遠い音楽   作:冴月

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すごく長くなってしまいました。

バンドリseason2最高でした……


13

 初めての蔵練習から、数日が経った。

 休み時間や、家での空いてる時間。果ては授業中に隠れて教本を読んだ成果もあり、大分弾けるようになったと香澄は感じていた。

 その点について、たえは

 

「弾けるようになるの早すぎる!」

 

 と驚いていたようだが。

 勉強など物事を覚えるのは苦手で、どちらかと言うと体育会系よりな香澄だったが、事がギターに関しては、しばらく練習しているとすんなり出来るようになっていた。

 自分が気になることや、好きな事はすぐ覚えられるという興味の差だろうか。記憶力等強化されると言うが、そういうことなんだろうとは、香澄は思った。

 

「これじゃあ、弟子卒業も時間の問題かな」

 

 たえはそう言っていたものの、たまたま有咲と香澄が同タイミングで蔵から出た際に、たえがギターを掻き鳴らしていたのを香澄は知っていた。

 難易度とかはよくわからないが、指がすごく早く動いていて。髪を振り乱しながら、至高の音楽を奏でるミュージック・ファイターを彷彿とさせた。

 弾き終わった後に乱れた髪を指で梳きながら、隠れて見ていた私に気づき、ふにゃっとした笑顔をうかべるところまで完璧だった。

 あのレベルに届くには私はまだ程遠い。と、香澄が直感で感じてしまった程だった。

 だから、地道にコツコツ進んでいこうと香澄は決めた。RPGで、スライムを倒してレベルを上げるよう、コツコツと。

 そんな訳で、今日も授業中に握力トレーニングをする香澄である。どうしても指で押さえきれないコードがあるので、その対策を自分で考えた結果がこの練習だった。

 果たして効果があるかはわからないが、原因は握力にある……と思うので、家から発掘したハンドグリップを、香澄は机の下でにぎにぎしていた。

 

「戸山……戸山?」

 

 にぎにぎにぎにぎ……ただひたすら握り続けた。

 握る! 握る! ひたすら握る! 寿司とマイクは握り続ける! 

 

「戸山……戸山香澄!!」

「うひゃあ!?」

 

 変な声を上げてしまった。どうやら、先生に呼ばれていたらしい。香澄は椅子を大きく鳴らしながら立ち上がった。

 先生は、少し怖い顔をしてこちらを見ていた。

 

「戸山、続きを読んでみろ」

「は、はい! ……こ、恋はスタンプカードのようなものだ。と私は思う…」

「ちょっとまった。今なんの授業だと思ってるんだ?」

「え、国語じゃないんですか?」

「……今は英語だぞ」

「えっ?」

 

 どうやら全然違う教科書を出していたらしい。グリップとギターのテキストに集中しすぎて間違えていたようだった。

 改めて確認すると、香澄の机の上に広がるテキストは数学のノート、国語の教科書、化学基礎の参考書と何一つとして合っていなかった。

 

「……全く。次はちゃんとしろよ?」

「は、はい……」

 

 先生は、呆れたように香澄を座らせた。クラスが若干の笑い声でざわつく。

 ……今、絶対顔が真っ赤だと思う。香澄は苦笑いしながら静かに席に着いた。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 昼休み。

 何か甘いものが飲みたくなった香澄は、学校の自販機の前に来ていた。

 オレンジか、リンゴか。いちごオレとかでもいいなぁ……などと考えて向かっていると、何やら見なれた後ろ姿が見えた。

 

「うーん……どれにしよう」

 

 飲み物を悩んでいたのは、出席番号2番。牛込りみであった。

 ショートカットの黒髪でサイドがちょこんと跳ねている、可愛らしい容姿の子である。

 出席番号の関係で席が後ろの方の香澄は、その位置の関係上、クラスメイトを眺めることが多い。りみを含め、後ろ姿だけは見慣れているわけだ。

 兎も角にも。これを期に、少しお喋りしてみようと思った香澄である。

 

「どれにするの?」

「ひゃあ!?」

 

 後ろから声を掛けるも、驚かせてしまった。そんなびっくりさせるようなことはしていないはずだが……。

 

