彼女達にとって、それは紛れもない「奇跡」だった。
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Forever for Dreaming!
☆
あと1ヵ月で、中学生が終わる。そんなタイミングで、私はネットでとある小説を見つけた。
ホームページに濃い青で表示されている、不思議と惹かれるタイトル群。興味深い表題達の中で、私は「1000回潤んだ空」というリンクにカーソルを合わせ、ダブルクリックをした。
視界端でグルグル回る円を目で追う。これから語られるであろう物語に思いを馳せながら、私は更新を待った。
数秒後。出てきたのは、とある引っ込み思案な少女の話だった。
大好きだった歌をバカにされたことをきっかけに、自分を表に出せなくなってしまった少女。
常に下を向き、周囲の視線を気にして脅えながら歩く。彼女の世界は、既に白と黒のモノトーン。色褪せてしまっていた。
本当は、音楽が好きでたまらないのに。ギターから解き放たれる、ポップでロックで素敵な、無敵で最強の歌が大好きなのに。
しかし、それを表に出せない。人の目ばかり気にして、素の自分を出せない。憂鬱な日々だった。
けれど、少女は下を向いていたことをきっかけに星のシールを辿る。足元に爛々と輝く、剥がれかけた星。遠い音楽。縋るような気持ちで、少女は追った。
辿り着くのはとある質屋。そこで少女はとある星のギター……運命を手にする。
深紅の星形ギターを持つと彼女は一転。とてもロックで、魅力的な少女になることが出来た。
そんな少女に惹かれて行った仲間たちが居た。変わった仲間達だけれど、とても大切な友達、絆。その子達のおかげで、彼女は再び星の鼓動を感じることが出来るようになった。
歌詞が小説の中では紡がれている。脳裏でか彼女達が奏でる音楽は、まさに絆と呼べるもの。最高の音楽キズナを、彼女たちは奏でていた。
最後。彼女は、ステージで歌っていた。学園祭の、体育館の舞台。5人の最高の仲間と奏でる音楽(キズナ)。キラキラして、ドキドキする最高のステージ。私は、目の前で彼女達の演奏を見ているような錯覚をした。
──YOU WANTED THE BEST!
「''最高''が欲しいんでしょ!」
輝くコンサートホールと化した体育館の中、鳴り響くギターの音色と交差して彼女の煽るような叫びが聞こえる。
大切な歌、青春の歌、始まりの歌、大好きな歌、約束の歌、永遠の歌。
彼女が歌う最高の歌は、ロックで、キュートで、キラキラドキドキして、心が震えて。
もちろん、作者の文才もあるのだろう。だが私は、まるで目の前で彼女の歌を聴いているかのように錯覚していた。
もう、スクロールの手が止まらない。どんどん先へと読み進む。しまいには、他の小説達までも私は読み始めている。
そんな読書は長く、長く続く。いつの間にか、瞬く星達は静かに眠りについていた。
☆
目覚まし時計が鳴る前に、戸山香澄は時計を止めた。
胸の高鳴り、ドキドキの残照。それの原因がこの小説にある事を、香澄は充分に理解していた。
思わず1晩を犠牲にして読み進めた小説達だったが、かなりの良作だった。今は、彼女達の物語に思いを馳せ、余韻に浸りたい。
香澄が目を瞑り、余韻に浸っている最中。
騒がしい足音と共に、木製のドアが乾いた衝撃音をたてた。
「お姉ちゃん、いつまで寝てるの!」
訪ねてきたのは、香澄の妹。戸山明日香だった。明日香はドアを勢いよく開け放った後、香澄の姿を見て目を丸くしている。
「……珍しい、お姉ちゃん起きてるじゃん」
成長したのかぁ、と、どちらが姉がわからない発言をする。
そう言えば、普段は母親があきれ返るくらい目覚ましが鳴り、聞きかねた明日香が起こしに来るのだった。
少しだけ反省をしつつも、「明日もちゃんと起きるからー……」と、香澄がささやかな抵抗を試みる。
「……?」
何故か、明日香が香澄の事をじっと見つめていた。不思議そうに、上から下まで観察するように、香澄をじっくりと見続けた。
「……お姉ちゃん、なんかあった?」
「え、何もないよ?」
「そう……?」
何だか不思議そうにしている。香澄は、視線を外さない明日香に聞いた。
「えと、なんでそんな見てくるの?」
「んー……」
まじまじと見つめてくる。くすぐったくなる視線を、明日香はやっと外した。
「なんか、昨日のお姉ちゃんより落ち着きがあるような、ちょっと違和感が……?」
……落ち着き? 違和感? 一体なんのことだろうか。
「って、何言ってんだろう私。気にしないでいいよ」
朝ごはん出来てるってー。
それだけ言うと、明日香はいそいそと部屋から出ていった。
※ポピパ再編物です。香澄の性格が小説版寄りなところがございます。