遠い音楽   作:冴月

27 / 71
世界のドコよりも眩しい場所へ♪
25


 次の日。日曜日だったので蔵練がある日だった。

 晴れて新メンバーになったりみを連れて、香澄は有咲の家へと向かう。尚、たえはライブハウスのバイトがあるとの事で、午後からの合流となっていた。

 有咲の蔵に着くと、りみは「秘密基地みたい~」と声を上げる。蔵は、有咲の問屋の中の更に奥にある倉庫の地下にある。隠された様な、少し分かりにくい場所にある為、好奇心を擽られるような場所となっているのだ。

 そんな秘密基地の扉を開けると、ピンと背筋を立てて座っている有咲が居た。やけに畏まっているように見え、髪先をひたすらに指でくるくると巻いて落ち着きのなさを感じる。

 何かあったのだろうか、香澄は少し考えてみる。

 ……そう言えば、有咲はりみりんとあまり話していない。香澄が学校で話しているくらいであった。今日が初対面みたいなものであり、それでいきなりバンド加入なんて、それは緊張もする。

 少しの間ぼーっと考えている内に、有咲とりみりんは紹介を終えたようだ。香はりみと間に有咲を挟むようにしてソファに座った。

 

「……」

 

 落ち着かない有咲とりみ。未だカチコチな有咲はソワソワしながら立ち上がり、キーボードを調整し始めた。

 ……ポン。……ポン。とピアノの音が鳴る中、香澄とりみは雑談を混じえながらチューニングをすすめる。

 ……あ。そう言えば、りみりんベースやってたんだよね。

 香澄はふと思い出した。りみがベースを弾けるとは知っていたものの、どのくらい弾けるかは知らない。別に見定める訳では無いが、単純にどのくらい弾けるのか気になった香澄であった。

 

「ねぇ、りみりん。私、りみりんのベース聞いてみたいな」

「……あ、それ私も聞きたい」

 

 有咲も乗っかってくる。ちょうどチューニングを終えたりみは、

 

「ふぇ?」

 

 と声を上げ、キョトンとした表情を浮かべた。

 

「りみりん! ベースアンプもあるし、ちょっと弾いてみてよ!」

 

 香澄が頼む。りみは少しの間だけ顔を下に向けたものの、緊張した趣で、

 

「う、うん」

 

 と頷き、ピンク色のベースを取り出した。

 有咲からシールドとチューナー受け取り、それらをテキパキ差し込み準備をする。そして桃色のピックを取り出し、

 

「それじゃあ、ちょっと思いついたのを……」

 

 べーん、と一つ弦を弾く。体の奥底から唸る重低音が、蔵に響き渡る。

 ソファの隅で寝ていたザンジとバルが、ビクッとしながら起き上がり、りみを見た。

 目を瞑り、スゥ……と息を吸う。かちゃりと音を立てながら、ネックに手を添えた。ハッと瞳を開けて、真剣な表情で。りみはピックを振り下ろす。

 

 べん、べーべべべん、べんべべっべーべべべん、べん、べーべべべん、べんべべっべーべべべべ、べん……

 

 響く重音、うねる低音。ピックから、ベースから、りみから、心地よい重低音が響いた。

 段々乗ってきたのか、頭を振りながらリズムをとるりみ。激しくなるそのパフォーマンスは、大人しそうなその外見と意外ながらマッチしており、見ていた二人と二匹を魅了させた。

 

 思わずリズムを取ってしまう軽快なリズム。香澄と有咲は、りみの演奏からドキドキという鼓動を受け取っていた。

 ……そして。香澄の脳裏には、初めて作ったあの始まりの唄。Yes! BanG_Dream!が、自然と流れ出す。

 香澄の脳裏で流れる(キズナ)は、りみの演奏と驚く程に重なり合っていた。

 

 

 

 ──束の間の演奏が終わった。りみは、乱れた髪を手で梳きながらまだ少し恥ずかしそうに言う。

 

「ど、どうだったかな? 昨日の、Yes! BanG_Dream!を聞いて思いついたんだけど……」

 

 えへへ、と照れながら笑う。香澄は、うきゃあと声を上げて興奮しながら言った。

 

「凄い凄い! りみりん天才だよ~」

「えへへ……。ありがとう香澄ちゃん。……なんかね、香澄ちゃん達のYes! BanG_Dream!聞いてたらパッと思いついたんだー」

 

 りみりんが安心したような笑みを浮かべる。心底、安心したような笑みだった。

 ……その一方で。有咲は、香澄と同じように「イエバン」音源の音源を流し、ベースを打ち込むのに夢中になっていた。

 

「りみ、もう一度弾いてくれないか?」

「! ……う、うん!」

「……?」

 

 真剣な表情をする有咲。そんな有咲は、りみの事をいきなり名前呼びしていた。香澄はいきなりの名前呼びにびっくりしていたが、りみはそれ以上に驚いていたようで

 

「あ、有咲ちゃん……な、名前……」

「え? ……あっ!?」

 

 どうやら無意識だったらしい。みるみるうちに、有咲の顔が茹で上がっていく。

 

「ち、ちがっ! これは、その……。なんか、名前呼びがしっくりくるからって言うか、これから蔵パとして長い付き合いになるからであって……」

「有咲照れてるのー?」

 

 照れてる有咲にきゅんときた香澄は、つい有咲をいじってしまった。

 すると、

 

「ちげーしうぜー! 茶化すんじゃねぇ!」

「またまたー。照れちゃって可愛いんだから」

「か、かわっ!?」

 

 真っ赤と表現するには足りないくらい真っ赤だった。ほおずきみたいに紅い頬、と言うべきか。なんだか、有咲の頭から羞恥心の水蒸気が出てる気がする。

 香澄に続いたりみの言葉で、有咲はショートすることになった。

 

「有咲ちゃん……可愛い」

「な、り、みっ、かわっ!? ……はぅ」

「あ、有咲!?」

 

 有咲が起き上がるまで、数十分は要した。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。