25
次の日。日曜日だったので蔵練がある日だった。
晴れて新メンバーになったりみを連れて、香澄は有咲の家へと向かう。尚、たえはライブハウスのバイトがあるとの事で、午後からの合流となっていた。
有咲の蔵に着くと、りみは「秘密基地みたい~」と声を上げる。蔵は、有咲の問屋の中の更に奥にある倉庫の地下にある。隠された様な、少し分かりにくい場所にある為、好奇心を擽られるような場所となっているのだ。
そんな秘密基地の扉を開けると、ピンと背筋を立てて座っている有咲が居た。やけに畏まっているように見え、髪先をひたすらに指でくるくると巻いて落ち着きのなさを感じる。
何かあったのだろうか、香澄は少し考えてみる。
……そう言えば、有咲はりみりんとあまり話していない。香澄が学校で話しているくらいであった。今日が初対面みたいなものであり、それでいきなりバンド加入なんて、それは緊張もする。
少しの間ぼーっと考えている内に、有咲とりみりんは紹介を終えたようだ。香はりみと間に有咲を挟むようにしてソファに座った。
「……」
落ち着かない有咲とりみ。未だカチコチな有咲はソワソワしながら立ち上がり、キーボードを調整し始めた。
……ポン。……ポン。とピアノの音が鳴る中、香澄とりみは雑談を混じえながらチューニングをすすめる。
……あ。そう言えば、りみりんベースやってたんだよね。
香澄はふと思い出した。りみがベースを弾けるとは知っていたものの、どのくらい弾けるかは知らない。別に見定める訳では無いが、単純にどのくらい弾けるのか気になった香澄であった。
「ねぇ、りみりん。私、りみりんのベース聞いてみたいな」
「……あ、それ私も聞きたい」
有咲も乗っかってくる。ちょうどチューニングを終えたりみは、
「ふぇ?」
と声を上げ、キョトンとした表情を浮かべた。
「りみりん! ベースアンプもあるし、ちょっと弾いてみてよ!」
香澄が頼む。りみは少しの間だけ顔を下に向けたものの、緊張した趣で、
「う、うん」
と頷き、ピンク色のベースを取り出した。
有咲からシールドとチューナー受け取り、それらをテキパキ差し込み準備をする。そして桃色のピックを取り出し、
「それじゃあ、ちょっと思いついたのを……」
べーん、と一つ弦を弾く。体の奥底から唸る重低音が、蔵に響き渡る。
ソファの隅で寝ていたザンジとバルが、ビクッとしながら起き上がり、りみを見た。
目を瞑り、スゥ……と息を吸う。かちゃりと音を立てながら、ネックに手を添えた。ハッと瞳を開けて、真剣な表情で。りみはピックを振り下ろす。
べん、べーべべべん、べんべべっべーべべべん、べん、べーべべべん、べんべべっべーべべべべ、べん……
響く重音、うねる低音。ピックから、ベースから、りみから、心地よい重低音が響いた。
段々乗ってきたのか、頭を振りながらリズムをとるりみ。激しくなるそのパフォーマンスは、大人しそうなその外見と意外ながらマッチしており、見ていた二人と二匹を魅了させた。
思わずリズムを取ってしまう軽快なリズム。香澄と有咲は、りみの演奏からドキドキという鼓動を受け取っていた。
……そして。香澄の脳裏には、初めて作ったあの始まりの唄。Yes! BanG_Dream!が、自然と流れ出す。
香澄の脳裏で流れる
──束の間の演奏が終わった。りみは、乱れた髪を手で梳きながらまだ少し恥ずかしそうに言う。
「ど、どうだったかな? 昨日の、Yes! BanG_Dream!を聞いて思いついたんだけど……」
えへへ、と照れながら笑う。香澄は、うきゃあと声を上げて興奮しながら言った。
「凄い凄い! りみりん天才だよ~」
「えへへ……。ありがとう香澄ちゃん。……なんかね、香澄ちゃん達のYes! BanG_Dream!聞いてたらパッと思いついたんだー」
りみりんが安心したような笑みを浮かべる。心底、安心したような笑みだった。
……その一方で。有咲は、香澄と同じように「イエバン」音源の音源を流し、ベースを打ち込むのに夢中になっていた。
「りみ、もう一度弾いてくれないか?」
「! ……う、うん!」
「……?」
真剣な表情をする有咲。そんな有咲は、りみの事をいきなり名前呼びしていた。香澄はいきなりの名前呼びにびっくりしていたが、りみはそれ以上に驚いていたようで
「あ、有咲ちゃん……な、名前……」
「え? ……あっ!?」
どうやら無意識だったらしい。みるみるうちに、有咲の顔が茹で上がっていく。
「ち、ちがっ! これは、その……。なんか、名前呼びがしっくりくるからって言うか、これから蔵パとして長い付き合いになるからであって……」
「有咲照れてるのー?」
照れてる有咲にきゅんときた香澄は、つい有咲をいじってしまった。
すると、
「ちげーしうぜー! 茶化すんじゃねぇ!」
「またまたー。照れちゃって可愛いんだから」
「か、かわっ!?」
真っ赤と表現するには足りないくらい真っ赤だった。ほおずきみたいに紅い頬、と言うべきか。なんだか、有咲の頭から羞恥心の水蒸気が出てる気がする。
香澄に続いたりみの言葉で、有咲はショートすることになった。
「有咲ちゃん……可愛い」
「な、り、みっ、かわっ!? ……はぅ」
「あ、有咲!?」
有咲が起き上がるまで、数十分は要した。