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「……オーナー!」
たえが、誰よりも先にSPACEに駆け込む。
続けて香澄、沙綾、りみ、有咲の順でオーナーの元へと駆け寄った。
「オーナー、全員休みって……」
「ああ、全員アウトだって。参ったよ……」
苛立った様子で頭をかくオーナー。額からは一筋の汗が流れており、事態の深刻さを感じさせた。
「今日って、RoseliaとGlitter*Greenのジョイントライブですよね」
たえが、真剣な表情で聞く。オーナーは、大きな溜息をつきながら「ああ」とだけ答えた。
「厳しいかもしれないけど、やる。お客さんが待っているんだ」
お客さんが待っている。その言葉のせいなのだろうか。
香澄の脳裏には、Glitter*Greenがライブに遅れた時の光景が浮かんでいた。
「客を待たせるなんでご法度だ。何があってもステージに立ち、客の期待を裏切らない。それが、バンドってものだ」
オーナーは、バンドをとても大切にしている。だが、その一方で。オーナーはこのライブハウス「SPACE」のオーナーなのだ。お客さんの事を、第1に考えなければならない。
「……私、手伝います!」
そう考えると、体が勝手に動きだしていた。
あの時と同じように。音楽をやりたい人の手助けを出来たらーー。そんなことを、どこかで思っていたのだ。
「お、おい。手伝うって……」
有咲が心配そうに止めてくる。
オーナーは、以外そうな顔をして香澄に向き直った。
「素人に手伝わせるわけにはいかないよ」
「でも! 何かできることはないですか? 難しいのは、無理かもしれないけど……」
むぅ……と、唸るオーナー。香澄をどうするべきか、対応に悩んでいる。
そんなオーナーに追い打ちをかけるかのように、りみが声を上げる。
「お姉ちゃん達のライブ、手伝いたいんです! 掃除とか、やってもいいですか?」
あの時とは違う、しっかりとした声色で告げた。
「何をしたらいいか分からないので、言って頂けたら」
沙綾も、りみに続く。
5人に詰められ、口に手を当て考えるオーナー。そんな姿を見たたえが、一言だけ口にする。
「……オーナー」
考えを促すような呼びかけ。
そんな、香澄達の思いにオーナーは根負けしたようで。
「……今日だけだよ」
「……ありがとうございます! 頑張ります!」
香澄達は、SPACEの1日手伝いをすることになった。
10分後。予備のSPACEのスタッフ衣装に着替えた香澄、りみ、沙綾、有咲は、準備室内の掃除を任されていた。たえはライブステージで調整。アンプや、その他の機材関係を1つづつ見ていくこととなった。
「おい、香澄。手、止まってるぞ」
手を止めて、何かを見ていた香澄。ペラペラと、夢中になって何かをめくっている。
「……って、何だそれ。ノート?」
有咲が覗き込んできた。
香澄が集中していたのは、『SPACE NOTE』。タイトルが書かれた表紙や、ページの端が若干くたびれたように見えるそれは、沢山のメッセージが書き込まれていた。
「『本当に最高でした! まだまだ歌い足りない!』『ここに出会ったのは運命です! ありがとうオーナー!』 だって」
香澄の声に、りみと沙綾も近寄ってくる。中身を覗いた2人は、興味深々な様子で目を通す。
「へぇ……。ここに出演したバンドが書いてくのかな。こんなに沢山……」
「昔から置いてあるのかな?」
古いノートに手を伸ばし、ペラペラとめくる。りみは、その中で特に古ぼけたものを手に取った。
「これ、ここでライブしてった人の写真かな」
りみが1枚だけ手に取る。
香澄が横から覗き込んでみると、最高の笑顔で取られていた写真があった。五人組のガールズバンドであり、ドラムがポニーテールの所や、キーボードがツインテールな所。ギターが2人のところまでそっくりだ。
そんな彼女らに挟まれるようにして、オーナーが笑顔で写っている。
「オーナー、笑ってるね」
「だな。あのおばちゃんでも、笑う時があるんだなぁ……」
沙綾の呟きに対し、有咲がさりげなく失礼なことを言っていた。
香澄は、そんな彼女らを他所にページをめくり続ける。
「……いいなぁ。みんな、この場所が大好きなんだね。私達もいつか、こんな感じで……」
香澄が1人、憧憬しながらノートを読みふけっているときだった。
「……あんた達! 遊びじゃないんだよ!」
「うわっ、オーナー!」
突如大声を上げたオーナーに、4人は飛び上がる。一応、箒などは持ったままだったがノートをネタに談笑している最中だったので。
「バンドが来る前に掃除は済ませときな!」
ピシャリ。
そう叱られてしまった。
香澄が1人だけ、「はいっ!」と答えたのを確認するや否や。オーナーは、「フン」と鼻を鳴らして部屋から出ていってしまう。
「……こ、こえぇ」
有咲が縮こまる。確かに、香澄達を射貫くような視線と、声には多少恐怖を感じるものがあった。
「……真面目にやろっか」
りみが諭すように言う。香澄たちは、ノートを元の場所に戻して掃除を再開した。