遠い音楽   作:冴月

36 / 71
33

 それからの日々はあっという間だった。

 有咲の蔵で、クタクタになるまで練習した前三日。後三日は、大きな鏡のあるスタジオで初めてのリハーサルをした。因みに、ライブハウスの名前はCiRCLEと言ったか。スタッフである月島まりなという人からも、ちょっとしたアドバイスをもらったりも出来た。

 ドンドンと響く、奥底からなる協奏に、香澄達はどんどんと魅了されていぬ。もっと、もっともっともっと奏でたくなった。

 大好きな仲間と奏でる音楽(キズナ)。キラキラで、ドキドキで、無敵で最強のロックンロールを奏でたい!!

 

 その想いが昂ぶっていく中、ライブ本番を迎えた。

 

 

☆☆☆☆

 

 祭り本番は、快晴の青空の元行われることとなった。香澄達は、有咲の蔵でサッと通した後に商店街へと向かう。

 近づくにつれて、だんだんと人が多くなっていく。チョコバナナ、ドネルケバブ、アイスコロネ……中々のラインナップの屋台が、道の両端で商いをしていた。

 人混みをスルスルとぬけ、屋外ステージとなっている空き地へと向かう。テントで受付を済ませたが、まだまだ時間がある。各々の自由時間に当てることにした。

 みんなが散っていく中、香澄は一人、ステージ裏からチラッと表を見渡した。

 

 見渡す限りの人、人、人。人は群れる生き物とは言うが、これは群れすぎではないだろうか……。

 

「やばい……」

 

 急に体が強ばった。

 ちゃんと歌えるだろうか……いや失敗するかも……でも私から言った手前頑張んないと……失敗したら笑われて拡散されるだろうか……やはりギターボーカルなんてやりすぎたか……貝になりたい……。

 

 案の定、負の思考ループに陥ってしまった。深く沈んで行くうちに、キュルキュルとお腹が痛くなってくる。

 ステージから降りた入口。端の方で、香澄はアワアワと頭を抱える。暫くの間沈んでいると、

 

 トン……トン、トン。

 

 リズミカルな囃子が聞こえてきた。

 音のする方を見る。通りに、赤と黒の獅子舞がうねりながら現れた。お囃子のリズムに合わせてカチカチと歯を鳴らし、踊っている。

 躍動感あるその踊りに、通行人達は注目する。そして、頭を差し出した人をがぶり! 噛み付いた。

 

「生きてるみたいだな」

 

 後ろから有咲の声がした。有咲は、生きるように活きのいい獅子舞を見つめている。

 

「……あれ」

 

 あの獅子舞、なんか近づいてきてない? も、もしかして……。

 嫌な予感がした香澄は、立ち上がり逃げようとした……が、ずっとしゃがんでいたせいか、立ちくらみがして立ち止まってしまう。

 

 その隙に。

 

「……あ」

 

 がぶり。

 香澄の頭は、獅子舞の口の中へと吸い込まれた。真っ暗な世界に一転する。

 急な出来事に頭がフリーズするーー。そんな中、香澄は学校でよく聞くあの声を耳にした。

 

「香澄、頑張ってね」

「……え?」

 

 暗闇から開放された。ちんちきちんちきと去っていく獅子舞の後ろ姿を、香澄は見つめる。

 

「良かったな香澄。獅子舞に噛まれると厄が落ちるらしいぞ」

 

 有咲がチャラチャラと星型の何かを弄ぶ。

 言われてみると、先程までの催していた腹痛も消え、ライブへの不安感もすっかり無くなっていた。

 

「あの獅子舞、すごくリズミカル……」

「ほんとに生きてるみたいだね」

 

 たえとりみも戻ってきた。たえは頭にうさぎのお面をつけ、りみはアイスコロネを頬張っている。2人とも、祭りを楽しんでいるようだった。

 

 そんな中、香澄はあの声を思い返す。

 あのよく聞いた声。花女に行って、始めて話したあの優しい声……。

 

「……沙綾?」

 

 それ以外なかった。

 

 まさか獅子舞になっているとは思っていなかった。たまたまなのか、様子を見に来てくれたのかは分からないけど。来てくれたのは香澄にとって嬉しい限りだった。

 

「……ありがとう、沙綾」

 

 POPPING! 元気が出た。そんな中、有咲の携帯のアラームが鳴る。

 

「そろそろか。……ほら、香澄」

「なに? ……いたっ!」

 

 パチリ! と、耳に小さく痛みが走る。

 痛みとともに、カシャリと言う音が耳元で鳴る。

「これ、さっきみんなで買ったんだけどさ。……衣装に似合うかなって」

 

 赤い、星のイヤリングだった。トクン……トクンと、そこに心臓があるかのように、星の鼓動(ホシノコドウ)が聞こえ出す。

 見ると、有咲は紫の。りみはピンク色、たえは青色のイヤリングを既にしている。

 

「香澄、星が好きでしょ? お守りだよ」

 

 にこりとたえが微笑む。トクンと跳ねる。

 

「有咲ちゃんが付けたいって言って買ったんだよ」

「ちょっ! りみ! 言わない約束だろ!」

 

 りみが優しそうに微笑む。有咲は顔を赤くし、少しだけ恥ずかしそうにした。トクン、トクンと2度跳ねる。

 

「みんな……」

 

 元気が出た。耳元で、鼓動が鳴り響く。

 これならーー歌える! 

 

「……ありがとう」

 

 獅子舞に噛まれたことと、星のお守りを貰ったこと。それらが相まって、ちょっと泣きそうになる。

 でも泣くのはまだはやい。泣くのは、ライブが大成功をおさめてからだ。

 

「私、銀河みたいにキラキラドキドキする!」

 

 自分でもよくわからないことを言ったと思う。けれど、メンバーは、仲間は。音楽(キズナ)を奏でる最高の仲間たちは、笑顔で頷いてくれた。

 

「……ねえみんな! 私、バンド名思いついちゃった!」

 

 今しかないと思った。たった今思いついたその名前。弾けるような、楽しくポップに音楽(キズナ)を奏でる仲間たち!

 

「Poppin’Party! どうかな!」

 

「……いいんじゃないか?」

「Poppin’Party……元気で可愛い名前だね」

「Poppin’Party、略してポピパ……うん。いいかも」

 

 みんなの鼓動が聴こえる。力が湧き上がる! なんだって出来る!どこにだって行ける! そんな運命を感じる!

 

「それじゃあ、1回練習しよ!」

「はぁ? 練習ってなんの?」

「掛け声の練習! ……せーの! 私達!」

 

 みんなの声が揃う。トクン、トクンと星の鼓動が止まない。

 

「「「Poppin’Partyです!!」」」

 

 5月8日。Poppin’Partyは生まれた。

 

 

 




ちなみに5月8日はPoppin’Partyの名前が公開された日です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。