なるべく落とさないようにはしたいのですが、何分どうなるのか予測不可能ですので……どうかよろしくお願いします。
「え、ええっ!?」
目を丸くして驚くりみ。そりゃそうだ。いきなりバンド入って下さいなどと言って、驚かない人などいない。その結果が、上下左右色々なところに視線を泳がし、とても動揺してるりみの姿であった。
「そ、そんな。戸山さん……うち、迷惑かけちゃうかもしれへんし……」
わたわたと、目に見えて困ってるりみ。困りすぎているせいか、りは何故か関西弁が漏れだしていた。
「関西弁だ! 関西住んでたの?」
「え、う、うん。中学の時こっちに越してきて……うぅ。油断すると出ちゃう……」
しょんぼりとする。そんな変じゃないのにな、関西弁。少なくとも、私は可愛いと思うよ。そんな事を香澄は考える。
「か、可愛い……」
どうやら口に出ていたらしい。思考の漏洩にりみが顔を赤くして俯いてしまった。
顔を赤くしているりみをどうにかして元に戻そうと奮闘していると、
「香澄」
後ろから声をかけられた。きゃっ! と声を上げ、咄嗟に香澄の後ろに隠れるりみ。
声の主は「やまぶきベーカリー」と書かれた茶袋を持抱える紗綾と、何故かスナッパーを手に持ったたえだった。
「沙綾! 花園さん! どうしたの?」
「どうしたのって、自販機に行ったきりあんまり来ないから。……あれ、牛込さんも一緒なんだ。」
若干、私の後ろに隠れていたりみに気づく。声をかけられた牛込さんは、「ふぇ!?」と声を上げた。
「ああああの、えと……」
またもや、わたわたと慌て出すりみ。
「沙綾! 牛込さん凄いんだよ! ベースが弾けるんだって!」
「ちょ、ちょっとだけだよー……」
「ベースかぁ。凄いんだね、牛込さん」
「でしょでしょ! だから、今スカウトしてたんだー」
チラッと牛込さんを見る。りみは、まだワタワタと慌てた様子だった。
「まぁ、ここで話してるのもあれだし。向こうに座らない?」
沙綾が指を向ける。指の先には、大きな木の周りを木製のベンチが囲んでいる粋な空間があった。木が日差し避けにもなっていて、とても気持ちよさそうな場所であった。
端からたえ、沙綾、りみ、香澄の順でベンチに座った。たえと、沙綾、香澄は自分の弁当箱を開け、りみは「やまぶきベーカリー」と書かれた袋を開けた。
「そういえば、牛込さんよくウチに来てくれるよね」
ふと、沙綾が口を開いた。「今日もチョココロネ買っていってくれたっけ」と、今朝の事でも思い出しているようだった。
「そうなんだ!」
「う、うん。やまぶきベーカリーのチョココロネ、凄い美味しいから……」
「あはは、ありがとう。そう言ってくれると、作った甲斐があるなぁ」
朗らかに笑う沙綾。次、りみが来た時サービスをしてくれるとも言っていた。良いなぁ、私にもして欲しい。
「ふふっ、香澄にもサービスしてあげるね」
「えっ、声にでてた?」
「ううん、なんだかして欲しそうな顔してたから」
そういう事だったのか。というか、そんなに分かりやすい表情を私はしていたのか。
確認の為、自分の顔をふにふにと触っていると、
ギュイーン!!
いきなりギターの音が鳴り響いた。みんな驚いて、その犯人の方を見る。
ジャカジャカとギターを鳴らしていたのは、たえだった。たえは、ギターを弾いてメロディを奏でながら口を開いた。
「パンを買うなら~やまぶきベ~カリ~♪」
なんと、やまぶきベーカリーの歌だった。でも、なんでいきなり弾いたのだろう。
「うーん……。弾きたくなったから?」
……そっか。なら仕方ないね! 牛込さんが再びワタワタしている隣で、香澄は深く考えるのをやめた。
たえがジャカジャカとギターを弾く横で、香澄は沙綾に聞いた。
「そういえば、花園さんと沙綾はなんで一緒にいたの?」
「え? うーん……。なんか、花園さんから、パンの匂いがする! って話しかけられて。香澄を待ってるって言うから、なら一緒に待とうってなって……」
なるほど、そういう事だったのか。
ていうか、たえも、私と同じ事言っていたようだ。沙綾から、パンの匂いがするって……。
「私、そんなにパンの匂いするかなぁ」
自らの匂いを、スンスンとかぐ沙綾。そうなんだよ、沙綾からはパンのいい香りがするんだよね。ずっと嗅いでいたいような。
「……なんか、恥ずかしいな」
頭を描きながら照れる沙綾。確かに、他人に「パンのいい匂いがする!」って言われて素直に喜ぶ人なんて居ないだろう。
……閑話休題。
「そうだ! 牛込さん!」
本題を忘れていた。今は、やまぶきベーカリーについて話している場合じゃない。
「ふぇ!? な、なに?」
「バンド! 一緒に……バンドを、組んでくれますか?」
「え、えっと……」
口を噤む。りみは、顔を下に伏せなにか悩んでいるようにも見えた。
……訪れる若干の沈黙。気がつけば、たえのギターも止んでいた。
たえが悩むたった数秒が、とても長く感じられていた。香澄達は、牛込さんの返事をひたすらに待っていた。
しばらくして顔を上げる。たえは、一瞬香澄を見たものの、香澄の目から目を逸らしたまま呟いた。
「……ご、ごめんなさい! やっぱり、やっぱり……出来ない!」
深紅の瞳に涙を浮かべながら、りみは叫んだ。