私は、昔から1人になりがちだった。
なにかあるとすぐ固まってしまうその性格のせいで、なかなかみんなと打ち解けられなかったのだ。
みんなに見られているとなるともう大変だった。何か発表するだけだとしても、直ぐに頭が真っ白になってしまう。テンパってしまって、目が回ってしまって。なにもできなくなってしまうのだ。
その為クラスの子とも上手く話せない。最近見つけた、山吹ベーカリーというパン屋さんのチョココロネを一人屋上でほお張る。その甘さだけが、私の中の癒しだった。
そんな生活の中、私にとって目の離せない子が現れた。
猫のような髪型で、いつもキラキラとしている子。戸山さんだった。
戸山さんは既にクラスのこと笑顔で話す事が出来ていた。クラスに一人っきりの子がいれば、声をかけてくれる。教室の端で困っている子がいれば、飛んできて助けてくれている。入学式の日、まだ始まったばかりなのに、周りが見えてキラキラを振りまいていた。
別に妬ましいとかそういうものではなかった。数日間、戸山さんと一緒の空間で学んでいただけだったが、戸山さんの常にある一生懸命さに。キラキラとした楽しそうな笑顔に、憧れを抱いていたのだ。
そんな戸山さんと、ひょんなことから私は話すことになった。
自販機で飲み物を悩んでいる時、後ろからたまたま声をかけてくれたのだ。
私は嬉しかった。たまたまでも、憧れであった戸山さんと話すことが出来たから。
そこで、気になることを聞いてみた。数日前、お姉ちゃんのライブを見に行った際、あの特徴的な猫耳……戸山さんが来ていたのを発見した。そのことについて聞いてみたのだ。
何故か隣に幻と噂の市ヶ谷さんが居たが、戸山さんならあの市ヶ谷さんでさえも友達にしてしまうのだろう。だから、あまり気にしないことにした。
戸山さんは、私がSPACEにいた事に驚いていた。確かに、私みたいな子がライブハウスに居るなんて思わないだろう。無理もない。
お姉ちゃんがグリグリに居ることを伝える。戸山さんは、テンション最高潮といったように私の手を握り、キラキラの目を向けながらグリグリについて話していた。
その姿に、私もつい嬉しくなって、心の底から笑顔を漏らしてしまった。
☆
ちょっと困ったことになった。私が、お姉ちゃんから譲り受けたベースを齧っていたと話すと、すぐさま「バンドやろう!」と誘われてしまったのだ。
戸山さんと、友達らしい山吹さんと花園さんが醸し出すホンワカした会話の中、私は必死に考えていた。
ーー私がバンド? 出来るの? ーーみんなに見られただけでテンパっちゃうのに?
グルグルと悪い考えが旋回する。
……でも、こんな私を変えなくちゃ。このまま、すぐ固まる癖を直さないと戸山さんみたいに……。
ーーでも私は戸山さんじゃない。
ーーここで頷いても、戸山に迷惑掛けちゃうだけ……。
その結果が、
「……ご、ごめんなさい! やっぱり、やっぱり……出来ない!」
この、ザマだ。
私はその場から逃げ出した。
☆
商店街を抜け、いつもの帰り道をゆく途中。私よりもかなり背の高い、ブロンドの男女の外国人が見えた。仲良さそうに二人で話しており、時折手元に持っている地図と、辺りの風景を確認するかのように建物を見ていた。
じっ……と、外国人の方を見る。英語で道を聞かれるなんて言うトンデモないことが起きてはたまらない。その為、様子を少し離れたところから見ていたのだが、
「……Excuse me?」
なんと、外国人はこちらに気づいて近寄ってきた。困っているような顔をして、もしもしと声をかけてくる。しかし当の私は、
「あ、え、えと、あの、その……うぅっ……」
案の定、テンパってしまって頭が真っ白だった。手振り身振りだけしかできず、口から言葉が出ない。
何も喋れない情けなさに、涙が出てきそうになった。その場から、今すぐ逃げ出したい、というか逃げてしまおうか……というその時だった。
「牛込さん!」
