遠い音楽   作:冴月

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走り始めたばかりのキミへ
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「……だぁーっ! 疲れた!」

 

 練習開始から数時間後。有咲が根を上げてしまった。

 

 今日は、沙綾がPoppin’Partyに加入してから初めての練習だった。金曜日に電子ドラムの「TD-1K」を急遽購入し、有咲の蔵に置かせてもらってからすぐ。ポピパは5人での練習を開始した。

 

 金曜日から泊まり込みで、土曜日、日曜日まで続く軽い合宿のような予定をみんなで組み立てていたのだ。並行して沙綾との新曲作りを行いつつ、練習練習ひたすら練習……。

 そういった形で、各々がお菓子や飲み物を持ってくる中、猛特訓が既に開始されていたのだった。

 

「いっぱい練習したもんね。はい、お茶だよ」

「ん、ありがと」

 

 りみから渡された緑茶を受け取り、喉を潤す。ぷはーと女子高生らしくない声を上げながら、有咲はソファに座った。

 

「結構練習したねぇ……4時間ぶっ続けかな」

「私、お腹すいちゃった」

 

 沙綾とたえも少々疲れたような顔をする。たえに関しては、お腹を抑えながらもバルを撫で回していた。

 

「そんな皆に……はい! パン持ってきたよ!」

 

 沙綾が茶袋を机に置く。封をされた口から漏れ出す匂いが、4人のお腹を刺激する。

 

「やった! 沙綾ありがとう!」

 

 みんなでソファに座り、机を囲む。各々が好きなパンを手に取り、はむはむと口に運び始めた。

 ……そんな面々を見て、香澄はふふっと笑みをこぼす。

 

「どうしたの、香澄ちゃん?」

「えっとね。……ポピパ、集まったなーって」

 

 えへへ。つい恥ずかしくなり、目を細めながら笑う。

 突然の香澄の笑顔に、疑問符が浮かぶ。香澄は言葉を続けた。

 

「なんか、みんなが居て嬉しいなーって。笑いあって。バンドの練習して、疲れたら少し休憩して。……なんだか嬉しくなっちゃった」

「香澄ちゃん……」

 

 少し涙ぐんでしまったりみ。たえ、沙綾も、なんだか嬉しそうな表情で香澄を見つめている。

 

「嬉しくなっちゃったって……まだ、始まったばかりだろ」

 

 有咲の発言に、ポピパが集中する。

 

「まだ最初のライブすらやってないんだし、これからどんなコトがあるかも分からないだろ。……だから、喜ぶのは後」

 

 言いながら恥ずかしくなったのだろうか。言い終わる頃には、ほんのりと耳が赤くなっていた。

 けど、その発言を笑うものはいない。ここに居るのは、香澄と有咲とりみとたえと沙綾。Poppin’Partyなのだ。各々が夢を撃ち抜くために集まった5人なのだから。

 

「あ、有咲~!」

 

 香澄が耐えきれなくなり、つい有咲に抱きついた。

 途端にぼっ! と赤に染る有咲。引き剥がそうとするものの、香澄の力の方が強い為剥がれない。

 そんな様子を、他の3人は微笑ましそうに見つめていた。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 深夜。有咲の家のお風呂に、皆が順々に入っていく中。香澄は、縁側に腰かけて1人、夜空を見上げていた。

 満点の夜空に輝く星空。香澄は、あの「星見の丘」に行った後から、星空の1番輝く星を探すのが習慣になっていた。

 美しき夜空は、一番星を照らしてくれる。きっと未来は明るいんだって伝えてくれるようだった。

 

「あ、ここに居たんだ」

 

 ぼんやりと空を見上げている中、パジャマに着替えたたえが香澄の隣に座った。

 

「皆は?」

「ザンジたちと遊んでるよ。癒されたいんだって」

 

 たえと、夜空を見上げる。静かに瞬く星空をただただ、ぼんやりと。そんな時間が、永遠と続いていくようだった。

 視界を占めるその星空は、なんとも雄大で。こんなにも優しく……。

 

「なんか、夢を見てるみたい」

 

 唐突に、たえが口を開く。香澄は、ただ、たえの横顔を見つめた。

 

「キースや、ベックや、ジミヘンの曲を目の前で聞いたような感じ。いつだって、私を震えさせてくれるの」

 

 ふふっと、笑みを浮かべる。その姿は優しく、美しく。夜空に映えるたえの髪が、キラリと輝いていた。

 

「こんな日が、いつまでも続いけばいいなーって」

 

 その顔に、思わず吸い込まれそうになる。香澄は、夜空をまた見上げながら言った。

 

「……大丈夫だよ。まだどうなるか分からないけど、何をしていくのかまっさらだけど、きっと大丈夫」

 

 ーーだって、夜空の向こうには明日が待っているんだから。

 

 その言葉をしっかりと伝える。誓いを立てるように、約束を結ぶように、ハッキリと。

 

「……そうだね。……あっ!」

 

 たえが声を上げる。立ち上がり、何かを見つけたかのように星浮かぶ夜空を指さす。

 

「流れ星! 願い事しないと!」

 

 視界の端。弧を描く流星が落ちていく。たえは、手を握り、誓いのポーズをとった。たった一瞬の奇跡に、祈るように願いをかけていく。

 

「……あーっ! 私もする!」

 

 香澄も同じように、星に願った。夜空の中で1番近いもの。流星が燃えつきる刹那に、2人は願いをかける。

 

「……ねぇ、おたえ。私、約束する」

 

 ゆっくり語り掛ける。

 

「私達は、"最高"の瞬間を手にするって。いつだってビリビリ痺れるような

音楽(ユメ)を奏でるって」

 

 小指をたえに向ける。

 

「ポピパとして、いつまでもおたえをドキドキさせるって!」

 

 ーー約束!

 

 少しの間、香澄と小指とを交互に見る。数回にわたり往復させた後に、満面の笑顔を浮かべた。

 

「ーーうん! 約束!」

 

 小指を絡ませる。しっかりと、固く、それでも優しく結ぶ。

 バンドは、運命を共にする。その中で、約束の景色は強く息づいていく。

 走り、追いかけて浮かぶパノラマ。その五線譜の上で今、スピカが燦々と輝いていた。

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