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「ごめんね。急に来ちゃって……」
「ううん、大丈夫。でも、急にどうしたの?」
教室で悩んでいた後。香澄はやまぶきベーカリーへと飛び込んでいた。
フラフラと流れるようにやまぶきベーカリーへと入店した香澄は、様子がおかしいと沙綾に介抱され今に至っている。
そんな香澄だったが特に考えず沙綾の部屋まで入ったは良いものの、どうすればいいのかよくわかっていなかった。
沙綾に心配された香澄は、「えー……」だとか「あー……」だとかなんだか歯切れが悪くなる。余計に心配になった沙綾は、眉間に多色皺を寄せて首を傾げた。
「え、えっとね……」
そんな香澄が、勇気をだして口を開いた時だった。
……くぅ~。
香澄のお腹が空腹を告げた。
ポカンとする両者。香澄は沙綾の顔をついつい見つめてしまい、そして。
「……ぷっ」
2人とも吹き出してしまった。あはは、と笑った沙綾が壁へごちんと頭をぶつける。
2人は、また笑いあった。
ひとしきり笑いあった後、沙綾は焼きたてのボンゾ・ベーグルとべイジ・食パンをいくつか持ってきてくれた。午後の紅茶のペットボトルも2本用意してあり、香澄と向かいに座った沙綾は黄色いレモンティーのキャップを開ける。香澄も、赤色のストレートティーを手に取り、ボンゾ・ベーグルをはむはむと食べる。
「あの、さーや」
「なあに香澄?」
べイジ・食パンを摘みながら沙綾が答える。
「さーや、なんでドラム辞めちゃったの?」
「……」
食べる手を止める。沙綾は、香澄を真っ直ぐに見つめた後に視線を下に落とした。
香澄は、沙綾の反応に緊張しながらもしっかりと問いかける。
「さーや、私は私の所為でって言ってたよね。……私、さーやが困っててそれが理由でドラムが出来ないなら、手伝いたいの」
「……いいよ、香澄に悪いし。文化祭でもライブするんでしょ? 全然時間ないよ」
「そ、そうだけど……。私、さーやと一緒にやりたい。ライブだけじゃない。クラスの出し物だって、さーやと最後まで楽しみたい!」
つい、語尾が強くなる。香澄の今の気持ちが言葉に乗り始めていた。
……しかし、フツフツと沸騰する沙綾の気持ちは止まることを知らない。
「…………ごめん、無理だよ。また迷惑かけちゃう」
「迷惑なんかじゃない!」
ビリビリと香澄の声で空気が震える。
沙綾は、言葉を受け止めながらも静かに答える。
「……じゃあ、香澄は。香澄は、私が迷惑だけ掛けてていいの? 負担だけかけてていいの?」
沙綾の目が見開かれる。頭を抱えて、視点が定まらない様子で語尾が強くなる。
「……母さん、体弱いのに家の事全部やろうとして倒れちゃったの。父さんもそれを手伝おうとして……。一時期は大変なことになってた」
沙綾の瞳から、涙がこぼれる。
「母さんが倒れた時、純と紗南凄い泣いてた。ナツ達にも凄い迷惑かけた……!」
口を押え、涙を拭おうとするもそれは止まらない。
香澄も、貰い泣きにしそうになるのをぐっと堪える。
「そんな中で私だけ楽しむの……? ライブめちゃくちゃにしたのに、私だけ気遣われてていいの? ……出来るわけないじゃん!!」
沙綾の、悩みが溢れだす。こぼれる涙が止まらない。
「私がバンドをしていたせいで皆が苦しんだんだよ!? 純達を不安にさせたんだよ!? もう絶対、あんな思いはさせたくない!! ……私の代わりに誰かが損する事なんて……もう絶対したくない」
しっかりしているようで、沙綾にも悩みがある。香澄はなんて言葉をかければいいかわからなかった。
頭をフル回転させて、考える。
沙綾は私の友達だ。仲間だ。有咲も言ってた、「一緒に悩み会えるのが友達なんだ」と。
……だったら、答えはひとつだ。
「……なんで、なんで1人で決めちゃうの……? 私達、
「……!」
泣くまいと決意した香澄の瞳から、涙が落ちる。
沙綾を見据えた紫の瞳が、友達の心を揺さぶる。
そして。
「う……うぅっ……。か、香澄……!」
ああ、あああと沙綾は泣き始める。両手で目を押え、小さな嗚咽が漏れ出す。
香澄は自らの涙をふき、沙綾にテッシュを渡す。
ティッシュを染めながら、小さく震える友達の背を香澄は優しくさすった。