今日は練習と言うよりも、曲作りである。たえは有咲につきっきりで作曲中。集中しているので邪魔をしたくなかった。
その隣で香澄はリリック……歌の詩を作る事にした。有咲から、未完成なままの「曲」のデータを貰い、スマートフォンで曲を再生しながらノートを開く。
うーん……私達が歌うんだし、あまり難しい言葉を入れるのは止めようかな。昔の言葉もあまり曲調に合わないし、かと言って幼稚すぎるのもなし。アニメの戦隊もののオープニングのような曲調でも無いから、それも無しで……。
色々考えていくうちに、ノートに思いつくフレーズを書き出してみる。青い空、汚れた看板は美しく……行き交う人は流れ……。
ここまで書いて、香澄は書き出したフレーズに大きくバッテンを上書きした。
なんか……なんか違う。私達の感じじゃない。全然、ドキドキしない。
方向性を改めて考える。目指すは王道ガールズポップ。キラキラで、ドキドキで、トキメクような歌詞。
香澄の歌詞作りは、苦悩にまみれていた。
☆☆☆
「さーやぁぁ! たすけてぇえ!」
「な、何何どうしたの!?」
数日後の朝一番。無事に遅刻をせず、寧ろ余裕を持って登校できた香澄は、沙綾に泣きついた。
状況が呑み込めず、とりあえず泣きついた香澄の頭に手を置いてくる沙綾に事情を説明した。
「なるほど、作詞をするんだ」
「そうなの! けど、全然ドキドキしなくって……」
「へぇ……。香澄って、文章作るの苦手そうだもんね」
「えぇー、どうして?」
「うーん……。なんとなくだけど、自分の口では話すのが苦手な人が文章って作るのが得意な気がするんだ」
あっ、悪い意味じゃないよ! と沙綾は付け足した。
でもなるほど。ちょっとだけ、分かるような気がした。
だとしたら、私はどういう風に歌詞を作ったらいいんだろう。香澄は、一層悩むことになってしまった。
「ところで、ちょっとは歌詞できてるの?」
「出来てるけど……ちょっと、その」
「その?」
「……恥ずかしいし。なんか、バカっぽいし……」
下を向きながら言う。おずおずとノートを取り出した香澄だが、それを渡すのをためらっていた。
しかし、沙綾はキョトンとした顔をした後に一転。そんな香澄を笑い飛ばした。
「あはは! そんな心配しなくても大丈夫だよー。最初から、上手くできる人なんていないって」
ポンと肩に手を置いてくる。そして、優しそうな笑顔を香澄に向けた。
「……うん、そうだよね。分かった、沙綾に見せるよ」
けど、笑わないでねと香澄は付け加え、恥ずかしさで目を逸らしながらもノートを沙綾に渡した。
「…………」
書かれた詩を目で追ってゆく。段々と下に視線がいく度に、香澄も段々と下を向いて行った。
そして、数秒後。沙綾が口を開く。
「……香澄。これ、香澄が考えたの?」
「え、う、うん」
言葉に詰まってしまった。沙綾のその真剣な表情に、驚いてしまいしどろもどろになりながら答えた。
「……いい、凄く、いいと思う」
ニコッと目を細め、沙綾はそう言い放った。
「すっごく、香澄らしいというか。ストレートに気持ちが伝わってくる」
「ほ、本当?」
「うん! 私は、この詩大好きだよ」
その言葉が、どれ程有難いものだったか。香澄は無意識にぷるぷると震えていた。
「下を向いていても、星を見つければ会いに行ける……。もしかして、実際にあったこと?」
「う、うん」
香澄は、ポツリポツリと話し始めた。
キラキラするギターに出会い、忘れかけてた
「なるほどね。花園さんと市ヶ谷さんの話は聞いてたけど、星を辿ったらランダムスターに出会うだなんて……すっごい奇跡かも」
「そうだよね! 私、もうこの子しかないっ! って思っちゃって」
机の横に立てかけてあるランダムスターに触れる。
トクン、という、まるで呼応するかのような鼓動が聞こえた気がした。
「そう言えば、この『BanG_Dream!』っていうのは……?」
ノートの中盤。『BanG_Dream!』というフレーズを指さしながら沙綾は聞いてくる。
「これは、その……。ギターを初めて見て、キラキラドキドキして。テンションが上がっちゃった時につい言った言葉なんだ」
「へぇ……なんかいいね!
