☆☆
あの後、りみに何度か理由を聞いてみたものの、詳しく教えてくれることは無かった。
多少強引にバンドに誘ったことのせいかな……と香澄は反省し謝りにも行ったが、
「違う、違うの!」
と言われただけで結局理由は分からずじまい。瞳に涙をうかべる時もあり、何も言えなくなる時もあった。
結局今日の放課後も、香澄の姿をちらりと一瞥しすぐさまバックを持って教室を出ていってしまった。
モヤモヤした気分のまま、有咲の蔵へ向かう。今日は、たえがアルバイトなのでギターは1人での練習だ。
どんよりとしてきた天気の中、とぼとぼと坂道を登り有咲の家へ入る。
おばあちゃんにいつも通り挨拶をして、倉地下への入口に着く。……すると、香澄の耳に何か軽快な音が届いてきた。
ピーン、ポーンというステップのようなその音。倉地下の中から聞こえてきたのは、ピアノの音だった。
地下にはアンプやソファ位しかないはずで、ピアノなんかなかったはずだが……。
ポーンポーンと音を確かめるようなその音を聞きながら。疑問を抱きながら、香澄は地下に降りた。
地下のピアノの正体は、有咲が弾くキーボードの音からだった。白を基調とした綺麗なピアノに指を置き軽やかに弾いていた。
ド、ド、ソ、ソ、ラ、ラ、ソ……これ、もしかして!
「キラキラ星だ!」
「うわぁ!?」
ジャーン! 不協和音が鳴る。有咲は、香澄の声にビックリして鍵盤を出鱈目に押さえてしまった。
「香澄! 驚かせんなよ!」
「ごめんごめん」
抗議を申し立てる有咲に謝り、ソファにギターを置く。香澄は、有咲に興奮しながら駆け寄った。
「ねぇねぇ! それってもしかして……」
「ん。キーボード。ローランドって名前」
鍵盤を押す。ポーンというピアノの音が、蔵の中に響いた。
「それに音も変わる!」
有咲がキーボードにあるボタンを押すと、鍵盤の音がファーンとした械音に変わる。なるほど、バンドマンはこれを使って色々な音を出していたのか。
にしても、有咲。これは……もしかして……!
「すごいすごい! ってことは有咲、もしかして……」
「う、うん。……そういうこと」
コホンと咳払いをする。その金色の瞳で香澄を見つめ、意を決したような表情口を開いた。
「わ、私を! ば、バンドに入れてください……」
「~~っ!」
若干下を向きつつも、照れたように香澄を見上げてくる。キュンキュンキュンと、香澄の心はふるふる震えた。ツンデレという文化を設立させた先人に敬意を払いつつ、香澄は両手を広げる。
「もっ、もちろんだよ~~っ!」
感極まり、有咲に抱きついてしまった。瞬間、声にならない声を上げながら、有咲の顔は真っ赤に染まり上がる。
「ちょ!? だ、抱きつくんじゃねーっ!?」
有咲の嬉声が、蔵に響いた。
☆☆☆
その後は有咲と簡単な曲をセッションをして、無事帰宅した。有咲曰く、
「暫くピアノやっていなかったからな……」
と言っていたものの、その腕前は初心者の私から見てもかなりのものだった。だって、きらきら星にいきなりオリジナルの伴奏を付けれるなんて、上手くないとは思わないよね。
そんな感じで。有咲と、時にたえを混じえて蔵練をする事数日……。
とある放課後の事だった。有咲が花咲川女子高校所属という事実に驚いた香澄は、有咲の家へと急いでいた。理由は当然、有咲に不登校の理由を詳しく聞く為。すっかり(何故か)通信制だと信じ込んでいた香澄は、その事実に声を上げて驚愕した。
入学式の際、「市ヶ谷さん」の新入生の言葉というものがあったのだが、休みだったのかそれは果たされなかった。今思えば、あの市ヶ谷さんが有咲の事だったのだろう。なんで気づかなかったのか。
もっと言えば、同じクラスに市ヶ谷さんも居た。入学からずっと休んでるクラスメイトの市ヶ谷さんが、蔵出会ってる市ヶ谷さんと同一人物だなんて。香澄は先生に、プリントを届けるよう伝えられるまで気づきもしなかった。
そういった理由もあり、往く道を急ぐ。
大股でズンズンと歩く途中で歩道に躍り出た香澄はブロンドヘアの外国人の姿を見た。
この地域は決して観光地という訳ではなく、外国人の姿を見るのは珍しい。背、でっかいなー。女の人綺麗だなーなどと、横目で見ながら歩いていると、
「えと、あの……うぅ」
なんと、りみが話しかけられていた。
りみの性格的に、外国の方いきなり話しかけられるというのはなかなか厳しいものがあると思う。
その結果というかなんというか。りみはワタワタと身振り手振りをし始め、誰がどう見ても目に見えて動揺し始めていた。これはいけない。
「牛込さん!」
香澄はいてもいられなくなり、りみは駆け寄った。「ふぇっ!?」っと声にならない声を上げながら、りみは振り向いた。
「と、戸山さん!?」
目を見開いて驚く。先程とは比べられないほど、ワタワタと慌て始めた。
「What?」
いきなりの香澄の登場に、外国人は首を傾げながら香澄達を見ている。
かなり身長差がある為、上からじーっと青い瞳が香澄を見下ろし、射抜いていた。若干怖気付いてしまった香澄は、とりあえず思いついた言葉を言い放った。
「は、Hello! I’m Kasumi! I’m guitarist!」
親指でグッと自身を指差し、言い放つ。
「……What?」
外国人は、再び首をかしげた。そりゃあそうだと、香澄は言い放ってから思った。