ガラガラキーボードを引きながらステージヘ上がろうーーその時だった。
「何してるんだあんた達!」
カツカツと近づく杖の音。現れたのは、いかにも機嫌が悪そうなオーナーだった。眉間に皺を寄せ、獣のような眼光向けられた香澄達は、竦まざる得なかった。
「あたしのSPACEで、勝手なことをしてもらっちゃ困るね。ここで演奏出来るのは、オーディションに合格した奴だけだって知ってるだろう」
ギロリと睨みつけてくる。オーナーは香澄と有咲を一瞥した後、たえの事を見て一層皺を寄せた。
「特に花園! あんたはスタッフだろう! いくら今日が休みだからって、していい事と悪いことがあるのは分かってるだろうね?」
オーナーはたえににじり寄る。たえは少し後ろに後ずさり、「ううっ……」と、返事かもわからない声を上げた。
その勢いのまま、今度は香澄に噛み付いてくる。
「それにあんた! 何勝手にステージに上がってるんだい! ステージに上がれるのは、合格した演者だけだって知っているだろう!」
凄い剣幕だった。その圧力に負けそうになるものの、香澄は負けじと言い返す。
「知ってます! けど、あんなにキラキラしているグリグリを、演奏させずに終わらせるなんて……」
「客を待たせるのはご法度だ。客の期待を裏切らないのがバンドって、さっき言っただろう?」
先程聞いたばかりの言葉だった。
「お客さんの期待を裏切らない」。
それは人々の前に立ち、ショーを行う演出達にとって最重要項目だった。オーナーは、それをただ守っていただけなのだ。
オーナーは、少しだけ目じりを和ませて香澄達に話す。
「そりゃああんたの気持ちもわかる。あたしだってグリグリは素晴らしいバンドだと思うし、
目を香澄達から背ける。SPACEのオーナーであるが故に、自分よりもお客さんを優先させなければならない。折角来てくれたお客さんに、最高のエンターテインメントを提供しなければならないのだ。
……数秒の沈黙。
オーナーは、目を逸らしたまま香澄に口を開く。
「……それでもやるんだったら、あたしは止めないよ。」
「……!」
「お客さんを満足させる。Glitter*Greenまで繋げてくれる。最高のエンターテインメントをしてくれるって言うんなら、あたしは止めない」
重い。香澄の身体に圧がかかる。
お客さんの期待を、その背に乗せて演奏しろとオーナーは言うのだ。
香澄は、重圧を払い落とすかのように声を上げた。
「……私は、何もしないで終わりたくありません! 私にキラキラドキドキする事を教えてくれたグリグリの為に、何も出来ないなんて絶対にやだ!」
思いを、口で伝える。しっかりと据えた目をオーナーに向けると、オーナーの目が少しだけ見開かれる。
「それに、Glitter*Greenは音楽をやりたいから
驚いたような表情をするオーナー。そんな姿を余所に、香澄は続ける。
「けど……やりたい人が音楽を出来ないだなんて、そんなの全然ドキドキじゃない!」
独りよがりのロックでも、華麗でキュートでキラキラなポップでもなんでもやればいい。
そんなやりたいのに出来ないなんて言う事が、香澄は許せなかった。
「だからお願いします! 私達に演奏させて下さい! グリグリまで、ドキドキを繋げさせてください!」
『お願いします!』
香澄に続いて、たえと有咲の声が被る。有咲も、たえも、同じ気持ちだったのだろうか。打ち合わせなどしていないのに、その懇願の声は被った。
頭を深々と下げ、オーナーの返事を待つ。目を瞑り、頭を下げ、香澄はただひたすら待った。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
沈黙が続く。それを破るかのように、オーナーは口を開いた。
「……好きにしな」
「!」
ガバッと顔を上げる。オーナーは、香澄達の方こそ向いていなかったものの、その表情は幾分か和らいでいる気がした。
「あ、ありがとうございます!」
再び頭を下げた。オーナーは、フンと鼻を鳴らしただけで香澄を見もしない。
それを肯定と捉えた香澄は、2人に声をかけて、
「行こう!」
ステージへと上がった。
☆☆☆
お客さん達は、突然起こった香澄の登場に戸惑っていたままで、帰ってはいなかった。
急いでチューニングをする。香澄とたえはギター2台をアンプに繋ぎ、有咲はキーボードを起動した。
ポンポンポンと音の確認をする有咲をよそに、ギターのチューニングを簡単に済ませた香澄は、ピックを弦に振り下ろした。
ギュイーン! ステージに音が迸る。観客達の間を走り抜けて行った音は、ステージに視線を集めるには充分だった。
なんだなんだと寄ってくる観客。そんな観客を見て、香澄とおたえ、そして有咲は真剣な顔でアイコンタクトをした。
「こんにちは! 私達……えっと……蔵party(仮)です!」
蔵party? 大丈夫なの? と、観客から不安と疑問の声が上がる。
それは無理もない。本来出てくるハズのグリグリではなく、蔵party(仮)とかいうよくわからないバンドが出てきたのだ。しかも、ギター2、キーボード1というアンバランスな構成。不安の声も上がって当たり前だ。
そんな中でも、香澄は言葉を続ける。
「グリグリ……Glitter*Greenが来るまで! 私達の音を聞いてくれると幸いです!」
返事をするように、おたえがギターを走らせる。香澄は、マイクを両手で掴み、叫んだ。
「今の私達の、最高の音楽を……聞いて下さい! 『Yes!
未完成な
私の中で、Yes! BanG_Dream!は原点して頂点みたいなとこがあります。