遠い音楽   作:冴月

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夢の蔵。始まりは、ドキドキへの憧れ。


10

「あのー、盛り上がってるとこ悪いんだけど……私も居るんだぞ」

 

 たえの手を取り、香澄が感激のあまりぶんぶんと上下降っている中、有咲が気だるそうな声を上げた。

 

「有咲! 来てくれたんだ!」

「おう……ていうか香澄! いきなり「大塚駅前来て!」とか言われたら心配するだろ!」

「あれ、それだけしか送ってなかったっけ?」

「送ってねぇ! ったく、何かあったのかと思った……」

 

 はぁ、とため息をつく有咲。本当に心配してきてくれたのか、私服の上にエプロンを付けスマートフォンを握りしめていた。

 

「ごめんね有咲」

「……分かってくれればいいんだよ」

 

 ちょっと照れたようにそっぽを向く。心無しか、有咲の頬が、少し赤くなってるような気がした。

 

「……ラブラブだ」

「えっ?」

 

 目を見開いて、こちらを見ているたえ。腕を組み、マジマジと香澄達を見て、納得したように頷く。

 

「二人とも、ラブラブだね」

 

 ……なんというか、その。そんなに距離が近かっただろうか。香澄はポカンとしながら、有咲に視線を向けた。

 

 あ、目が合った……。

 

 なんだか恥ずかしくなってしまい、香澄は顔が赤くなるのを感じた。

 ラブラブだなんてー……。と、香澄が頬を手で押えてくねくねしていると、有咲の顔がみるみる赤くなっていく。

 

 そして。

 

「ちょっ!? ……ラブラブなんかじゃねぇーっ!!」

 

 行き交う通行人が、

 

 

 

☆☆☆

 

 

 あの後、有咲お勧めのラーメン屋に行ってみんな解散することになった。時間も時間だった為、有咲の家のランダムスターを取りに行くのは明日にする事にした。

 

 そして次の日……。

 

 

「花園さんおはよう!」

 

 電車の中、今日もギターケースを背負い、吊革を手にしたたえが居た。

 昨日、帰宅しようと駅に向かう時に、たえも電車通学だったのを知ったからだ。これから師匠になる訳だし、一緒に学校行こうと誘ったら……なんだろうか。ちょっと震えたように見えたえは、香澄の手を取って、「うん」と大きく頷いたのだ。

 うん……やっぱり、ちょっと天然かもしれない。

 

「おはよう、香澄」

 

 そう言って、たえはニコッと笑った。こうして見ると、全然天然ぽく見えないのになぁ。クールビューティ! って感じでカッコイイのに。

 

「そういえば、練習は何処でやってるの?」

「練習……?」

「うん、練習。ギター、弾いてるんだよね? だったらそこでやろうと思って」

 

 ……なんも考えてなかった。というか、そもそもギターをちゃんと弾いたことない。教本を見て、弾ける気になっただけなのだ。

 香澄は、包み隠さずそれを話した。

 

「そうなんだ……教えがいあるね」

 

 花園さんは気にしていないようだった。

 

 

 

 

 放課後。たえと二人で有咲の家に向かう。

 香澄が、有咲の家にギターを取りに行くことを伝えると、今日はバイトがないから一緒に行くという。たえは、少し浮き足立っているようだった。

 

「着いたよ! ここが有咲ん家!」

「おおー」

 

 秘密基地みたい、と感想を漏らすたえ。確かに、あの古臭さと隠れたような店の配置は、秘密基地の味が出ているような気がした。

 インターホンを鳴らし、有咲を呼ぶ。出てくれたのは昨日と同じおばあちゃんだった。こちらを見ると、一瞬驚いたような表情を見せたが、直ぐに笑顔を見せた。

 

「こんにちは、今日はお友達も一緒なのね」

「はいっ! 有咲いますか?」

「ええ、蔵に居るわよ」

「ありがとうございます! 花園さん、いこ!」

「うん。お邪魔します」

 

 二人で蔵に向かう。

 蔵の扉は完全に開かれていて、入り口にダンボールや紐でまとめた本などが置いてあった。有咲が、中の整理でもしていたようである。

 尚、当の本人は入り口にぼうっと立っており、何やらブツブツと呟いていた。

 

「と、友達……へへっ。なんか、リア充みたいだな……」

 

 何やら頬を両手で押さえ、にやけているようだった。くねくねと、気味が悪い動きも加えて行なっているため、有咲の容姿からはありえない程の不気味さを醸し出している。どうかしたのだろうか。

 

「有咲!」

「おわぁ!?」

 

 ビクッと身体を大きく震わせながら、香澄達の方を振り向く。有咲は、目を丸くして驚いて香澄を見ていたが、やがてたえに気づき、また目を丸くした。

 

「えっと、昨日アコギ弾いてた……花園さん?」

「うん。私、花園たえって言います」

 

 よろしくね、とたえペコリとおじきをした。

 

「ご丁寧にどうも。私、市ヶ谷有咲。よろしく」

「よろしくね……ところで、市ヶ谷さん」

「?」

「リア充ってどういうこと?」

「んなっ!?」

 

 有咲が固まった。リア充って、なんの事だろうか。

 その後、有咲は暫く口をパクパクさせたままだった。

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