遠い音楽   作:冴月

12 / 71
11

 固まった有咲を連れて、蔵の中に入る。

 今日のうちに整理を行ったのだろうか。香澄の背ほどあった荷物は殆ど無くなっており、鼻をムズムズさせるホコリっぽさも無くなっていた。残るは床に散らばる小さい段ボール群のみであった。

 

「こ、これは!?」

 

 部屋を見渡していたたえがなにか見つける。目を見開き、驚いた様子でたえは四角いそれにすがりついた。

 

「……ビンテージもののアンプ! どうしてこんな所にあるの?」

 

 目を輝かせながら、少しホコリを被ったアンプを見つめていた。

 木でできたアンプは、少し古臭い雰囲気を醸し出していたものの、味がありとても大切にされていた事が分かった。

 

「こんな所で悪かったな。……うちは質屋なんだ。こういう物が、たまに売られてくるんだよ。まぁ、それは家のじいちゃんのだけど」

 

 いつの間にか元に戻っていた有咲が言う。たえは聞いてるのか聞いていないのか、

 

「んー……」

 

 と生返事を返して、縋り付くようにアンプを眺めていた。

 そんな様子を見てか、香澄には一つの考えが浮かんだ。

 

「……ねぇ、有咲」

「なんだ?」

「……この蔵で、ギターの練習とか出来ないかな?」

「はぁ!?」

 

 

 信じられない、と言わんばかりの剣幕である。

 それもそのハズ。ここは問屋というお店なのだから、こんな所で練習するなんでありえない。

 やっぱりダメか……。と、香澄は諦めていたのだが。

 

「……この蔵、地下に音が漏れないような部屋があるんだ」

「うん」

 

 チラチラと香澄達の様子を伺っている有咲。どうしたのだろう。

 

「えっと、この倉庫整理したらその地下室、使っていいことになってるんだけど」

「うん」

「その……手伝ってくれれば。毎日でも……練習に、来てもいいけど?」

 

 ……思わず悶絶してしまった。若干の上目遣いで、かつ心配そうに、自身なさげには話すその姿は香澄達の心を震えさせた。

 

「あ、ありさぁーーっ!」

「うひゃあ!? 急に抱きつくんじゃねぇ!」

 

 感極まって、つい抱きしめてしまった。驚いた有咲は、後ろに倒れてしまいそうになるが……なんと、アンプに張り付いていたはずのたえが有咲を支えていた。

 

「……なんか、キュンとした!」

 

 キュッと、優しく。有咲を後ろから抱きしめた。

 

「んなっ!? は、なぞの、さん!?」

 

 有咲の顔が、急激に沸騰する。真っ赤っかだった。

 

「ちょま……うわ……」

 

 有咲の体から力が抜ける。バタり、と倒れそうになるのを、たえが慌てて支えた。

 

「あ、有咲!?」

 

 忙いで有咲の顔をのぞき込む。何かあったのか、心配で床に寝かせるが……なんでだろう。有咲の顔は、笑顔で嬉しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 気が付けば、夜。

 あの後、程なくして復活した有咲主導の元、蔵の整理を行った。

 再びビンテージのアンプに張り付いていたたえを引き剥がし、蔵の整理を進めた結果、今日中に終わらせることが出来た。

 そんなこんなでもう7時過ぎ。16時位から行なっていた為、3時間もやっていたことになる。

 

「終わったーっ!」

 

 ぐーっと背伸びをする。凝り固まった肩が、伸びていくのが気持ちよかった。

 

「だな。その……なんかありがとう」

 

 少し照れながら、そっぽを向きつつ言う有咲。まさにツンデレという反応に、ちょっと可愛いと思ってしまった香澄である。

 一方のたえは、疲れたのか座りながらアンプを眺めていた。そんなにあのアンプは凄いものなのだろうか……。

 そんな中。

 

「あら、綺麗になったねぇ」

 

 有咲のおばあちゃんが入ってくる。その手には、何やら銀色に光る鍵のようなものを持っていた。

 

「はい、有咲。約束通り、自由に使っていいよ」

 

 有咲に鍵を手渡した。

 

「ありがとう、ばあちゃん」

 

 有咲のおばあちゃんは、やさしそうな笑みを浮かべていた。

 

「2人は手伝ってくれたの? ありがとうね」

「いえ、大丈夫です! 色々楽しかったですし!」

 

 これは本心だった。色々、古いものや珍しいものが見れて楽しかったのだ。

 香澄は、懐かしいもの見つけた時のように心がホクホクしていた。

 

「ところで、お腹すいていない? 手伝ってくれたお礼に晩御飯ご馳走するわ」

「本当ですか!」

 

 凄い勢いでたえが食いついた。余程お腹がすいていたのだろうか、おたえの口からヨダレが垂れているように香澄は錯覚した。

 どうしたものかと、香澄は有咲の様子を伺う。一方の有咲は、チラチラとこちらを見て、なにか言いたそうにしていた。

 それを見て、香澄は何を言いたいのか察した。

 

「じゃあ……ご馳走になります!」

 

 有咲のおばあちゃんのご飯(筑前煮)は、とても美味しかった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。