そう言えば、今日は沙綾の誕生日ですね。おめでとうございます。
次の日。有咲が学校に来る事にワクワクが止まらなかった香澄は、いつもよりも早く教室で待機していた。
有咲の事だ。注目されるのが嫌で早めに席に着いておき、しれっとしている……と予想した結果、香澄は早めに家を出たのだった。
ソワソワと待つこと数分後。クラスメイト達が数名来はじめた頃に、教室の後ろのドアがガラガラと音を立てた。
入って来たのはよく見知った顔であるたえ。しかしその後ろに隠れながら、
「……」
有咲も入ってきた。いつものエプロンと違い花女の制服を身にまとった有咲は、たえにいまだ隠れながら席に向かう。だが、
いきなりの有咲の登場に、少しざわつくクラスメイト達。……だが、直ぐにおはよーと声が上がる。だが、
「……」
……返事はない。有咲はたえの後ろに隠れながら席に向かう。
「有咲おはよう!」
香澄はなるべく明るく声をかけて、有咲の席に近寄る……が。なんだが様子がおかしかった。
両手両足が一緒に出ている上に、動きがカクカクだ。表情もなんだが固く、周囲をひたすらにキョロキョロと警戒している。
どうしたのだろう、香澄はたえに聞いてみた。
「おたえ、有咲どうしたの?」
「んー……わかんないけど、なんか緊張してるみたい」
……緊張とな。香澄は机に突っ伏していた、有咲の方をチラッと見た。
未だ真っ白で汚れのない上履きが、とん、とんとリズムを取っていた。
いやあれはリズムと言うには細すぎる。もしかして……震えてる?
「あ、有咲、大丈夫? もしかして……怖かったり?」
「だ、大丈夫……。怖いんじゃなくて、ちょっと緊張してるだけだから……」
有咲がこちらを見ずに答える。カタカタと若干震えるその姿、香澄は普段の威勢のいい姿とのギャップにキュンキュン来てしまい、多少の介護欲を覚えてしまった。
「だ、大丈夫だよ有咲! 私もりみりんもおたえもいるから!」
必死に有咲に声をかける。それでもまだ、有咲は緊張しているようだった。
そんな中、後ろから声をかけてくる声が2人。
「あ、珍しい。市ヶ谷さんだ」
「有咲ちゃん、学校来てくれたんだね。良かったぁ……」
りみと沙綾だった。二人とも「やまぶきベーカリー」と書かれた茶袋持っており、甘く香ばしい匂いが漂ってくる。
りみは有咲の前の先に荷物をおき、席に座った。
「有咲ちゃんおはよう」
「お、おはようりみ」
コソコソと喋る。だが、りみが来たことによって幾らか安心したようで、緊張の震えは小さくなっているような気がした。
その様子を見て、沙綾は目を丸くして言った。
「おー。市ヶ谷さんが話してる……」
物珍しそうに見ていた。そんなに有咲が学校に来るのが珍しいのかな。
「うん。たまに学校に来ても、気づいたら早退してるし。休み時間でも、ふらっとどこかに行っちゃうし」
なるほど。最早伝説みたいな存在になってるのか。
そんな伝説の有咲は、りみに宥められるという滅多に見られない光景を作り出していた。
その光景にクラスメイト達がざわつく。担任の先生が教室に入ってきたことで、その騒がしさは消えていった。