遠い音楽   作:冴月

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長くなりました。
その上まとまってない感ありますが、筆は乗りました。





22

 週末。今日は練習は休みにして、グリグリのライブを見に行くことになっていた。

 有咲とたえと共に、SPACEに向かう。どうせなら皆でと思い、沙綾とりみも誘ったのだが、沙綾家の手伝いがあるとの理由で断られてしまった。りみの方は、お姉さんがいる関係で先に行っているとの事で、後で合流しようということになっていた。

 皆で談笑しながらSPACEへと歩く。たえと有咲が、自身の飼っているウサギのオッちゃんとザンジ&バル自慢を始めたところで香澄達はSPACEについた。

 

 高校生3枚のチケットとワンドリンクで中に入る。ガヤガヤとしたお客達の話し声が、香澄の気分を高揚させた。

 有咲もたえも何だか興奮した様子だった。たえに関しては、ライブが始まっていないのにブレードの光をつけて振っており、有咲が必死に収めていた。

 

「やっぱりライブはワクワクするね」

 

 目を煌めかせステージ見つめながら、たえが言った。未だ興奮は覚めていないようで、先程注意されたばかりのペンライトを忙しなくチカチカ点灯させていた。

 香澄は、「そうだね!」と相槌をうちながら、有咲の眺める参加者一覧を覗こんだ。今日の香澄達の目的であるグリグリの出番は1番最後。トリだった。

 暫くすると、室内の証明が落ちる。真っ暗なのも束の間、直ぐに鮮やかな7色のライトでステージが照らされた。

 ステージ脇から、手を振りながら演者が現れる。お客さん達は、ペンライトを振りながら必死にそれに応えていた。

 香澄も負けじとライトを振る。暴走気味な金髪ドラマーのズンズンと響く音で香澄の気分はズンズンと上がってゆき、次第に香澄はライブへと飲み込まれて行った。

 

 

☆☆☆

 

 雰囲気は最高潮だった。きゃあきゃあという、留まる事を知らない観客の嬉声はライブハウスを振動させていた。

 満を持して次の演者が現れる。確か、次は4人組のバンドだった……はずなのだが、何故か前の演者が現れた。香澄達を含め、観客はどよめき始める。

 

「みんなー! 時間できたから、もう少しだけ付き合ってねー! ……まだまだ行けるかぁ!!」

 

 少々戸惑いながらも、おー! と声を上げる観客達。演者たちは、その歓声に頷くと再び演奏を始めた。

 何があったのだろうか。香澄はそう思い、カーテンで半分隠れたステージ端を見る。

 よく見ると、何やらスタッフと演者が真剣な顔で話していた。香澄は観客達の隙間をぬい、なるべく近くへと寄る。

 

「……グリグリバンドが遅れるって?」

「そう。だから、私達で来るまで繋げないと……」

 

 演者達が話してくる声が、少しだけ聞こえてくる。

 グリグリが遅れる? 一体どういうことなのだろう。

 

「……なんか、大変なことになってるみたいだな」

 

 有咲が言う。たえは途端に真剣な顔になり何があったのか聞いてくると言い放ち、客席から抜けていった。

 動揺することしか出来ない香澄は、とりあえず辺りを見渡してみる。観客達は、既に演者の演奏に飲まれており、魅了されていた。

 ……すると。視界の端に、見覚えのある姿が写る。

 ステージの端。暗幕がまとめられた裏に、何やら見た事ある顔が見えた。黒髪で、両サイドがピンと跳ねてて。ピンクを基調としたフワフワな私服をきた彼女は……。

 

「りみりんだ!」

 

 オーナーに頭を下げながら、オロオロとした様子のりみ。スマートフォンを握り締めたまま、下を向いて俯いてしまっていた。

 

「……私、ちょっと行ってくる!」

「えっ? あ、おい香澄!」

 

 有咲の制止を聞かず、香澄は舞台裏へ向かった。

 

 

 

 

     ☆☆☆

 

 

「MCでなるべく引き伸ばしてみますか?」

「お願いします! 出来るだけ引っ張て下さい!」

 

 舞台裏に着くと、スタッフ達が忙しなく動き回っていた。演者達もメイクや打ち合わせをバタバタと行っており、混沌とした状況が出来上がっている。

 

「どうしよう……」

 

 その混沌の端に。スマホを持ったまま固まっているりみがオロオロと立ちすくんでいた。

 

「りみりん! 何かあったの?」

「か、香澄ちゃん……」

 

 香澄の姿を見るなり、駆け寄ってくるりみ。

 りみは少し、震えながら言う。

 

「お姉ちゃん……お姉ちゃんが、まだ来てなくて……」

「えっ!?」

「お姉ちゃん、修学旅行で……。台風で、飛行機が遅れちゃって、まだ来ていないの……!」

 

 次が出番だと言うのに、他のバンドが出てきたのはそういう事だったのか。それで出番を他バンドと入れ替えて、グリグリが出れる可能性を高くしたと。

 

「それなら大丈夫……かな? 来るまで引き伸ばしてもらえば……」

「ダメだ」

 

 突然後ろから声が掛かる。杖を着いた、白髪の女性がそこに立っていた。

 

「……オーナー」

 

 SPACEの、オーナーだった。少々不機嫌そうに、眉に皺を寄せてこちらを睨んでいる。有咲はすっかり縮こまり、いつの間にか居たたえの後ろに隠れていた。

 かく言う香澄も、オーナーの気迫にすっかりやられ、少し気が弱くなっていた。

 

