……有咲のピアノが、静かに響き渡る。
目を瞑りながら歌っていた香澄は、静寂の中にぽたぽたと落ちる雫の音で目を開いた。
「沙綾ちゃん! 大丈夫?」
クタっと座りながら、静かに泣く。慌てたりみが、ベースを肩から掛けたまま沙綾にタオルを持っていった。
ピンク色のタオルで涙を拭く。沙綾は「ありがとう」と呟きながら、笑顔を作った。
「ごめんね、ちょっと思い出しちゃって……」
えへへ、と泣き笑いの表情を浮かべる。沙綾は言葉を続けた。
「指を繋ぎ始まった全て、とか。昨日までの日々にサヨナラする、とか。諦めてた事、色々思い出しちゃった」
指で涙を拭き取る。端で寝転がっていたザンジとバルが、沙綾の元へと寄っていった。
「さーや」
香澄が静かに呼びかける。星の導きにより、夢の蔵へと辿り着いた沙綾に語りかけるように話す。
「私ね、人ってそんな変われないと思うんだ。何かを乗り越えたと思っても、またつまづくことはあるし。人生は魔法じゃないから……」
星。迷路のような真っ暗な場所からでも、導いてくれるような声。
「だから何度でも歌うんだよ」
ハッとした。香澄は、静かに言ってゆっくりと目を閉じる。
「さーや、大切なものとは何度だって会えるんだよ。何度だって思い出して、空を見上げて、きらめきをそばにおいて、歌えばいいの。昨日までの自分に、サヨナラをすればいいんだよ」
ゆっくりと目を開けて、香澄は沙綾に促した。
「さーや、耳を済ませてみて。聞こえない?」
とくん、トクン。香澄の中にも、沙綾の中にもその声が聞こえる気がする。
胸に手を当てて、耳をすましてみる。
「ドキドキする鼓動が、聞こえない?」
遠いけれど、近くにある。トクントクント響く
「……うん。うん! 聞こえた、聞こえたよ。しっかりと、聴こえた……!」
見つかった。
しっかりと、意を決した様な表情で面々を見る。有咲と、りみと、たえ。そして香澄の顔を1度づつ。
その後沙綾は立ち上がった。過去を変えるかのように、未来を変えていくかのように、しっかりとした足取りで香澄達に寄る。
そして、
「……そんなドラムの居ないロックは認めない!」
鼓動の残響。各々の中で残る音をかき消すように、沙綾は叫んだ。
急な出来事に目を見開いているポピパ達。そんな彼女たちを他所に、先程のテンションとは一転した様子の沙綾が言う。
「私、前にバンドやってた頃。私は、私のせいでバンドのライブをめちゃくちゃにしちゃった。"みんなでライブをする"。そんな夢を壊しちゃった私は、勝手に諦めちゃったんだ。私が諦めれば、誰も傷つかないし、何も壊さないから」
足元で彷徨いている2匹。んなーと、鳴くザンジとバルを見ながら沙綾は言う。
「……けど、すっごくバンドがやりたくなっちゃった。みんなと一緒なら、もう一度だけできる気がする。夢を、撃ち抜ける気がする」
沙綾の笑顔が、眩しい。
ここ数日、まともに見ることが出来ていなかった沙綾の笑顔を、香澄は見ることが出来た気がした。
「1度は断っちゃった身だけど……」
覚悟。そうする事で、もう一度だけ信じてみる。
手を握り、夢見るハートビートを感じながら、走り続ける!
「私も、その"物語"に加わらせて下さい」
一呼吸。どれほど待っていたことだろう。
沙綾のその言葉に、香澄達は泣きそうになる。
「……もちろんだよ!」
「うん! 一緒に、リズム隊頑張ろうね!」
「新しい音を、一緒に弾いちゃおう」
「えと、その……。よ、よろしくな」
5人で手を取り合う。点と点が重なり線になり、線と線がつながり円となる。放したくない夢を、みんなで抱きしめる。みんなの中で、夢の物語はずっと回り続けるのだ。バンドは、運命共同体なのだから。
「さーや」
「ん?」
泣きそうになりながら、香澄が笑う。
「……これからよろしくね!」
「……うん。よろしくね、香澄」
ーーヒラヒラと花弁が舞うあの時を思い出す。
心揺れる季節に、小さな偶然が集まり、育っていく。
……いや、彼女達には''偶然"なんて言葉は似合わない。
彼女達が起こした"奇跡"。出会った始まりが導いた偶然を、"奇跡"に変えたのだ。
星の鼓動に抱かれながら、彼女達はいつまでも強く掻き鳴らしていく。
「……ねぇ! 曲、作ろうよ!」
「はぁ? ライブまで、後1週間しかないんだぞ?」
「それでも私、作りたい! 難しいかもしれないけど、私はポピパの"決意の曲"をつくりたいの!」
香澄の中に、ぼんやりと曲のイメージが沸きあがる。全員に、歌唱パートがあって、顔を合わせるように歌える曲。
まだ走り始めたばかりだけど、まだか弱い光だけれど、着実に育ち、輝いていくような曲。
「……私、作りたい」
「なっ、や、山吹さん?」
意外にも乗ってきた沙綾に驚く有咲。そんな有咲を置いておいて、ポピパは話を進める。
「私もやりたいな。ポピパの決意の曲」
「わ、私も! ちょっと大変かもしれないけど、やってみたい!」
たえ、りみも乗っかってくる。そんな面々に有咲は「んなっ!?」と、変な声を上げる。
「有咲!」
「有咲」
「有咲ちゃん!」
「市ヶ谷さん……ううん。有咲!」
ポピパに見つめられる有咲。木っ端ずかしくなったのか、皆の決意を感じとったのか。それは、本人しか分からないものの、なにか吹っ切れたようだった。
「……あーもう! それだけ言うんだったらやってやる! けど、めちゃくちゃ大変だからな!!」
そう言って、腕を組みながらそっぽを向いた。
ちょっと耳が赤い有咲にみんなは笑う。なんとも和やかな雰囲気だ。
「……あっ! ねえ、お客さんに紹介しようよ!」
「紹介? お客さんって……?」
訝る様子の沙綾の腕を引く。Poppin’Partyの5人は、蔵の中で騒がしく整列する。
「いくよ! せーのっ! ……私達っ!」
「「Poppin’Partyです!!」」
それぞれが、それぞれポーズを決める。隣に抱きついたり、ピースしてたり、何かを撃ち抜いたり、それらは様々だ。
みんなのポーズを見て、みんなが笑い合う。暖かい、幸せのひと時だ。
そんなポピパをみて、2匹のお客さんはんなぁーと、声を上げた。
なんか最終回みたいですけど、まだまだ続きます。
もうちょっとだけ続くんじゃ。