「ほ、本当!? 良かったー……」
なんだか、勇気が出てきた気がする。
星に導かれて、香澄が出会ったもの。キラキラドキドキするもの。忘れかけてた
始業のチャイムが鳴る。クラスメイトが席につく中、静かに歌詞は完成した。
☆☆☆
その日の放課後。有咲の家に走って向かう。
早く歌詞を見せたい──その一心で、香澄長い階段を一休みもせずに駆け上がった。
蔵に着いて、扉を勢いよく開ける。有咲はパソコンから例の曲のメロディを流している最中だった。
もはや、扉が勢いよく開くことに驚かなくなった有咲は、一言「おはよう」と声をかけくる。
「おはよう有咲これ見て!」
矢継ぎ早に言葉を吐き出し、バン! とノートを有咲に提示した。
いきなり突き出されたそれを驚きつつも受け取った有咲は、恐る恐る付箋が付いたページを開く。
「歌詞、完成した! 有咲に、確認して欲しいんだ!」
「おーマジか」
感心したように声を上げて、有咲が読み始める。少し、恥ずかしかったものの、沙綾が褒めてくれたのだ。何も変な所はない。そう思い有咲が読み終わるのを待った。
数十秒後。有咲がノートをパタンと閉じた。
「なんというかその……すっごい、香澄らしい」
沙綾と同じ反応だった。キョトンとした香澄を見た有咲は、慌てて「わ、悪い意味じゃないぞ!」とつけ加える。
「なんて言ったら良いかな……。香澄が言いたいことを、香澄が自分の言葉で表現したって言うか……その、凄くいいと思う」
褒めることに慣れていないのか、ちょっと照れながら有咲は答えた。
そんな有咲に。香澄は感謝の意を込めて、
「あ、ありがとーー!」
「ちょお!? だ、抱きつくなー!」
その後数分間は、有咲の顔が赤かったり正常に機能していないこともあり作業休止となっていた。
しばらくして香澄の感謝の抱擁から開放された有咲。ノートに書かれた歌詞を改めて見ながら、感心したように言った。
「しかしよく考えたな。『In the name of BanG_Dream』……『BanG_Dreamの名の元に』って意味だろ?」
「うん」
「よく思いついたよな。なんだか、香澄らしいけど、らしくないというか……」
何それ! なんか私、バカにされてる気がする!
「香澄にしては頭良すぎる言い回しだな」
「何それ! 私頭は意外と良いんだよ!」
「へぇー意外だな。私はてっきり悪いもんだと……」
「有咲酷い!」
ブーブーと反論をはやし立てるも、有咲はそれを華麗にスルー。パソコンからメロディを流しながら、ノートに丸を付けていた。
「有咲、何してるの?」
「んー……。歌詞とメロディを照らし合わせてるんだ。言葉が違和感あったり、メロディと合っていない部分があるだろうから、そこを考え直さないと」
「あーそっか!」
何も考えてなかった! とりあえず、思いついた言葉をスラスラと書き並べていっただけだったので、メロディとの兼ね合いなんか何も考えてなかった。
「でも凄いな。殆どリズムにあってる」
「本当!?」
メロディに耳を済ませてみる。頭の中にインプットされた「例の曲」の歌詞と、有咲とたえが作ったメロディが奇妙な程馴染んでゆく。
本来であれば、解けないはずの紐が、ゆっくりと解けていくよう。
「……
何度も何度も、反芻する。噛み進めていくにつれて、その紐は解けていく。
本来、解ける筈のない