遠い音楽   作:冴月

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 たえとの約束の後、他の3人も縁側に出てきた。

 皆で星を見ながら、ワイワイと話し合う。学園祭のライブ、その曲のセトリはどうするだとか、演奏中の掛け声はどうするだとか、そんなことを話した。

 香澄がボケて、有咲がツッコミを入れて。たえがちょっとズレたことを言って、それにりみがノッてまた有咲がツッコむ。そして香澄が唐突な提案を口にしたのを、沙綾がノッてまた有咲がツッコむ。

 なんて幸せな時間なんだろう。5人の穏やかな時間は、あっという間に過ぎていく。

 

☆☆☆☆☆

 

 

 学園祭、文化祭のはじまりだ。

 クラスメイトみんなで作りあげた「パン喫茶」が、本日堂々オープンする。

 廊下に置かれた立て看板に、部屋を彩る装飾の数々。店員は皆フリルエプロンを着用しており、可愛らしく着飾っていた。

 

「フゥーーーーッ! お持ち替えりぃ~~~っ!」

 

 開店して数分後。やけに高いテンションで現れたのは、二十騎ひなこ。そして、グリグリの面々だった。

 フリルエプロンを纏ったクラスメイトに案内をされて、グリグリは席に着く。

 

「お姉ちゃん……! 来てくれたんだ!」

「うん! りみが楽しそうに話してくれるから、気になって来ちゃった!」

 

 りみと、姉のゆりとの間でほんわかとした空間が作られている。微笑ましさにクラスメイト達が笑顔になる中、香澄は有咲に小突かれた。

 

「か、香澄! 注文溜まってやばい!」

 

 カフェオレを乗せたお盆を持ったまま、有咲はあたふたと香澄の横を通り過ぎていく。カフェを見渡すと、たえも沙綾も急に混みだしたお客さんの対応に追われていた。

 

「……うん! いらっしゃいませー!」

 

 大盛況の1-Aカフェであった。

 

 休憩時間には、ポピパで文化祭を回った。ユリ達3年生のお化け屋敷では、七菜の本気っぷりに驚かされて香澄と有咲は悲鳴を上げっぱなしだった。たえとりみは楽しそうに声を上げていて、沙綾はそれを見て逆に冷静になることが出来ていたのだった。

 他にも、お店で出していたお菓子や綿あめなどを食べながら出し物を回ったり、隣のクラスの出し物「金のガチョウ」で逃げ出した姫を探し出し、追いかけたりもした。この5人での時間が幸せで、最高だった。

 

 けれど、あまり遊んではいられない。香澄達には、まだこの文化祭での大一番が残っているのだ。

 文化祭メインステージ、その大トリ。1番盛り上げるステージを、作り出さなければならないのだ。

 

 そういった理由もあり、香澄達手作りのフライヤーが学園祭の色々な場所に貼られている。

 

「……みて、美咲! ライブよライブ! Poppin’Partyですって!」

「あー、はいはい。楽しそうなのは分かるけど、飛び跳ねるのはやめましょうねー」

 

「氷川さん……この子達……商店街ライブの……」

「ええ。かなり盛況だったらしいですね。…… Glitter*Greenも出演しますし、今後の演奏の為にも見ていきましょうか」

 

「千聖ちゃん、ライブステージだって! ちょっと見ていこうよ!」

「彩ちゃん、はしゃぐのはいいけれど明日の仕事に支障の無いようにね……」

 

 噂をする生徒達。ライブ直前になるまで、徐々に徐々にボルテージは上昇していく。そんな生徒達のすぐ側。出演控え室にて、香澄達はそわそわと落ち着かない様子で準備を進めている。

 やまぶきベーカリーのパンを食べたり、クラスメイトが持ってきてくれた差し入れを食べながら衣装を整えた。

 学校中に散らばった観客たちが体育館ホールに集まり、高まっていく。

 

 

「……皆さんこんにちは! Glitter*Greenです! 今日は、いっぱい楽しんでいってねー!」

 

 歓声。SPACE等で有名だということを差し置いても、お客さん達のグリグリを呼ぶ声が止まない。

 

「聞いてください……。"Glee! Glee! Glee!"」

 

 翠に輝くスポットライト。世界が、エメラルド色に輝いていく。深い緑に包まれていく体育館は、まるで新芽が芽吹いたよう。

 香澄達も、ステージ脇でゆり達の演奏を見つめ興奮冷めやらぬ様子だった。

 

 

「……どうも! 私達、CHiSPAって言います!」

 

 眩い光。大自然のように雄々しい光が体育館を照らす。ステージ横で見つめる沙綾も、なんだか心配そうに見つめている。

 

「……ここで、うちの新メンバーを紹介させてください! ドラムのサトちゃんです!」

「え、えぇっ! そ、そんなコト……」

「あるあるってー♪」

 

 真結が里美の背中を押して、ステージの前に押し出す。里美は、急にスポットされたことに加え、「サトちゃーん!」という掛け声にオドオドとし始めてしまう。

 そんな様子に観客たちが笑顔になり、沙綾たちも笑顔になっていった。

 

 ちょっとの間を置いて、夏希は言葉を続けた。

 

「私達、ちょっと前まで色々あったんだけど……」

 

 チラリと、ステージ脇の沙綾を見る夏希。一瞬のアイコンタクト、ほんの数秒だったが、沙綾と夏希にとっては十分すぎる時間だった。

 

「今は! 楽しかった思い出を胸に、大好きな仲間の旅立ちを祝いたいと思います!」

 

 沙綾から、涙がこぼれる。過去に知らんぷりをしていた沙綾への祝辞。こんなにも眩しい所へ行けた沙綾への、最高の言葉。

 

「……行きます! "Be shine, shining"!」

 

 新しい1歩。彼女たちは、新しい光を皆に魅せてくれた。

 

「……ありがとうございましたー! 次のバンドも楽しんでいってねー!」

 

 歓声に包まれながら、夏希達がステージを降りる。静かに涙を流す沙綾に気づいた夏希は、

 

「さーや。私、さーやとのバンド楽しかったよ」

 

 静かに告げる。少しだけ瞳を潤ませながらも、笑顔で。

 沙綾は、流した涙を腕で拭き取り泣き笑いの表情を作る。

 

「……うん! 私も、楽しかった! 楽しくて、大好きだったよ!」

 

 ーーそんだけ!!

 

 夏希と沙綾。2人はそれ以上語ることは無く、その場を後にする。

 沙綾はステージ上がり、夏希はステージを降りる。

 歩む道が違う2人。それでも、自分が信じた夢を奏続けていく。

 

「……それじゃあ、行こう!」

「ちょ、まって、まだ心の準備が……」

「有咲ちゃん、緊張した時には人の字を書いて飲むんだよ?」

「……はい、有咲。私の人の字、飲む?」

「いや、飲まねぇよ!」

「いらないなら、私貰おうかなー」

「え、なっ、沙綾!?」

 

 ワイワイと5人で言い合いながら垂れ幕へと向かう。

 やがて円陣を組み、手を合わせる。

 

 ーーポピパ! ピポパ! ポピパパピポパ!

 

 5人の音楽(キズナ)が、今走り出す。

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