遠い音楽   作:冴月

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なかなか思い切ったことをしたのかなと、今更ながら思っています()


23

 ガラガラキーボードを引きながらステージヘ上がろうーーその時だった。

 

「何してるんだあんた達!」

 

 カツカツと近づく杖の音。現れたのは、いかにも機嫌が悪そうなオーナーだった。眉間に皺を寄せ、獣のような眼光向けられた香澄達は、竦まざる得なかった。

 

「あたしのSPACEで、勝手なことをしてもらっちゃ困るね。ここで演奏出来るのは、オーディションに合格した奴だけだって知ってるだろう」

 

 ギロリと睨みつけてくる。オーナーは香澄と有咲を一瞥した後、たえの事を見て一層皺を寄せた。

 

「特に花園! あんたはスタッフだろう! いくら今日が休みだからって、していい事と悪いことがあるのは分かってるだろうね?」

 

 オーナーはたえににじり寄る。たえは少し後ろに後ずさり、「ううっ……」と、返事かもわからない声を上げた。

 その勢いのまま、今度は香澄に噛み付いてくる。

 

「それにあんた! 何勝手にステージに上がってるんだい! ステージに上がれるのは、合格した演者だけだって知っているだろう!」

 

 凄い剣幕だった。その圧力に負けそうになるものの、香澄は負けじと言い返す。

 

「知ってます! けど、あんなにキラキラしているグリグリを、演奏させずに終わらせるなんて……」

「客を待たせるのはご法度だ。客の期待を裏切らないのがバンドって、さっき言っただろう?」

 

 先程聞いたばかりの言葉だった。

 

「お客さんの期待を裏切らない」。

 

 それは人々の前に立ち、ショーを行う演出達にとって最重要項目だった。オーナーは、それをただ守っていただけなのだ。

 オーナーは、少しだけ目じりを和ませて香澄達に話す。

 

「そりゃああんたの気持ちもわかる。あたしだってグリグリは素晴らしいバンドだと思うし、SPACE(ここ)で演奏するべきバンドだ。だけどね……これ以上はお客さんを待たせられない。バンドを大事にする以上に、あたしはお客さんを大事にしなければいけないんだよ」

 

 目を香澄達から背ける。SPACEのオーナーであるが故に、自分よりもお客さんを優先させなければならない。折角来てくれたお客さんに、最高のエンターテインメントを提供しなければならないのだ。

 

 ……数秒の沈黙。

 オーナーは、目を逸らしたまま香澄に口を開く。

 

「……それでもやるんだったら、あたしは止めないよ。」

「……!」

「お客さんを満足させる。Glitter*Greenまで繋げてくれる。最高のエンターテインメントをしてくれるって言うんなら、あたしは止めない」

 

 重い。香澄の身体に圧がかかる。

 お客さんの期待を、その背に乗せて演奏しろとオーナーは言うのだ。

 香澄は、重圧を払い落とすかのように声を上げた。

 

「……私は、何もしないで終わりたくありません! 私にキラキラドキドキする事を教えてくれたグリグリの為に、何も出来ないなんて絶対にやだ!」

 

 思いを、口で伝える。しっかりと据えた目をオーナーに向けると、オーナーの目が少しだけ見開かれる。

 

「それに、Glitter*Greenは音楽をやりたいからSPACE(ここ)で演奏するんですよね。音楽はやりたい時に、やりたいだけやればいい……私はそう教えてもらいました」

 

 驚いたような表情をするオーナー。そんな姿を余所に、香澄は続ける。

 

「けど……やりたい人が音楽を出来ないだなんて、そんなの全然ドキドキじゃない!」

 

 独りよがりのロックでも、華麗でキュートでキラキラなポップでもなんでもやればいい。

 そんなやりたいのに出来ないなんて言う事が、香澄は許せなかった。

 

「だからお願いします! 私達に演奏させて下さい! グリグリまで、ドキドキを繋げさせてください!」

『お願いします!』

 

 香澄に続いて、たえと有咲の声が被る。有咲も、たえも、同じ気持ちだったのだろうか。打ち合わせなどしていないのに、その懇願の声は被った。

 

 頭を深々と下げ、オーナーの返事を待つ。目を瞑り、頭を下げ、香澄はただひたすら待った。

 

 

 

「……」

「……」

「…………」

「…………」

 

 沈黙が続く。それを破るかのように、オーナーは口を開いた。

 

「……好きにしな」

「!」

 

 ガバッと顔を上げる。オーナーは、香澄達の方こそ向いていなかったものの、その表情は幾分か和らいでいる気がした。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 再び頭を下げた。オーナーは、フンと鼻を鳴らしただけで香澄を見もしない。

 それを肯定と捉えた香澄は、2人に声をかけて、

 

「行こう!」

 

 ステージへと上がった。

 

 

 

☆☆☆

 

 お客さん達は、突然起こった香澄の登場に戸惑っていたままで、帰ってはいなかった。

 急いでチューニングをする。香澄とたえはギター2台をアンプに繋ぎ、有咲はキーボードを起動した。

 ポンポンポンと音の確認をする有咲をよそに、ギターのチューニングを簡単に済ませた香澄は、ピックを弦に振り下ろした。

 

 ギュイーン! ステージに音が迸る。観客達の間を走り抜けて行った音は、ステージに視線を集めるには充分だった。

 なんだなんだと寄ってくる観客。そんな観客を見て、香澄とおたえ、そして有咲は真剣な顔でアイコンタクトをした。

 

「こんにちは! 私達……えっと……蔵party(仮)です!」

 

 蔵party? 大丈夫なの? と、観客から不安と疑問の声が上がる。

 それは無理もない。本来出てくるハズのグリグリではなく、蔵party(仮)とかいうよくわからないバンドが出てきたのだ。しかも、ギター2、キーボード1というアンバランスな構成。不安の声も上がって当たり前だ。

 そんな中でも、香澄は言葉を続ける。

 

「グリグリ……Glitter*Greenが来るまで! 私達の音を聞いてくれると幸いです!」

 

 返事をするように、おたえがギターを走らせる。香澄は、マイクを両手で掴み、叫んだ。

 

「今の私達の、最高の音楽を……聞いて下さい! 『Yes! BanG_Dream!(夢を撃ち抜け!)』」

 

 未完成な音楽(キズナ)が、始まった。

 

 




私の中で、Yes! BanG_Dream!は原点して頂点みたいなとこがあります。
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