ゴキゲンな彼女が解き放つ、無敵で最強な舞台を。
☆
私は、昔から素直になれなかった。
小学生から受験で中学に上がった私、しばらくの間クラスメイトとの学校生活を過ごしていたのだが……とてつもなくい心地の悪さを感じていた。
なんというか、周りの子供たちが子供に見えてしまったのだ。多分、見下していた部分も私の中には存在していたんだと思う。
素直になり、先生にでも気持ちを吐き出せば、ある程度変わったのかもしれない……が。生憎そこまで完成している中学生ではなかった。
そんな学校に私は行く理由を見いだせず。'家でも勉強は出来るから'と言って、家に籠るようになっていったのだ。
遅くに起きて、ご飯を食べて、盆栽の世話をして、ネットサーフィンをする。勿論勉強もして、出席日数の為にたまに授業に出て、テストはしっかり受ける。そんな生活がしばらく続いた。
受験前までやっていたピアノも、ピタッと止めてしまった。ばあちゃんが買ってくれたピアノは、蔵の片隅で静かに埃を被っていった。
そんな中、私は不思議な出会いをする事になる。
いつも通り、学校をさぼり、トネガワの世話をしていた時。ーーふと思い立った私は、質屋となっている倉庫へ足を運んだ。
……今思えば、これも運命だったのかもしれない。ただ、少なくとも、この時は偶然だと思っていた。
質屋に寄った私は、私と同じ学校の女子高生が店をのぞき込んでいるのを発見した。
――泥棒!! そう叫ぼうとした私だったが、その表情を見て声を出すことが出来なかった。
なんと言うか、その姿に惹かれてしまったからだった。
真面目にギターを見ているのかと思ったら、えへら顔でだらしなく見つめていたり。下から、上から、右から、左から覗き込む。ギターを弾くような仕草をしたと思ったら、顔を隠してキャーと照れている。いや、正直に言って、若干キモイかもしれない。
でも、それでもーー。その姿に惹かれている私がいた。
例えるならば……そう。目をキラキラと輝かせている子供を、無下になどできるだろうか? それと同じ感覚だった。
数十分経過しただろうか。彼女はまだ、見つめるのをやめない。ある程度正気に戻るとともに、その姿に見かねた私は、ちょっと触らして帰らせようと思った。
「なあ、触ってみるか?」
こちらには目もくれず、ぶんぶんと頷く少女。よく見ると、なんだか猫みたいな髪型をしていた。
――変な奴。そう思いながら、ギターのショーケースを開けた。
変な奴は、すぐに触ろうとしなかった。本当に触ってもいいのか、迷ってるかのようにギターを見つめていたが……。やがて、指先でギターに触れる。
すぐに離れた指先。変な奴は頬を赤らめ、別の場所を又タッチした。
触るたびにむはーと声を上げる変な奴。私は更に呆れてしまった。
「なあ、ギターってのは装備しないと意味ないんだぞ」
「そ、装備……?」
初めて私に顔を向けた。紫色の、澄んだ瞳をしていた。ポカンとした表情を浮かべるも、口元は若干にやけていて、やはり変な奴だった。
「そう、装備。ほら、掛けてやるから少し離れろ」
そう言って、ショーケースからギターを取り出す。当の変な奴は、頬を赤らめたまま棒立ちしていたので、ギターストラップを代わりにかけてやった。
驚いた表情を浮かべる変な奴。それがだんだんと真面目な表情になってゆき、目をつむった。
左手をネックに、右手をボディに添えた。頬を赤らめた少女は、爪でギターを……弾いた。
倉庫に、じゃーんという音が響く。チューニングもしていない、アンプにも差していない。そもそもそれは音楽ではなく、何かのコードというわけでもない。それなのに、それなのに。
どうしてこんなにも、この少女(音)は魅力的なのだろう。
少女が、じゃーん! じゃーん! と何度もギターを鳴らす。そのたびに、私は今ある光景に飲まれていった。
見慣れていたはずの蔵が、少女の為にステージに成り代わる。キラキラと輝き、ドキドキさせる。この瞬間今を、「生きている!」と実感させるような。世界中を、勇気づける愛の歌を歌うような。変な奴の笑顔が、とてもまぶしかった。
初めての、こんなときめく経験をしたかもしれない――私は、少女の舞台に見とれていた。
……あははーという少女の笑い声で、はっと我に帰る。そうだ、彼女が演奏しているのはまだ売り物だ。勝手に演奏されて、壊されても困る。
「お、おい! 一応売り物なんだから、そこまでに……」
彼女が目を開いた。潤んでいて、紫のきれいな瞳。キラキラと、光がその目に宿っている。
ゆっくりと、視線が合う。輝かんばかりの笑顔を向けられ、彼女は私の手を握った。
「ちょっ⁉ なんなんだよ!」
「見つけた!」
「はあ?」
「聞こえた!」
「はあ? 何が?」
「キラキラドキドキすること!!」
「き、キラキラ……?」
やっぱり変な奴だ……! 握られたその手を振りほどく。
「トクントクンっていう星の鼓動のこと!!」
再び、あははーとギターをかき鳴らす。彼女は、倉庫にある「夢」と書かれた習字に向き合う。
ドキドキとときめいていた彼女はやがて、ギターを銃のように構えた。狙いを定める。
照準がピタッと合い、そして、彼女は、高らかに撃ち抜いた。
「Bang(夢を)……Dream(撃ち抜け)!!!!」
私はこれから。彼女の姿にユメを見る事になる。