「驚かせちゃったね、ごめんごめん」

「え、いや、あの……。だ、大丈夫、だよ」

 

 若干引きつったような笑顔を見せるりみ。香澄は、なるべく優しく自己紹介をりみに告げた。

 

「私、戸山香澄! 牛込さんだよね?」

 

 なんだか、ぎこちない表情をみせるりみ。

 緊張してると言った方がいいのかもしれないその怯えるような姿を見て、香澄はもう少し落ち着いて話すことにした。

 

「う、うん。あの……同じクラスだよね?」

「うん! 改めて、よろしくね!」

 

 ニコッと笑いかける。若干、肩の荷がおりたように表情を和らげるりみ。少しだけ、緊張が溶けたような気がした。

 

「牛込さん何にするの?」

「え? えっと……オレンジにしようかな」

 

 100円玉を自販機に入れる。

 ガチャコン! と音がして、オレンジが下に落ちた。

 りみは取り口からパックをを取り出し、場所を譲る。

 

「それじゃあ……私もオレンジにしようかな」

 

 自販機に千円を入れる。オレンジのパックと共に、お釣りがチャリンと返された。

 

「あの……」

「ん?」

 

 モジモジと、こちらを見上げてくる。何か言いたそうにしているものの、なかなか言えない様子。

 ……しばらくりみの目を見つめていると、意を決めたように口を開いた。

 

「……この前のグリグリのライブの時、スペースにいたよね?」

 

 まさかだった。香澄は、りみからグリグリとかスペースなどという言葉が出るとは思っていなかったのか、少しの間だけポカンとした表情をしていた。

 

「……あ、あの時の! ……もしかして牛込さんもいたの?」

「う、うん。私、前の方にいたんだ」

 

 そうだったのか

 にしても、りみのような子がライブハウスに居るとは。行かなそうな雰囲気があるのだが、意外とそうでも無いのだろうか。

 

 ……あ、もしかして。

 

「牛込さん、楽器とか、バンドとかしてたりするの?」

「ええと……。お姉ちゃんが、グリグリ……Glitter*Greenのギターなんだ」

「ええっ!?」

 

 香澄はつい声を上げてしまった。

 あの真ん中でキラキラしていた人が、りみのお姉ちゃんだったなんて。

 

「凄い! すごいすごいすごい!」

 

 あの時の興奮がふつふつと甦ってきた。香澄は、思わずりみの手を勢いよく取ってしまう。

 

「すっごいキラキラしてた!」

「……うん!」

「すっごいかっこよかった!」

「うん! ……えへへ」

 

 りみの手を強く握る。思いが伝わったのか、本当に嬉しそうな笑みを浮かべるりみであった。

 

 

 

 

 話も段々盛り上がってゆき、一緒に昼食を取りに教室へ戻る。

 その最中、香澄は気になっていたことを一つりみに聞いてみた。

 

「お姉さんギターやってるんだよね? 牛込さんは、なにか楽器やってないの?」

「えっ?」

 

 来てしまったか、と言った表情を浮かべるりみ。若干目を逸らしながら、渋々と言った感じで言った。

 

「えと……ベースを少しだけ、やってたんだ」

「ベース!」

 

 バンドの縁の下、ベースをやっていたというりみ。ふんわりとしたそのイメージと違い、香澄はビックリしてしまった。

 にしても、ベース……ベースか。今の所、ギターの私と、何をやるかわからない有咲しかメンバーはいない。

 花園さんはギターで被る上、そもそも師匠としてだし……。

 

 ……よし! 

 

「牛込さん!」

 

 香澄は意を決してりみの手をとる。「ふぇっ!?」と、声を上げて驚く牛込さん。

 

「牛込さんって、今バンドとか入ってる?」

「え、う、ううん」

 

 ビクつきながらも、ふるふると首を振る。

 バンドをしていない。香澄は、ついガッツポーズをしてしまった。

 ポカンとしたりみに、香澄は意を決して告げた。

 

 

「牛込さん! 私と一緒にバンドして下さい!」

 

 

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