遠い音楽   作:冴月

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同じ音楽(ユメ) 同じ月 ずっと追いかけ続けてきた


あなたは?


ホントのキモチ 言っちゃって♪
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ホントのキモチ 言っちゃって♪

 

 

 

 

☆☆

 

 

 昨日は興奮で、ろくに寝ることが出来なかった。

 あの身体の中から響き渡るサウンド。観客の歓声。そして何よりーーあの、4人組のキラキラな輝き。確かグリグリと有咲はいっていたか。その4人組のライブに、香澄も完全に魅入られていた。

 いつか私も、あの人たちみたいにステージに立ってみたい。舞台に立ち、「最高が欲しいんでしょ!?」とか言ってみたい。キラキラドキドキしたい。香澄は、バンドへの想いが一層強くなったっていった。

 その為にもまずは、ギターを弾けるようにならなければいけない。自分の思うがままに、このランダムスターを操り、音を奏でなければならない。

 だから今日の授業中は、閉店間際に駆け込んだ本屋で購入したギターの教本を、ひたすらに読みふけることにした。一時間目から四時間目まで、教科書の裏に隠すなどをしてなんとか先生にバレず読み耽り、仮想のギターの弦を抑える……むむむ。なんだか指が吊りそう。流石に昼食の時には休憩をしよう……。

 そう考えていたらもう昼休み。沙綾を誘い、中庭へ……行こうと思ったが、本日は生憎の雨。今日は教室で食べる事にした。

 香澄は、興奮冷めやらぬまま一緒にご飯を食べていた沙綾にライブのことを熱弁した。

 

「すっごいキラキラドキドキしてたんだー! ギターも、ベースも、キーボードも! もちろんドラムもすごかった!」

「へぇ……もしかして、SPACEに行ったの?」

「うん! 有咲と一緒に行ったんだー」

「そうなんだ」

「特に! Glitter*Greenっていうバンド! すっごいキラキラしてた! こう、ギュイーンって感じで!」

 

 ギターを掻き鳴らすフリをする。手元にあの、ランダムスターの重みを感じた気がした。

 

「あははー……。楽しかったのは分かったけど、そろそろご飯食べちゃわないと。時間無くなっちゃうよ?」

 

 教室の時計の針は、既に12時40分を指していた。13時から授業が始まるので、あと20分しかない。それだけ熱中して話をしてしまっていたのだ。

 

「そうだった! いただきまーす!」

 

 香澄は、白米をかき込んだ。

 

 

 

☆☆

 

 放課後。今日は、有咲の家に、ランダムスター取りに行くことになっていた。

 花女の校門を出て、星のかけらを傍らに道なりに行く。有咲の家へ続く坂道を前にして、一応連絡を入れておこうと、スマホを手にとった……。ところで、見覚えのある顔が見えた。黒髪をストレートに長く伸ばし、ギターを背負った女の子である。

 

「花園さん!」

 

 くるりとこちらを振り向く。

 緑色の瞳が少し見開かれるものの、香澄の姿が視界に入るなり直ぐに笑顔になった。

 

「こんにちは、戸山さん」

「こんにちは! ……それって、ギターだよね?」

「うん、今からちょっと弾きに行くんだ」

「弾きに行くの? ライブハウスに?」

 

 何処だろう、と考えてみる。少なくとも、SPACEは練習スタジオでは無い為違うだろうが……。

 

「……聞きに来る?」

「いいの!?」

 

 願ってもない幸運だった。香澄がギター演奏を生で知っているのは、あのグリグリのボーカルの人のギターだけ。他の人の演奏を、それも生で聴けるのなら、聴かない手はない。

 それに、香澄は同じ高校生であるたえのギターテクニックがどの程度のものなのか、気になっていたこともある。

 

 

「うん……着いてきて」

 

 

 

 香澄は、ドキドキしながら花園さんに着いて行った。

 

 

 

☆☆

 

 

 

 大塚駅前のとある通り。ここでカバンを置いた花園さんは、ケースからアコースティックギターを取り出した。

 

「あれ、エレキギターじゃないの?」

「うん。弾けるけど、今日はこっちの気分だったから」

 

 白いうさぎが描かれたピックを取り出し、 ジャランと鳴らす。ずっとギター弾いてきたのだろう。その姿は、プロを感じさせるような佇まいだった。

 ……ギターの弦が静かに弾かれる。まだチューニングの段階だと言うのに、ポロンポロンと紡がれる音に香澄は引き込まれて行った。

 

 そして、彼女の「逢いのうた」が解き放たれる。

 

 

 

 

「ー♪ーーー♪ーーーー」

 

 ひとつひとつ、言葉が編み込まれてゆく。その儚げな歌声と、「泣かない」という歌詞が、香澄の心を揺さぶった。

 気がついたら、周りに沢山のお客さんが居た。皆、携帯でたえを撮ることなく、静かに耳を傾けていた。とか言う香澄もその1人であり、たえの紡ぐ音楽に魅了されていたのだった。

 

 

 

「……ありがとうございました」

 

 彼女の音楽が奏でられた。お客さんからぱちぱちと拍手が送られて、花園さんは少し恥ずかしそうにしていた。

 当の香澄も、歌声とその曲調、歌詞にやられてしまい、少し涙が出てしまった。

 

「花園さん!! すっごい良かったよーー!」

 

 ぱちぱちと全力で拍手を送る。たえはやはり、恥ずかしそうにしながら、「ありがとう」と笑った。

 

「花園さん! 私、花園さんみたいなギター弾きたい! みんなをキラキラドキドキさせて、ライブをやってみたい!」

 

 たえの手を取る。急な出来事に、たえは目を丸くした。

 

「花園さん! 私のギターの師匠になってください!」

 

 睡蓮の花の香りが、鼻をくすぐったような気がした。

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