遠い音楽   作:冴月

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"星の鼓動"を傍らに。歌えばいつだってゴキゲンだった。


5

 香澄は、ガムシャラに星を辿った。

 付けかけていたイヤホンはもういらない。邪魔になっていた為、カバンの中にしまった。

 時には走って、時には歩いて。しゃがんだり、登ったり。香澄はひたすら星を辿った。

 星は、右にあったり左にあったり。室外機に貼ってあったり、小さい子供しか通れないようなところにもあったりした。全て香澄の膝下くらいの場所に、それらはあった。

 段々と、星の数が多くなってくる。初めは一つだったのが、二つ……三つと増えてゆく。香澄は、この白黒世界から抜け出す導のように見えた。

 最終的に、星は五つになった。五つの星の横には、「ゴール!」という文字が子供らしい、丸っこい文字で書かれている。

 多少上がった息を整えつつ文字から頭を上げると、「質屋、流星堂」という看板が目に入った。どうやら、気が付かないうちにお店の前まで来てしまっていたらしい。

 一見、ここに、キラキラするものがあるようには思えない。けれど、けれども……ここには五つの星があった。

 

 五つの星。それは脳裏から離れず、香澄の心をひたすらにドキドキ鼓舞させた。

 周りには、知らない不確かな世界が広がっているが、不安や心配は無い。星のお陰で、確かな導を受けられたから。……そう。昔から、星を手に入れるば無敵になれると、相場が決まっている。

 そんな謎の自信から、香澄は「流星堂」というお店の敷地に惹かれるように入っていく。古くさそうな扉が開きっぱなしの古屋があり、フラフラと引き寄せられるように中を覗いた。

 

「……星?」

 

 ガラス張りのショーケースの中。真紅のーー赤い、星型のギターがそこに立てかけてあった。

 目から、離れない。それはひたすらに、香澄の目を惹いて止まなかった。

 

 

 ーードキドキドキドキ……心臓の鼓動が止まない。香澄はまるで、目の前で星が瞬いるのを目撃しているように感じた。

 久しぶりの、この感覚。キラキラドキドキした、あの全身を抱いてくれる星空を見たような感覚。鳥肌が立ち、頬が赤くなるのを感じる。香澄は今、運命に出会っていた。

 

「……なぁ、触ってみるか?」

 

 後ろから声が掛かる。驚くこともなく、香澄はひたすらに頷いた。

 目の前を、金色の髪が揺れる。整った顔立ちに、橙色の瞳。香澄は、声の主が初めて同年齢くらいの子だと分かった。

 ショーケースを、金髪の子が開ける。キラキラと、隙間から光が漏れだしているような気がした。

 金髪の子が横に捌ける。香澄は一歩ずつ、ギターに近づいた。

 息をのむ。恐る恐る手を伸ばして、指先で触る。

 ピタッピタッピタッ……。

 

 触るたびに、ドキドキしていく。ボディやネック、別の場所を触るたびに、鼓動が増してゆく。

 

「なあ、夢中になってるところ悪いが……」

 

 香澄を覗き込んでくる少女。ツインテールで、金髪で。少しばかり気の強そうな女の子だった。

 

「ギターってのは、装備しないと意味がないんだぞ」

「そ、装備……?」

「そう、装備。ほら、掛けてやるから少し離れろ」

 

 装備という聞きなれない言葉に戸惑う香澄をさておいて、女の子はギタースタンドから、ギターを持ち上げた。

 ネックとボディを大事そうに持ちながら、ストラップを棒立ちの香澄にかける。

 

 

 

 ドキ、ドキ、ドキ、ドキ……!

 

 聞こえる。忘れていた、あの遠い鼓動。星の衝動。

 香澄はよくあるギターを持つ姿で、左手でネックを握り、右手をボディに添えてみる。

 恐る恐る、震える手で弦をはじいてみた。

 

 じゃーん! 

 メロディにもならない音が鳴る。が、アンプに繋いでいない未完成の音でも香澄の心を十分に震えさせた。

 目をつむり、もう一度弾く。何度も、何度も、ギターをはじく。

 くるりと回ったり、しゅたっとポーズを決めてみたりもした。

 ……なんだか、笑えてきた。今まで、キラキラドキドキすることに悩んでいたのはなんだったんだろう。

 

 

 ーー星の鼓動は、確かにあった。見えなかったけど、確かにそこにあったんだ。

 

 何度も、何度も何度も弦を弾く。香澄の中の星の鼓動(ホシコドウ)は無くなってなんか居ない。確かに、息づいていたのだ。

 

 

「お、おい! 一応売り物なんだから、そこまでに……」

 

 見かねた女の子が香澄を止めに来る。そんな女の子の手を、香澄は握った。

 途端、ギョッとした表情を浮かべる女の子。

 

「ちょっ⁉ なんなんだよ!」

「見つけた!」

「はあ?」

「聞こえた!」

「はあ? 何が?」

「キラキラドキドキすること!!」

「き、キラキラ……?」

 

 女の子は、ポカンとしている。

 

「トクントクンっていう星の鼓動(ホシノコドウ)のこと!!」

 

 あははーと笑いながら、ゴキゲンな演奏を香澄は再開した。

 歌を歌うわけでもなく、音楽を奏でる訳でもない。ただ適当にギターをかき鳴らそれだけなのに、香澄の心は満たされていく。

 やがて、壁に描かれた「夢」と書かれた習字を香澄は見つけた。くるりと回り、ギターを拳銃のように構え。高らかにその言葉を口にする。

 

「BanG(夢を)……Dream(撃ち抜け)!!!!」

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