遠い音楽   作:冴月

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何気ない日常。よく晴れた風の下で、私は何かのカケラの歌を聴いた。


4

    ☆

 

 「そう言えばお姉ちゃん、部活どこにするかきめた?」

 

 入学して数日後の夕食の最中。妹の明日香が思い出したように聞いてきた。

 

「んー、まだ。どれも楽しそうなんだけどねぇ……。ただ」

「ただ?」

「なーんか、キラキラっ、ドキドキっしないって言うか」

「……キラキラドキドキって?」

 

 そう問いながら、明日香はハンバーグを口に入れる。香澄も、付け合せのポテトを口に放り込み、咀嚼して言った。

 

「うーんと。小さい頃さ、『星見の丘』にキャンプに行ったの覚えてる?」 

「んー……。あ、星見台がある所?」

「うん! 長いカーブの先にある広場みたいな所! まあるい星見台があったよね~」

「……確かにあった気もするけど、それがどう関係あるの?」

 

 首をかしげながら言う明日香。

 

「そこでさ、2人でテント抜け出して森の中探検したよね?」

「すっごい怒られたけどね。探しに行った私まで」

 

 ジトっとした視線を送られる。香澄は、ごまかすように麦茶を1口飲み込んだ。

 

「そ、それはごめんってばー……。その時にさ、見た星空凄かったよね。宝石みたいに輝いてて。キラキラ瞬いて、ドキドキ鼓動していて!」

「確かに凄かったけど……」

「それが、キラキラドキドキだよ~!」

「……その鼓動って自分の心臓の音じゃないの?」

「そうかもだけど……。どうせなら、あの鼓動を感じるような部活にしたいなって思ったんだ。剣道も水泳も、他の部活楽しかったけど」

「へぇ……意外と考えてたんだ」

 

 ちょっとびっくりしちゃった。白米を口に運びながら、明日香は言った。

 

「だってもう高校生だよ! 少しはしっかりしないと!」

「まさか、お姉ちゃんから『しっかり』なんて言葉が出るなんて……」

 

 目を丸くして驚いている。そんな変な事言っただろうか、香澄は母親に白米のお代りを要求しながら言った。

 

「なんかお姉ちゃん、ここ数ヶ月で変わったよね」

「えっ?」

「なんというか……。ちょっと落ち着いたというか、周りを気にするようになったというか……」

 

 ……そんなに落ち着いたのかなぁ。香澄には、よく分からなかった。

 とりあえず、自分で成長したということにしておき、香澄はおかわりの白米を口に入れた。

 

 

 

 

 

     ☆

 

 またまた数日後の、放課後。

 香澄は、あの時のようなドキドキを感じられる部活動を見つけられずにいた。

 沙綾を初めとした、クラスメイトとの仲は良好で、沢山友達になることはできたが、ただそれだけ。キラキラする部活動が見つからない香澄は、若干下を向いて歩いていた。

 ふと、春の風が香澄に優しく吹き付ける。花のいい香りが、ふわっと香澄の鼻をくすぐった。それらを飲み込むように、大きく深呼吸をした。

 ハラハラと舞う花びらを見て、夜空を見た日を思い出した。星はキラキラ瞬いて、ドキドキが止まらなかったあの日。ドキドキが見つからない今、香澄は懐かしささえ感じた。

 

 ……不意に、ぽつりとした寂しさを感じる。夕方ということもあり、あたりには人気があまりない。

 

 ……このまま、キラキラドキドキは見つからないのかな。そんなことさえ思ってしまう。

 そんな寂しさを推し消すように、香澄はイヤホンを耳にさそうとした。

 

 

 

 ーー本当に、そうかな?

 

 

 

 

 

 ふと、優しい声が聞こえた気がした。

 びゅうっと、強く風が吹き付ける。思わず顔を背けた香澄。……その視界の端に、キラリとした何かが映った。

 黄色い、ラメの入った星型のシール。少し色褪せていて、剥がれかけていた。

 

「星……のカケラ?」

 

 ドキリ、心臓が高鳴る。星を見たあの夜と、同じ感覚。気が付けば、その星にすっかり夢中になっていた。

 すぐに他にもないかあたりを見渡す。……そこからちょうど半歩位先に、小さな星が瞬いていた。

 星は、香澄の膝下位の位置に張り付いており、まるで道を示すかのように、ジグザグ続いている

 歩いて星を追ってみる。とくん、とくんと鼓動が聞こえる。忘れかけていた星の鼓動が、聞こえた気がした。

 香澄は、まるで縋るようにジグザグ進む。

 

 

 ーー分からない。分からないけど、星が呼んでる気がする。

 

 

 香澄は、星の導きに従うようにスルスルと路地を抜けていった。

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