それからの日々はあっという間だった。
有咲の蔵で、クタクタになるまで練習した前三日。後三日は、大きな鏡のあるスタジオで初めてのリハーサルをした。因みに、ライブハウスの名前はCiRCLEと言ったか。スタッフである月島まりなという人からも、ちょっとしたアドバイスをもらったりも出来た。
ドンドンと響く、奥底からなる協奏に、香澄達はどんどんと魅了されていぬ。もっと、もっともっともっと奏でたくなった。
大好きな仲間と奏でる
その想いが昂ぶっていく中、ライブ本番を迎えた。
☆☆☆☆
祭り本番は、快晴の青空の元行われることとなった。香澄達は、有咲の蔵でサッと通した後に商店街へと向かう。
近づくにつれて、だんだんと人が多くなっていく。チョコバナナ、ドネルケバブ、アイスコロネ……中々のラインナップの屋台が、道の両端で商いをしていた。
人混みをスルスルとぬけ、屋外ステージとなっている空き地へと向かう。テントで受付を済ませたが、まだまだ時間がある。各々の自由時間に当てることにした。
みんなが散っていく中、香澄は一人、ステージ裏からチラッと表を見渡した。
見渡す限りの人、人、人。人は群れる生き物とは言うが、これは群れすぎではないだろうか……。
「やばい……」
急に体が強ばった。
ちゃんと歌えるだろうか……いや失敗するかも……でも私から言った手前頑張んないと……失敗したら笑われて拡散されるだろうか……やはりギターボーカルなんてやりすぎたか……貝になりたい……。
案の定、負の思考ループに陥ってしまった。深く沈んで行くうちに、キュルキュルとお腹が痛くなってくる。
ステージから降りた入口。端の方で、香澄はアワアワと頭を抱える。暫くの間沈んでいると、
トン……トン、トン。
リズミカルな囃子が聞こえてきた。
音のする方を見る。通りに、赤と黒の獅子舞がうねりながら現れた。お囃子のリズムに合わせてカチカチと歯を鳴らし、踊っている。
躍動感あるその踊りに、通行人達は注目する。そして、頭を差し出した人をがぶり! 噛み付いた。
「生きてるみたいだな」
後ろから有咲の声がした。有咲は、生きるように活きのいい獅子舞を見つめている。
「……あれ」
あの獅子舞、なんか近づいてきてない? も、もしかして……。
嫌な予感がした香澄は、立ち上がり逃げようとした……が、ずっとしゃがんでいたせいか、立ちくらみがして立ち止まってしまう。
その隙に。
「……あ」
がぶり。
香澄の頭は、獅子舞の口の中へと吸い込まれた。真っ暗な世界に一転する。
急な出来事に頭がフリーズするーー。そんな中、香澄は学校でよく聞くあの声を耳にした。
「香澄、頑張ってね」
「……え?」
暗闇から開放された。ちんちきちんちきと去っていく獅子舞の後ろ姿を、香澄は見つめる。
「良かったな香澄。獅子舞に噛まれると厄が落ちるらしいぞ」
有咲がチャラチャラと星型の何かを弄ぶ。
言われてみると、先程までの催していた腹痛も消え、ライブへの不安感もすっかり無くなっていた。
「あの獅子舞、すごくリズミカル……」
「ほんとに生きてるみたいだね」
たえとりみも戻ってきた。たえは頭にうさぎのお面をつけ、りみはアイスコロネを頬張っている。2人とも、祭りを楽しんでいるようだった。
そんな中、香澄はあの声を思い返す。
あのよく聞いた声。花女に行って、始めて話したあの優しい声……。
「……沙綾?」
それ以外なかった。
まさか獅子舞になっているとは思っていなかった。たまたまなのか、様子を見に来てくれたのかは分からないけど。来てくれたのは香澄にとって嬉しい限りだった。
「……ありがとう、沙綾」
POPPING! 元気が出た。そんな中、有咲の携帯のアラームが鳴る。
「そろそろか。……ほら、香澄」
「なに? ……いたっ!」
パチリ! と、耳に小さく痛みが走る。
痛みとともに、カシャリと言う音が耳元で鳴る。
「これ、さっきみんなで買ったんだけどさ。……衣装に似合うかなって」
赤い、星のイヤリングだった。トクン……トクンと、そこに心臓があるかのように、
見ると、有咲は紫の。りみはピンク色、たえは青色のイヤリングを既にしている。
「香澄、星が好きでしょ? お守りだよ」
にこりとたえが微笑む。トクンと跳ねる。
「有咲ちゃんが付けたいって言って買ったんだよ」
「ちょっ! りみ! 言わない約束だろ!」
りみが優しそうに微笑む。有咲は顔を赤くし、少しだけ恥ずかしそうにした。トクン、トクンと2度跳ねる。
「みんな……」
元気が出た。耳元で、鼓動が鳴り響く。
これならーー歌える!
「……ありがとう」
獅子舞に噛まれたことと、星のお守りを貰ったこと。それらが相まって、ちょっと泣きそうになる。
でも泣くのはまだはやい。泣くのは、ライブが大成功をおさめてからだ。
「私、銀河みたいにキラキラドキドキする!」
自分でもよくわからないことを言ったと思う。けれど、メンバーは、仲間は。
「……ねえみんな! 私、バンド名思いついちゃった!」
今しかないと思った。たった今思いついたその名前。弾けるような、楽しくポップに
「Poppin’Party! どうかな!」
「……いいんじゃないか?」
「Poppin’Party……元気で可愛い名前だね」
「Poppin’Party、略してポピパ……うん。いいかも」
みんなの鼓動が聴こえる。力が湧き上がる! なんだって出来る!どこにだって行ける! そんな運命を感じる!
「それじゃあ、1回練習しよ!」
「はぁ? 練習ってなんの?」
「掛け声の練習! ……せーの! 私達!」
みんなの声が揃う。トクン、トクンと星の鼓動が止まない。
「「「Poppin’Partyです!!」」」
5月8日。Poppin’Partyは生まれた。
ちなみに5月8日はPoppin’Partyの名前が公開された日です。