遠い音楽   作:冴月

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 グリグリのライブが終わり、ドキドキしたのも束の間。香澄達は楽屋裏に案内された。

 オーナーによる一応の承諾があったとはいえ、ほぼ勝手にステージに上がったようなもの。香澄達はお叱りを受けるのかと思い、有咲、たえとともにしょんぼりとして部屋の隅に固まっていた。

 バタバタとライブの片付けが進む中。しばらくすると、グリグリのメンバーととりみりん達が入ってきた。

 グリグリの面々……特に、前髪をおかっぱにしたポニーテールの先輩──鵜沢リィが、入ってくるなり優しそうな笑顔を浮かべた。

 

「ほんっとにありがとう! あなた達のおかげでライブに間に合った!」

 

 手を握られた。香澄は、戸惑いつつも「そんなことないですよー」と返した。

 

「ほら、デベコもありがとうだって!」

 

 リィは、片手で大事そうに抱き抱えた人形を見せる。なんとも表現し難いがかわいい人形を「プピー」と鳴らしながら言った。

 

「私からもお礼を言わせて。あなた達のおかげで、雰囲気そのままで、盛り上がったままライブをすることが出来た。……本当にありがとう」

 

 りみりんの隣の、黒髪にウェーブがかかった女性……牛込ゆりは深く頭を下げた。

 それに合わせるように他のの面々も頭を下げてくる。香澄はそれを慌てて制した。

 

「あ、頭を上げてください! そんな、大したことないですって!」

 

 本当にそう思う。香澄はあのままグリグリが来ないのが嫌で動いただけだし、雰囲気とかは二の次だった。というか、そんな余裕もなく、ただ思いっきり演奏しただけで……。

 

「それが、私達が間に合ったのに繋がったの。本当にありがとう」

 

 ゆりがぺこりと頭を再び下げる。それを押し退けるようにして、明るいローズブラウンでショートボブの女性──二十騎ひなこが言った。

 

「ん~~~っ! すごいすごいよ君たち!」

 

 グワッ! そう表現するのがピッタリな勢いで香澄に迫る。その勢いに、香澄達はポカンとしていると、

 

「んー? 声が聞こえないなぁ。……集え少女よ! 大志を抱けぇ!!」

「え、えぇっ!?」

「声が小さいぃ! いだけぇえええ!」

「い、いだけぇえええ!」

「え、え゙ーーーッ!?」

 

 香澄は戸惑いつつも。たえはノリノリで。有咲は「や、やべぇこの人!」と声を上げた。

 そんな香澄達を見て満足したのか、ひなこは「うふふふ」と笑いだした。

 

「星のカリスマ戸山香澄ちゃん! 蔵出しツインテールの市ヶ谷有咲ちゃん! うさみみサンダーボルトの花園たえちゃん! みーんなのおかげで私たちは間に合うことが出来たの! ありがとね!」

 

 どこから名前を知ったのだろう。というか、私達の名前の前の、通り名みたいなものは一体……?

 ポカンとする香澄達を他所に、ひなこはりみの後ろへと回る。りみの肩をぽんと叩きながら、ひなこは言った。

 

「ほらほら! シューレスニンジャガール……じゃなくて。マイリトルシスターのりみちゃん! 言いたいことがあるんでしょ?」

 

 し、シューレスニンジャガール……?

 謎のパワーワードに首を傾げている香澄達の前に、りみが立つ。

 

「私からも言わせて。香澄ちゃん……お姉ちゃんを間に合わせてくれてありがとう」

 

 りみも頭を下げてくる。りみは、顔を上げはしたものの、その表情は暗かった。

 

「本当は、私が動かなくちゃいけなかったのに、全然動けなかった。テンパっちゃって、真っ白になっちゃって……やっぱりダメだね」

 

 自分がやれば、やらなければならなかったと。りみは自分を責めた。

 

「……香澄ちゃんは、兎に角動いてくれた。ただ動いただけじゃなくて、こんな凄いこともしてくれた」

 

 りみと香澄の目が合う。真剣で、ケツイがみなぎったその目。香澄は、いつもと違うりみの表情に、少し目を奪われてしまった。

 

「私、香澄ちゃんみたいになりたい。香澄ちゃんみたいに、夢を描いて、キラキラしてみたい!」

 

 語尾を強くする。りみは、深く、深く頭を下げる。

 

「もし、まだ間に合うなら……。私を、香澄ちゃん達の隣にいさせてください。私を……バンドに入れてください!!」

 

 その言葉を、どれほど待ちわびていたのだろう。

 感極まってしまい、香澄はりみへと抱きつく。

 

「わっ、香澄ちゃん!?」

 

 恥ずかしそうにワタワタするりみ。すこしばかり抵抗してくるものの、香澄は気にもとめず抱きついていた。

 

「うん……うん!  よろしくね、りみりん!」

 

 ギュッと、ぎゅっと。りみりんを抱きしめる。香澄の取れる、心の底からの感情表現だった。

 ……そんな香澄に抱きつかれ、ドギマギするりみに、ゆりが囁いた。

 

「りみ、後悔ないようにね」

「……うん!」

 

 4月18日の春。晴れて、私達はバンドらしくなることが出来そうだった。

 

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