遠い音楽   作:冴月

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最新話までの流れがちょっと気になったので、急遽日常回。18話よりちょっと前の話です。

あと二、三回この日常会が続くと思われます。


18

 今日も今日とて、有咲の蔵でギターの練習だ。今日はたえがバイトでいない為、有咲とマンツーマンで練習なのである。

 

「おはよう有咲!」

 

 挨拶と共に蔵の中に入る。有咲は既にキーボードに楽譜を広げており、鍵盤を踏んずけて遊んでいるザンジと格闘していた。

 

「おはよう香澄」

 

 有咲はひょいとザンジを持ち上げる。ニャーと抗議を申し立てるザンジをソファの上に降ろすと、ひょいと有咲の膝上を駆け抜け、再びキーボードの上に鎮座した。香澄もザンジに合わせるようにソファに腰を下ろす。

 程なくして、バルが鳴きながら近寄ってきた。喉元を指でかいてやると、ゴロゴロと甘えた声を鳴らし、香澄の膝の上に納まった。

 

「んー、やっぱり可愛いねー」

 

 バルの頭を撫でながら言う。バルは気持ちが良くなったのか、目を閉じてそのまま眠ってしまった。

 

「……そういえば」

 

 なにか思うことがあるのか、香澄を見つめてくる有咲。

 いや、見ているのは私の上の方……?

 視線の違和感を感じている香澄を余所に、膝で寝ているバルを見つめる。交互にバルと香澄とを見つめ、真剣な顔をして言った。

 

「香澄のその髪型って、猫耳なの?」

 

 思わずずっこけそうになった。いや、ソファに座っていたから、決して転んでしまうことは無いのだが。その位、斜めからの質問だった。

 

「ち、違うよ! これは、星をイメージしてるの」

「ふーん、そうなのか」

 

 またもやバルと見比べてくる。

 

「てっきり、猫の耳にでも似せてるのかと思った」

「ち、違うよ。確かに猫耳に見えるけど……」

「そうか、やっぱり猫じゃん。ほら、にゃーんって」

「い、言わないよ!」

 

 これは猫耳じゃなくて星! それを伝えるのでその後10分を要してしまった。絶対有咲巫山戯てるでしょ!

 

「さて、巫山戯るのは大概にして」

 

 やっぱり巫山戯てた! 有咲酷い!

 

「香澄、これ見てくれ」

 

 机の上に、数枚の紙を置く。数本の線が横長に引かれていて、その上に音符が散らばっている。音楽の教科書でよく見た、所謂楽譜というものだった。

 

「これって……楽譜?」

「うん。スコア、とも言うんだけど」

 

 有咲が立ち上がり、キーボードへとむかう。スコアを立てかけて、キーボードに指を踊らせた。

 

「~~♪ ~~♪」

 

 左手でリズムを、右手で主旋律を奏でる。右手が畝り、左手が跳ねる。堂々とした佇まいはこの蔵の王かと錯覚する程であり、その姿は数年前にピアノを辞めたとは思えない程、見惚れてしまうものだった。

 

「~~~♪~♪」

 

 何だか元気が出てくる曲調だった。不安なところは一切感じさせず、体の底から湧き出るドキドキを、そのまま曲にしたような感じだった。

 有咲の演奏が終わると、香澄は無意識に拍手を送っていた。

 

「凄い! 凄い有咲! すっごくドキドキした!」

 

 うきゃあ! と声を上げ、精一杯の拍手を送る。香澄は、なんだか体の温度が3度くらい上がっているような気がした。

 そんな香澄の様子に、有咲は照れたように頬を紅潮させながら、

 

「お、おう……」

 

 と言って、目線を逸らしてしまった。

 そんな有咲に少しキュンとしながら香澄は楽譜を手に取る。四方の角が丸くなっていたり、皺が出来ていたり。使い込まれたような形跡が楽譜にはありありと残っていた。

 まだほんのりと顔が赤い有咲は、香澄のギターケースを指さしながら言った。

 

「これ、実はランダムスターのケースにあったんだ」

「えっ?」

「香澄に渡すずっと前に、蔵の整理してたら見つけてさ。その時はなんとも思って無かったんだけど、いざバンドやるってなったら思い出して。ちょっと練習してみたんだ」

 

 そうだったのか。香澄はてっきり、隠れて有咲が作っていたのかと思っていた。

 

「流石にまだ出来ないな。まだ勉強中」

 

 「作曲初歩」と書かれた本を取り出す有咲。いくつかのページには付箋が貼ってあり、勉強していることが見て取れた。

 何だか感動してしまった。思いつきで有咲を巻き込んでしまったのに、ここまで真剣に考えてくれていたなんて……。

 

「……この曲って、まだ途中までしかないの?」

 

 感動は置いておいて、ちょっと気になったことを聞いてみた。

 曲を聴いていて思ったのだが、終わり方が不自然な上、早すぎるような気がしたのである。

 

「うん。Aメロとサビっぽい所しかなくて、歌詞もない。何かの曲のアレンジかなってあると思って調べてもみたんだけど、調べた限りでは似たような曲は出てこなかった。……多分だけど、これは作りかけの曲って事だ」

 

 うんうんと頷く。因みにタイトルもないらしい。

 ……作りかけの、曲か。ランダムスターの前の持ち主が作ったまま、忘れていたのだろうか。なんて勿体ない。

 

「ねぇ、有咲。この曲、私たちで完成させようよ!」

「……はあ?」

 

 ポカンと、口を開けたままになる。そんな有咲に矢継ぎ早に言葉を続ける。

 

「こんなにいい曲なのに、忘れられるなんて勿体ないじゃん!」

「そ、そうだけど……続きは誰が作るんだ?」

「私と有咲!」

「歌詞は?」

「私が書いて、有咲が添削!」

「わ、私が添削?」

「もしかして作詞の方が良かった?」

「いやいやいや! 私に作詞なんて無理だって!」

「じゃあ私が作る!」

「えぇ……」

 

 呆れたように、そして怠くなったかのように、姿勢が丸くなる有咲。背中が曲線になり、おばあちゃん並に円を描いていた。

 

「私、この曲完成させたい! 私達の最初の曲として、精一杯作って、演奏したいの!」

 

 だからお願い! 香澄は頭を下げた。

 ……少しの間沈黙が続く。しばらくすると、はぁ、と。有咲のため息が聞こえた。

 

「し、しょうがねーな。そこまで頼まれたなら仕方ないし……」

 

 バッと頭を上げる。目を合わせようとしない有咲が、そこにいた。

 

「ただし! 本当に初めてだからあんまり期待するなよ!」

 

 ビシッと指を突きつけてくる。少し照れたように、けれどもツンツンとしながら言う有咲に私は、

 

「も、もちろんだよ~~っ!!」

 

 思わず抱きついた。

 

「ちょま!? だ、だきつくんじゃねーーー!」

 

 有咲の声が、質屋中に響きわたった。

 

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