「あのー、盛り上がってるとこ悪いんだけど……私も居るんだぞ」
たえの手を取り、香澄が感激のあまりぶんぶんと上下降っている中、有咲が気だるそうな声を上げた。
「有咲! 来てくれたんだ!」
「おう……ていうか香澄! いきなり「大塚駅前来て!」とか言われたら心配するだろ!」
「あれ、それだけしか送ってなかったっけ?」
「送ってねぇ! ったく、何かあったのかと思った……」
はぁ、とため息をつく有咲。本当に心配してきてくれたのか、私服の上にエプロンを付けスマートフォンを握りしめていた。
「ごめんね有咲」
「……分かってくれればいいんだよ」
ちょっと照れたようにそっぽを向く。心無しか、有咲の頬が、少し赤くなってるような気がした。
「……ラブラブだ」
「えっ?」
目を見開いて、こちらを見ているたえ。腕を組み、マジマジと香澄達を見て、納得したように頷く。
「二人とも、ラブラブだね」
……なんというか、その。そんなに距離が近かっただろうか。香澄はポカンとしながら、有咲に視線を向けた。
あ、目が合った……。
なんだか恥ずかしくなってしまい、香澄は顔が赤くなるのを感じた。
ラブラブだなんてー……。と、香澄が頬を手で押えてくねくねしていると、有咲の顔がみるみる赤くなっていく。
そして。
「ちょっ!? ……ラブラブなんかじゃねぇーっ!!」
行き交う通行人が、
☆☆☆
あの後、有咲お勧めのラーメン屋に行ってみんな解散することになった。時間も時間だった為、有咲の家のランダムスターを取りに行くのは明日にする事にした。
そして次の日……。
「花園さんおはよう!」
電車の中、今日もギターケースを背負い、吊革を手にしたたえが居た。
昨日、帰宅しようと駅に向かう時に、たえも電車通学だったのを知ったからだ。これから師匠になる訳だし、一緒に学校行こうと誘ったら……なんだろうか。ちょっと震えたように見えたえは、香澄の手を取って、「うん」と大きく頷いたのだ。
うん……やっぱり、ちょっと天然かもしれない。
「おはよう、香澄」
そう言って、たえはニコッと笑った。こうして見ると、全然天然ぽく見えないのになぁ。クールビューティ! って感じでカッコイイのに。
「そういえば、練習は何処でやってるの?」
「練習……?」
「うん、練習。ギター、弾いてるんだよね? だったらそこでやろうと思って」
……なんも考えてなかった。というか、そもそもギターをちゃんと弾いたことない。教本を見て、弾ける気になっただけなのだ。
香澄は、包み隠さずそれを話した。
「そうなんだ……教えがいあるね」
花園さんは気にしていないようだった。
放課後。たえと二人で有咲の家に向かう。
香澄が、有咲の家にギターを取りに行くことを伝えると、今日はバイトがないから一緒に行くという。たえは、少し浮き足立っているようだった。
「着いたよ! ここが有咲ん家!」
「おおー」
秘密基地みたい、と感想を漏らすたえ。確かに、あの古臭さと隠れたような店の配置は、秘密基地の味が出ているような気がした。
インターホンを鳴らし、有咲を呼ぶ。出てくれたのは昨日と同じおばあちゃんだった。こちらを見ると、一瞬驚いたような表情を見せたが、直ぐに笑顔を見せた。
「こんにちは、今日はお友達も一緒なのね」
「はいっ! 有咲いますか?」
「ええ、蔵に居るわよ」
「ありがとうございます! 花園さん、いこ!」
「うん。お邪魔します」
二人で蔵に向かう。
蔵の扉は完全に開かれていて、入り口にダンボールや紐でまとめた本などが置いてあった。有咲が、中の整理でもしていたようである。
尚、当の本人は入り口にぼうっと立っており、何やらブツブツと呟いていた。
「と、友達……へへっ。なんか、リア充みたいだな……」
何やら頬を両手で押さえ、にやけているようだった。くねくねと、気味が悪い動きも加えて行なっているため、有咲の容姿からはありえない程の不気味さを醸し出している。どうかしたのだろうか。
「有咲!」
「おわぁ!?」
ビクッと身体を大きく震わせながら、香澄達の方を振り向く。有咲は、目を丸くして驚いて香澄を見ていたが、やがてたえに気づき、また目を丸くした。
「えっと、昨日アコギ弾いてた……花園さん?」
「うん。私、花園たえって言います」
よろしくね、とたえペコリとおじきをした。
「ご丁寧にどうも。私、市ヶ谷有咲。よろしく」
「よろしくね……ところで、市ヶ谷さん」
「?」
「リア充ってどういうこと?」
「んなっ!?」
有咲が固まった。リア充って、なんの事だろうか。
その後、有咲は暫く口をパクパクさせたままだった。