有咲も起きあがり、無事にベースの打ち込みを済ます事ができた。ノートパソコンから流れるイエバンをみんなで確認し、実際にあわせてみる。
ピアノとベースとギターの旋律が混ざり合うのは、感激としか言えなかった。
この前のSPACEでは、歌いながらもなにか物足りないような感じがしていたが、そのピースの一つがベースだったのだろう。響く低音、唸る重音が、蔵パーティには足りなかったのだ。
ただ、まだ物足りない。最後の一欠片であるドラム。あの、音楽全体を纏めあげるリズム隊がいなければ、物足りないまま終わってしまう。
だから、ドラムをやっている人、もしくはやってみたい人が蔵パには欲しい。そんな人、身近に居ただろうか……。
「まぁ、そう簡単にいるわけないよな」
有咲がソファにもたれ掛かる。おやつに買ってきたポッキーをポリポリとかじりながら、片手でスマホを弄っていた。
「ネット掲示板にでも載せてみるか? 『ドラマー募集! 詳しくは流星堂まで!』みたいな」
「そ、それはちょっと……。できれば私は、知っている人がいいなぁ」
両手でチョココロネをほお張るりみりん。一緒に来たのだからパンを買うタイミングなどなかったはずだが、いつの間に買ったんだろうか……。
「私もできればその方がいいかなぁ……」
「まぁ、そうなるよな。じゃあ、学校で探すしかないな」
コクリとペットボトルのお茶を飲む有咲。明日から、ちょっとずつ声掛けて探すしかないかな……って、
「思い出した!」
「ぶほっ」
有咲がむせる。お茶をテーブルに零しながら、苦しそうに咳き込んでいた。そんな有咲を見て、りみりんが慌ててタオルでお茶を拭いている。ごめん有咲、でも今はそれ以上の事があるんだよ!
「か、香澄! いきなり大声出すんじゃねぇ!」
「有咲って花女だったんでしょ!!」
「はぁ?」
会話が成り立っていなかった。その上、香澄の発言を訳が分からないといった風の有咲。
……そりゃそうだ、いきなり「花女だったの?」なんて、訳がわかるはずがない。
香澄は、事の顛末を有咲に詳しく説明した。
「そうか。そういえば言ってなかったな」
説明を聞いた有咲は、興味無さそうに言った。ポ○キーをポリポリと齧りながら、言葉を続ける。
「あたし、単位なら足りてるから。それに、学校じゃなくても勉強は出来るし」
……えーと、学校ってそんな感じで休んでいいものだっただろうか。香澄は頭をかきながら考える
高校で、義務教育じゃないとはいえ、そんなことは無いはずなのだが。
「テストで良い点数とって、最低限の出席出来てれば進級出来るんだよ」
そんなものなのか。有咲はお茶を飲んだ。本当に、学校に興味がなさそうに、ゴクリと喉を鳴らした。
「行くだけ暇だしな。学校なんて」
学校なんてーー。有咲は、学校に何も見いだせていないようだった。
友達と休み時間にお喋りして、授業を受ける。授業中に分からないところがあったら、隣の子にこっそり聞いたり、お昼休みに一緒にご飯を食べたり。
次の休みに何をするか、という話に花を咲かせたりだとか、学校帰りにファミレスに寄ったり……。
こんなにもキラキラドキドキする事があるのに勿体ない。
その為に、香澄はつい言ってしまう。
「有咲、学校に行こうよ」
「はぁ? なんで今更」
「だって、学校にはキラキラドキドキすることいっぱいあるよ?」
「キラキラドキドキって……」
ガシガシと頭を搔く。有咲は、顔をそむけながら、「いつかな」と曖昧に返した。
「いつかって、いつ?」
「いつかはいつか。私、あまり暇じゃないから」
ノートパソコンに向かう。有咲は、五線譜の映る画面になにか打ち込んでいるようだった。
「いつかいつかって……。それ、行かないやつじゃん」
「別に行かなくってもいいだろ。てか、香澄達には関係ないし」
ツーンとそっぽを向く。まるで、機嫌の悪い猫の様な反応。
有咲は赤いヘッドホンをしっかりと耳にはめてしまった。
「関係あるよ! 私、有咲と学校でキラキラドキドキしたい!」
有咲のヘッドホンを取る。有咲は、ビクッとしながらも香澄に顔を向けた。
「いや、でもほら……新曲とか、練習とかで忙しいし……」
言いづらそうにしている。なにか、逃げる言い訳を探しているようだった。
「それなら私が手伝うから!」
「朝起きれないかも……」
「私が毎日迎えに行く!」
「んなっ!? ……えーと、あ、そ、そうだ。今更学校行っても、その……気まずいし」
「それなら大丈夫だよ有咲ちゃん。私達、有咲ちゃんと同じクラスだし」
「えっ?」
何個目かわからないチョココロネを頬張りながら、りみの言ったことに驚く。というか、有咲はこの事知らなかったのか。
「私達! おたえもりみりんも同じクラスだよ!」
香澄は、有咲の手を握った。
一瞬、有咲はギョッとした表情を浮かべるものの、香澄の目を見ると直ぐに顔を赤くした。
「私、有咲と最高の学校生活がしたい! だから一緒に学校行こ!」
思いよ伝われ! と言わんばかりに右手をぎゅっと握る。
ぎゅっと、ぎゅっと。強く握るのではなく、月に祈りをかけるかのように包み込む。
「私も、有咲ちゃんと学校でお喋りしたいな」
りみが空いている左手を握る。星に願いをかけるかのように包み込む。
「私、有咲と学校で勉強教えて貰いたい!」
いつの間に来たのだろうか。
既にギターを肩からかけて、スタンバイしていたたえは手……は空いていなかったので、有咲の腰辺りに抱きついた。
みるみるうちに赤くなっていく有咲。動揺しながらも香澄たちを据えた瞳で見つめ、
「あーもう! 分かった分かった! 明日からちゃんと行くから離れろー!」
有咲は学校に行くことになった。
そう言えば有咲まだ学校行ってなかったなーと思ったので。