遠い音楽   作:冴月

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「……できた」

 

 作詞に取り掛かること数時間。夜も深け、たえとりみが帰宅した後に、香澄の歌は完成した。

 持っていたシャープペンシルを置き、ノートに書きなぐった歌詞を何度読み返してみる。

 

 ーーねぇ、キミ。聞こえる?

 

 そんな声が、聞こえた気がした。

 思えば、あの時。有咲の蔵に辿り着いた時も、声が聞こえたような気がする。

 やさしくて、暖かくて、陽だまりの天使のような声。知っているようで、知らないような不思議な問いかけ。あの声に、私は救われていたのかもしれない。

 そうして見つけることが出来たのは、ドキドキしない世界から抜け出す先導者となった、剥がれ掛けの小さな星のカケラ。

 きっかけは些細なことだったけど、今こうしてポピパとして居ることが出来た運命。

 小さな偶然が集まり、それが育ったら奇跡になる。その奇跡を大切にして、周りへと伝播させる。

 1つの点が線になって、線が円になって、循環してゆく。そんなきっかけになる事がバンドで歌を歌う事なのかなと、香澄はぼんやりと感じていた。

 受け取った愛を、今度は香澄が伝える番。戸惑い、走れない沙綾の手を繋ぎ、勇気を与える番。

 

 そんな決意の歌が、勇気の歌が今。出来たのかもしれない。

 

 メロディに合わせて歌詞を口ずさんでみる。香澄の口から紡がれる言葉の1つ1つが、ストンと有咲の胸へと入り込んでくる。

 香澄がいつも、口癖のように言っている"キラキラドキドキ"。そして、"星のコドウ"。その一片に、有咲は触れた気がしたていた。

 

 素直になれない有咲は、若干のドキドキを抑えながら香澄に声をかける。

 

「……できたのか?」

「……うん」

 

 心配そうに香澄を見つめる有咲。香澄は、歌詞を見つめながらコクコクと頷いている。

 

「……随分と長い時間作ってたな」

「……え、そんなに?」

「うん。もう22時近いぞ」

 

 スマートフォンの電源を入れて、時間を見ようとする……も。充電が切れてしまっていて点かない。確か、沙綾の家に言った時には70%近くのはずだったから、それを全て消耗するほど長い時間集中していた事になる。

 ……見ると、有咲は既にパジャマに着替えており、ツインテールも解いて完全に休む体勢に仕上がっていた。

 現実を急速に理解した香澄。自分がまだ制服でいた事と、夕ご飯を食べていなかったこと。ましてや、家に帰っていなかった事を矢継ぎ早に思い出した。

 

「……ご、ごめん有咲。私、こんな時間まで……」

 

 バタバタと荷物をカバンに詰め込み、ギターを持って蔵から飛び出そうとする。

 そんな慌てている香澄を、有咲は優しく制した。

 

「大丈夫だよ。ばあちゃんには言ってあるし」

 

 ほら、とお盆を渡される。

 そこには、海苔の巻かれたおにぎりと、巻かれていないおにぎりが1つづつ。そして、コップに入れられた緑茶が用意されていた。

 

「ばあちゃんが香澄を心配して作ってくれたんだ。夕飯のこと聞こうと思ったんだけど、声掛けても全然返事しなかったから。いるかわからなくてさ」

 

 有咲がコクリとお茶を飲む。その様子を見ていた香澄は、一層空腹と喉の乾きを覚えていった。

 1つ、海苔の巻かれていないおにぎりを手に取る。まだ暖かいおにぎりを、香澄は一口だけ頬張った。

 

「……美味しい」

 

 適度な握り具合と、塩加減。塩分の塩っぱさが、集中力を使った香澄の体に染み渡っていく。

 次第に食べるペースが早まる。ハグハグとおにぎりを口に入れる様子を、有咲は安心したように見つめていた。

 食べること一息ついた香澄は、暖かいお茶をひと口すする。張り詰めて集中していた作詞から一転、ほっとするひとときだった。世界で1番、あったかい。そんな気さえする。

 

「……もうこんな時間だし。明日もあるし。泊まっていくか?」

「……うん。練習もしたいし」

 

 香澄の決断は早かった。

 

 

 その日、香澄は有咲の家に泊まった。泊まると決めてからの香澄の行動は早く、既に決まっていたようにギターの練習を始めていた。

 もっとドキドキさせるようなギターテクを目指し、香澄の練習は眠くなるまで続いた。

 

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