「客を待たせるなんでご法度だ。何があってもステージに立ち、客の期待を裏切らない。それが、バンドってものだ。」

 

 ……それは、そうだけれども。でも、りみりみの気持ちも汲んで欲しい。りみりんお姉さんが、せっかくライブをするのだ。それが台風なんて、どう対処しようもないものに邪魔をされて出来ないだなんて……。

 

「……これで遅れるようなら、もうステージに立つことは許せないね」

 

 まるでりみに追い討ちかけるように言葉を繋ぐ。りみは、その言葉にビクッと身体を震わせ、ゆっくりと香澄を見上げた。

 

「り、りみちゃん! 出来るだけ時間稼いでみるから!」

 

 心配してくれた出演バンドの演者が声をかけてくれる。それに対し、りみと香澄はコクコクと頷くことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 約一時間後。グリグリの前の、最後のバンドの演奏が終わった。

 グリグリは……

 

「……さっさと片付けを始めるよ」

 

 ──間に合わなかった。

 トントンと、オーナーが杖を急かすようにつくと、スタッフ達が慌てて動き出した。

 オーナーはスタッフたちが動き出すのを見届けた後、コツコツと音を立てて部屋を出ていった。

 

「お姉ちゃん……」

 

 りみの瞳に涙が浮かぶ。香澄は、そんなりみの手を握るしかできていなかった。

 

「……香澄」

 

 有咲が肩に手を置く。……もう帰ろうと、その表情は物語っていた。

 

「……(このまま、何も出来ずに帰っていいのかな)」

 

 そればかり考えていた。せっかく、私にキラキラドキドキを与えてくれたグリグリが。「友達」のりみりんが目の前で困っていると言うのに、私は何もできないのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そんなのは、嫌だ。何もできずに終わるのだけは嫌だ。

 

 どうせ終わるのなら、精一杯出来ることをしてからにしたい!

 

 

 そう奮起すると、香澄の足は自然とステージへと向かっていた。

 

「お、おい! どこ行くんだよ!」

「どこって、ステージだよ! グリグリが来るまで引き伸ばさないと」

「はぁ!? 馬鹿なこと言ってんじゃねぇ! ステージ行って何ができるんだよ!」

「出来るできないじゃなくて、やるんだよ! 有咲は、せっかくきっかけをくれたグリグリが、このまま終わっていいの?」

「そ、それは……」

 

 バツが悪いように、言葉が詰まる有咲。そんな有咲を後目に、香澄はステージへとむかう。

 

 

 

 

 行き交うスタッフの隙間を縫い、舞台袖へとたどり着く。そこから、困ったように見上げるお客さん達が見えた。

 

「えー、グリグリはー?」

「楽しみにして他のになぁ……もう帰ろっか」

 

 既に扉へと向かっているお客さんもいた。もはや、全員帰るのは時間の問題だった。

 

 ーー待って、行かないで! その一心で、香澄はマイクに向かって叫ぶ。

 

「こ、こんにちわーーーっ!」

 

 

 お客さん達が一斉に振り向く。沢山の目が、香澄を貫いてくるのを感じる。

 

「……? 誰?」

 

 空気が止まる。

 お客さん達が不思議そうな目で、香澄を見てくた。

 その目が、香澄をたまらなく怖くさせる。

 

「(あんなこと言ったけど、何も考えてなかった……ど、どうしよう……)」

 

「えと、あの……」

 

 その瞬間。唐突に、香澄の頭にあの曲が流れてきた。

 初めて、有咲と作ったあの曲。キラキラドキドキの、奇跡を感じたあの曲なら、お客さん達はまだ帰らないでいてくれるかもしれない。

 香澄にはよく分からない自信と確信が湧き上がった。

 

「……っ!」

 

 ステージ裏に駆け込む。どうしても、どうしても"ギター''と''キーボード''が今、欲しかった。

 

「香澄」

「? おたえ!」

 

 不意に、扉からたえが現れた。舞台袖へ行ったタイミングではぐれてしまっていたのだ。

 

「じゃなくておたえ! SPACEってキーボードとギターって借りるれる?」

「もちろん。そのつもりで持ってきたよ」

 

 たえ。ガラガラとローラーのついたキーボードと、ギターを2本持ってきていた。

 偶然にも、ギターは練習で引かせてもらったスナッパーの似たもので、弾く分には困らなさそうだ。

 

「ナイス! あとは……」

 

 後ろで、じっとこちらを見ている有咲。負けじと香澄も見つめ返す。

 

「有咲。あの曲なら、お客さん帰らないでいてくれるかもしれない」

「……そんな自信、どこから湧いてくるんだよ。第一、ドラムとベースパートがまだ……」

「あの曲は、奇跡の曲なの。私達にキラキラドキドキをもたらしてくれる、(ネガイ)を打ち抜ける曲なの」

「……」

「あの曲なら、お客さん達の夢を壊さずにいられるかもしれないの。……だから有咲!」

 

 じっと、有咲を見つめる。香澄自信の思いを届けるかのように、じっと有咲の瞳を見た。

 

 

 

 

 ……数秒後。有咲の口からため息が漏れる。

 

「……あーもう分かったよ! やればいいんだろ! 失敗しても知らないからな!」

 

 照れながらも、吹っ切れたようにステージに向かう有咲。香澄は、たえと顔を合わせニヤリと笑う。

 

「よし……それじゃあ行こう!」

 

 

 香澄達は、ステージへと踏み出した。

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