次回から本番。
学園祭本番数週間前。パン喫茶の準備は佳境だった。
クラスの学園祭委員である香澄は、自らのバンドの新曲作成と平行して喫茶店の準備を進めていく。
そんな中で。忙しい合間を縫って沙綾は色々と手を回しつつ、クラスの準備を手伝っていたのだった。
「沙綾、ごめんね。色々手伝わしちゃって……」
「ううん、大丈夫! せっかくの学園祭だもん。全力でやらないと意味が無いから」
そう言いつつ、沙綾はクラスの書類をまとめていた。クリップで綴じた申請達やクラスのシフト表などを机にしまった後、カバンを持って立ち上がる。
「沙綾ちゃん、今日も家の手伝い?」
「うん。お母さん、最近風邪気味だし……」
りみの問いかけに若干辛そうな表情を見せる。見事な手際でクラスを纏めながら、家の手伝いも続けてきた沙綾。しっかり者だが、弱さを見せない沙綾が見せた少しばかりの本音だった。
「なんだか、大変そうだな」
「そうだね。お腹減ってるのかな?」
うさぎのしっぽパンをはむはむと食べながらたえが言う。堪らず有咲が「どこから持ってきたんだよ!」とツッコミを入れていた。
「……大丈夫? 香澄ちゃん」
「……うん」
ーー何かできることはないだろうか。看板を書く手を止めて、悩む香澄。
みんなと遅くまでワイワイ作業をして、ばかなことで笑いあって。あの蔵弁慶な有咲でさえも笑いながら手伝っている。そんな幸せの共有を沙綾とできないだなんて、香澄はなんだか悔しかった。
よっぽど家のパン屋を手伝わなければならない事情でもあるのか何なのか。もしできるのであれば、その沙綾の負担を減らして一緒に楽しみたい。一つの目標に向けて、沙綾とはしゃぎたかった。
ーーバンドが出来ない理由も、同じ事なのかな。
あの沙綾の家に泊まって以来。香澄は、なんだか気まずくなりそうな気がして、沙綾にバンドの誘いを断られた理由を聞けていない。
頭の片隅にそのことがあるせいで、香澄はそんなことまで思ってしまっていた。
「……」
あの日以来、新曲の作詞もそれほど進んでいない。有咲に喝を入れられたにもかかわらず、このもやもやを香澄はずっと晴らせずにいる。
「はぁ……」
沙綾とは友達なんだ。友達とは、一つの悩みを一緒に分けあえて、一緒に悩めるような人の事なんだ。
ーー沙綾は友達なのに、全部一人で抱え込もうとしてるの?
そんな沙綾の優しさが、酷く悲しかった。
「……ごめん! 私ちょっと行ってくる!」
「……はあ!? ちょ、香澄!」
カバンを引っ掴み、教室から駆け出す。唐突な香澄の行動に、有咲達はその背中を見ることしか出来なかった。