ふぇっ!? っと情けない声を上げて振り返る。明るそうな声と、あの特徴的な猫耳の髪型。後ろから声をかけてきてくれたのは、あの戸山さんだった。
戸山さんは私の前に出ると、何故か、英語で私はギタリスト! と外国人に説明していた。発音はとてもそれっぽく、相手にも伝わっているようだったが
「What?」
と困惑していた。
助けてくれたけど、決して戸山さんも英語を話せる訳では無い。普段の授業を見ている限りは、苦手な方だと思う。
とうに諦めていた私とは違って、
凄い、と思った。苦手の事なのに、思い切ってやっている。明るく、一生懸命で楽しそうで……それを目の前で見せつけられていた。
外国人を何とか案内した後、香澄ちゃんと公園に来た。
特に明確な理由はなかったが、あのまま帰るような気にはなれず。とりあえず公園に足を運んでいた。
公園のベンチに二人で腰かける。沈黙の時間が暫く続いたが、特段気まづくはならなかった。
私は……。香澄ちゃんと一緒の安心感からか、つい自分の心の内を話してしまう。
自分は、皆に見られるとすぐテンパってしまって真っ白になってしまう。
だから、そんな私との正反対の香澄ちゃんに憧れていた。こんな私をバンドに誘ってくれて、嬉しかった。
けど……私には出来ない。香澄ちゃんに、迷惑掛けちゃう。香澄ちゃんを、ガッカリさせちゃう。
そんな事を言った。
するとどうだろう。香澄ちゃんは謝ってきた。私の事情も知らないで、何度も誘ってくれた事を。
……ううん、香澄ちゃんは悪くないよ。悪いのは、勇気の出せない私の方。
そう言えればなんて良かったものか。生憎というかなんというか。私は何も言えず絶妙に悪い空気を作り出してしまっていた。
……横目でチラチラと様子を伺う。かしゃり、と星のキーホルダーを握りしめた香澄ちゃんは、唐突にギターケースを開く。
何故かきらきら星をギターで弾いてくれたけど……その姿はとってもキラキラでドキドキさせられた。
そして言ってくれた、「友達」と言う言葉。他のどんな言葉よりも、その言葉が心に響いた。
「大丈夫、1人じゃないよ」
そう言ってくれた、気がした。
そんな事もあり、私は香澄ちゃんのバンドの誘いを改めて考えてみようと思ったのだ。
正確には、考えると言うよりも……覚悟をするための時間を作りたい。香澄ちゃんと一緒に、バンドをする覚悟が。
そのことを香澄ちゃんに話すと、とっても優しそうな笑顔で喜んでいた。覚悟はまだ上手く決まっていないけど、私も嬉しくなった。
そんな中での、お姉ちゃんが遅刻する事件だった。
決して故意ではなく、台風による飛行機の遅延のせい。修学旅行で遠方に行っていたお姉ちゃんは、そのまSPACEのライブに参加する予定だったのだが、それが大幅に狂ってしまった。
オーナーに待ってくれるよう掛け合ってみたものの、順番を最後にしただけで、それ以上はしてくれず。オーナーは、お客の期待を裏切るなんてご法度だという一点張り。オーナーの眼光がいつもに増して鋭いこともあり、私は一層テンパってしまってしまった。
他のバンドの人達が頑張って時間を引き伸ばしてくれたが、それも叶わず。私を含め、グリグリの登場を諦めていた。
「お姉ちゃん……」
情けないことに涙が出てくる。お姉ちゃんライブに出れないという事よりも、私がこの状況に対して何も出来ないことに対して涙した。
その時だった。オーナーと、香澄ちゃんの言い争いが聞こえてくる。
香澄ちゃんがなにかしてしまったのかなと心配になる。私は、言い争いをしている場所へと近寄った。
「……お客さんを満足させる。Glitter*Greenまで繋げてくれる。最高のエンターテインメントをしてくれるって言うんなら、あたしは止めない」
ギロリとオーナーの瞳が光る。
思わずすくんでしまうほどのオーナーの圧に負けた私だったが、香澄ちゃんはそれでも負けなかった。
「はい! ……私は、何もしないで終わりたくありません! 私にキラキラドキドキする事を教えてくれたグリグリの為に、何も出来ないなんて絶対にやだ!」
