固まった有咲を連れて、蔵の中に入る。
今日のうちに整理を行ったのだろうか。香澄の背ほどあった荷物は殆ど無くなっており、鼻をムズムズさせるホコリっぽさも無くなっていた。残るは床に散らばる小さい段ボール群のみであった。
「こ、これは!?」
部屋を見渡していたたえがなにか見つける。目を見開き、驚いた様子でたえは四角いそれにすがりついた。
「……ビンテージもののアンプ! どうしてこんな所にあるの?」
目を輝かせながら、少しホコリを被ったアンプを見つめていた。
木でできたアンプは、少し古臭い雰囲気を醸し出していたものの、味がありとても大切にされていた事が分かった。
「こんな所で悪かったな。……うちは質屋なんだ。こういう物が、たまに売られてくるんだよ。まぁ、それは家のじいちゃんのだけど」
いつの間にか元に戻っていた有咲が言う。たえは聞いてるのか聞いていないのか、
「んー……」
と生返事を返して、縋り付くようにアンプを眺めていた。
そんな様子を見てか、香澄には一つの考えが浮かんだ。
「……ねぇ、有咲」
「なんだ?」
「……この蔵で、ギターの練習とか出来ないかな?」
「はぁ!?」
信じられない、と言わんばかりの剣幕である。
それもそのハズ。ここは問屋というお店なのだから、こんな所で練習するなんでありえない。
やっぱりダメか……。と、香澄は諦めていたのだが。
「……この蔵、地下に音が漏れないような部屋があるんだ」
「うん」
チラチラと香澄達の様子を伺っている有咲。どうしたのだろう。
「えっと、この倉庫整理したらその地下室、使っていいことになってるんだけど」
「うん」
「その……手伝ってくれれば。毎日でも……練習に、来てもいいけど?」
……思わず悶絶してしまった。若干の上目遣いで、かつ心配そうに、自身なさげには話すその姿は香澄達の心を震えさせた。
「あ、ありさぁーーっ!」
「うひゃあ!? 急に抱きつくんじゃねぇ!」
感極まって、つい抱きしめてしまった。驚いた有咲は、後ろに倒れてしまいそうになるが……なんと、アンプに張り付いていたはずのたえが有咲を支えていた。
「……なんか、キュンとした!」
キュッと、優しく。有咲を後ろから抱きしめた。
「んなっ!? は、なぞの、さん!?」
有咲の顔が、急激に沸騰する。真っ赤っかだった。
「ちょま……うわ……」
有咲の体から力が抜ける。バタり、と倒れそうになるのを、たえが慌てて支えた。
「あ、有咲!?」
忙いで有咲の顔をのぞき込む。何かあったのか、心配で床に寝かせるが……なんでだろう。有咲の顔は、笑顔で嬉しそうだった。
気が付けば、夜。
あの後、程なくして復活した有咲主導の元、蔵の整理を行った。
再びビンテージのアンプに張り付いていたたえを引き剥がし、蔵の整理を進めた結果、今日中に終わらせることが出来た。
そんなこんなでもう7時過ぎ。16時位から行なっていた為、3時間もやっていたことになる。
「終わったーっ!」
ぐーっと背伸びをする。凝り固まった肩が、伸びていくのが気持ちよかった。
「だな。その……なんかありがとう」
少し照れながら、そっぽを向きつつ言う有咲。まさにツンデレという反応に、ちょっと可愛いと思ってしまった香澄である。
一方のたえは、疲れたのか座りながらアンプを眺めていた。そんなにあのアンプは凄いものなのだろうか……。
そんな中。
「あら、綺麗になったねぇ」
有咲のおばあちゃんが入ってくる。その手には、何やら銀色に光る鍵のようなものを持っていた。
「はい、有咲。約束通り、自由に使っていいよ」
有咲に鍵を手渡した。
「ありがとう、ばあちゃん」
有咲のおばあちゃんは、やさしそうな笑みを浮かべていた。
「2人は手伝ってくれたの? ありがとうね」
「いえ、大丈夫です! 色々楽しかったですし!」
これは本心だった。色々、古いものや珍しいものが見れて楽しかったのだ。
香澄は、懐かしいもの見つけた時のように心がホクホクしていた。
「ところで、お腹すいていない? 手伝ってくれたお礼に晩御飯ご馳走するわ」
「本当ですか!」
凄い勢いでたえが食いついた。余程お腹がすいていたのだろうか、おたえの口からヨダレが垂れているように香澄は錯覚した。
どうしたものかと、香澄は有咲の様子を伺う。一方の有咲は、チラチラとこちらを見て、なにか言いたそうにしていた。
それを見て、香澄は何を言いたいのか察した。
「じゃあ……ご馳走になります!」
有咲のおばあちゃんのご飯(筑前煮)は、とても美味しかった。