本条のことがそんなに好きではなかった。うざいし、本読むの邪魔してくるし、自分と違って陽キャっぽいし。でも本条と学校を抜け出して、ゲームセンターで遊んで、駄菓子屋でいろいろ奢って貰って。少し、ほんの少しだけど本条のことを知って、好きになっている自分がいた。だからこそ、少女は一つの答えを出すことにした。

 

「私はーーー」

 

# # #

 その日の帰り道。手を繋いで二人で歩いている。ただしそれは少女と本条ではない。二人はそこから十メートルほど離れた後ろ。もちろん、手は繋いでいない。

 

「でもさすがにあれは笑ったよ、アイアイ。まさかあのシリアス状態で、”親友から始めてくれませんか?”……って。真面目に告白ぐらいしようと思っていた私の心ぶち壊しだよ!まぁ、前向きな方向だし、私にとってはアイアイとやっと公然でイチャイチャ出来るようになるから幸せなんだけどね。抱きつ……ぐはっ」

 

 少女が本条の頭に軽くチョップする。本条はわざとらしくいったぁと叫んでいる。

 

「まったく……本条さん、どこの世界に抱きつき合う親友がいるのかしら?」

 

 ぷすぅと本条は頬を膨らます。

 

「実質親友と恋人なんて紙一重なんだし、いいじゃんー!ほらういういー」

 

「はぁ……」

 

 ため息と共に、あの時は軽く流したことを思い出す。本条は”ある男”に脅されて絡み始めた、と言っていた。そも男なんて前野と亜鈴以外に関わったことがないような自分に、どうしてわざわざ本条に絡むように言ってきたのか。

 

「……アイアイ!もう、何考え事してるの?」

 

「……いや、なんでもないの。ちょっと今日の晩御飯について考えていただけ」

 

「そっか……あっ、そうだ。どうせだし私もアイアイの家に夕ご飯ごちそうになりに行っていい?」

 

「……へっ?」

 

 声が裏返る。あんなことがあったすぐ後に、相手の家にお邪魔しようとするなんて。度胸あるなぁとある意味で感心した。でも実際、断る理由は全くない。

 

「……まぁ、いいわよ」

 

「本当?ありがとう、アイアイ!」

 

 ぴょんぴょんと跳ねながら、その勢いでダキッと少女に抱きつく。振り払おうと少女がするも、接着剤みたいに協力にくっついていて全く剥がれない。

 

「へへへ……アイアイの身体あったかいね……眠く、なりそう……」

 

「ちょっ、本条さん!?」

 

 くぅくぅと本当に寝息を立てて眠ってしまった。色々あったしで、疲れたのだろう。仕方なく本条を背負う。思ったより軽いが、人一人ということもあり、やはり重い。ひぃひぃと声を上げながら、少女はまた一歩また一歩と家路を歩いた。春の淡い風が二人の髪を揺らした。




ここでいったんストップ。続きは遅くても夏中には出すよ。
冷凍うどんを早く溶かす方法を知りたい。
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