言い切った。グリグリの為に、演奏させてくれと。香澄ちゃんは確かにそう言った。
香澄ちゃんは言葉を続ける。
「それに、Glitter*Greenは音楽をやりたいからSPACEここで演奏するんですよね。音楽はやりたい時に、やりたいだけやればいい……私はそう教えてもらいました。けど……やりたい人が音楽を出来ないだなんて、そんなの全然ドキドキじゃない!」
音楽は、やりたい人がやる。それは、バンドをやることにおいて、真理なのかもしれなかった。
弾きたい時に弾けばいい。周りの目とか、迷惑を掛けてしまうとかそんな心配は要らない。
弾きたいから、弾く。バンドをやりたいから、やる。
そんな気持ちがオーナーに通じたのか、オーナーは香澄ちゃんたちの行動を許した。
「香澄ちゃん……」
それからの香澄ちゃんの行動は早かった。
あっという間にギターをセットし、市ヶ谷さんと花園さんとチューニングを済ませる。
そして。
「今の私達の、最高の音楽を……聞いて下さい! 『Yes! BanG_Dream!』」
香澄ちゃん達の、最高の音楽が始まった。
そこからの私は、ドキドキしっぱなしだった。
まるで、お姉ちゃんのライブを初めて聞いた時のような……ううん。それとはまた違う、ドキドキ。
星の瞬きに、包まれたような感覚。初めてのこの高鳴り。香澄ちゃんがよく言っていた「キラキラドキドキ」とは、まさにこの事だと確信した。
ステージの上で、香澄ちゃんが歌う。輝く歌を響かせながら、キラキラを振りまきながら、本当に楽しそうに。
長い黒髪をなびかせながら、花園さんがギターをかき鳴らす。力強いコードストロークで、観客を魅了する。
金髪を跳ねさせながら、市ヶ谷さんがピアノを叩く。可愛らしくも、しっかりとしたサウンドでバンドの音を支える。
気がつけば、観客は皆魅了されていた。自然と身体を揺らし、リズムを取り始めていた。
かく言う私もその一人だった。身体を揺らし、リズムを取ってしまう。
ーー早い事に、曲が終わる。最後にの音に合わせ香澄ちゃんは、星のギターを銃のように構え、撃ち抜いた。
残響がSPACEに広がる。若干の静けさの後…………観客から盛大な拍手が上がった。
「凄い凄い!」
「ドキドキした!」
「なんてバンドだっけ?」
「確か蔵party! 私、ハマったかも!」
ものすごい歓声だった。彼女達は、あまりの歓声に戸惑いながらも笑顔を向け合う。
そして。
「待たせてごめんなさい!」
お姉ちゃんが、間に合った。突然のグリグリの登場に、一瞬観客に間が出来るものの、すぐさま歓声が上がった。
「間に合った……!」
香澄ちゃんは、心底安心したような顔をしていた。お姉ちゃん達が遅れた謝罪をする中、そそくさと3人でステージを降りようとするも、
「ちょっと待って!」
「えっ?」
ポカンとした顔をする。お姉ちゃんは香澄ちゃん達を前に立たせ、
「……ステージを、ここまで持たせてくれた! 蔵partyの皆さんに盛大な拍手をお願いします!」
『わあああーっ!!』
大歓声。それに混じって、「ありがとー!」「蔵パ良かったよー!」という声。
香澄ちゃん達は、言葉が出ないようだった。
☆
あの後は、無事にグリグリのライブが終わった。
香澄ちゃんの一生懸命さと、あの行動力。それに救われたライブだった。
そして同時に。私も、追いつきたいと思った。追いかけて、追いついて、同じ熱を感じたい。このキラキラドキドキを、離したくない。
まるで、いつまでも冷めない恋をしたみたいだった。
私も、香澄ちゃんのような、キラキラドキドキする人になりたい! 千早ふり、煌めく星になりたい。
……香澄ちゃんと一緒に! ユメを描きたい!香澄ちゃん達と一緒に、バンドをやりたい!
香澄ちゃん達の、キラキラドキドキするライブのおかげで、私の覚悟は定まった。
完成にDont be afraid とGlee! Glee! Glee!の影響ですねはい。
いい歌ですよね。