遠い音楽   作:冴月

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☆☆☆☆☆

 

 

「……オーナー!」

 

 たえが、誰よりも先にSPACEに駆け込む。

 続けて香澄、沙綾、りみ、有咲の順でオーナーの元へと駆け寄った。

 

「オーナー、全員休みって……」

「ああ、全員アウトだって。参ったよ……」

 

 苛立った様子で頭をかくオーナー。額からは一筋の汗が流れており、事態の深刻さを感じさせた。

 

「今日って、RoseliaとGlitter*Greenのジョイントライブですよね」

 

 たえが、真剣な表情で聞く。オーナーは、大きな溜息をつきながら「ああ」とだけ答えた。

 

「厳しいかもしれないけど、やる。お客さんが待っているんだ」

 

 お客さんが待っている。その言葉のせいなのだろうか。

 香澄の脳裏には、Glitter*Greenがライブに遅れた時の光景が浮かんでいた。

 

「客を待たせるなんでご法度だ。何があってもステージに立ち、客の期待を裏切らない。それが、バンドってものだ」

 

 オーナーは、バンドをとても大切にしている。だが、その一方で。オーナーはこのライブハウス「SPACE」のオーナーなのだ。お客さんの事を、第1に考えなければならない。

 

「……私、手伝います!」

 

 そう考えると、体が勝手に動きだしていた。

 あの時と同じように。音楽をやりたい人の手助けを出来たらーー。そんなことを、どこかで思っていたのだ。

 

「お、おい。手伝うって……」

 

 有咲が心配そうに止めてくる。

 オーナーは、以外そうな顔をして香澄に向き直った。

 

「素人に手伝わせるわけにはいかないよ」

「でも! 何かできることはないですか? 難しいのは、無理かもしれないけど……」

 

 むぅ……と、唸るオーナー。香澄をどうするべきか、対応に悩んでいる。

 そんなオーナーに追い打ちをかけるかのように、りみが声を上げる。

 

「お姉ちゃん達のライブ、手伝いたいんです! 掃除とか、やってもいいですか?」

 

 あの時とは違う、しっかりとした声色で告げた。

 

「何をしたらいいか分からないので、言って頂けたら」

 

 沙綾も、りみに続く。

 5人に詰められ、口に手を当て考えるオーナー。そんな姿を見たたえが、一言だけ口にする。

 

「……オーナー」

 

 考えを促すような呼びかけ。

 そんな、香澄達の思いにオーナーは根負けしたようで。

 

「……今日だけだよ」

「……ありがとうございます!  頑張ります!」

 

 香澄達は、SPACEの1日手伝いをすることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 10分後。予備のSPACEのスタッフ衣装に着替えた香澄、りみ、沙綾、有咲は、準備室内の掃除を任されていた。たえはライブステージで調整。アンプや、その他の機材関係を1つづつ見ていくこととなった。

 

「おい、香澄。手、止まってるぞ」

 

 手を止めて、何かを見ていた香澄。ペラペラと、夢中になって何かをめくっている。

 

「……って、何だそれ。ノート?」

 

 有咲が覗き込んできた。

 香澄が集中していたのは、『SPACE NOTE』。タイトルが書かれた表紙や、ページの端が若干くたびれたように見えるそれは、沢山のメッセージが書き込まれていた。

 

「『本当に最高でした! まだまだ歌い足りない!』『ここに出会ったのは運命です! ありがとうオーナー!』 だって」

 

 香澄の声に、りみと沙綾も近寄ってくる。中身を覗いた2人は、興味深々な様子で目を通す。

 

「へぇ……。ここに出演したバンドが書いてくのかな。こんなに沢山……」

「昔から置いてあるのかな?」

 

 古いノートに手を伸ばし、ペラペラとめくる。りみは、その中で特に古ぼけたものを手に取った。

 

「これ、ここでライブしてった人の写真かな」

 

 りみが1枚だけ手に取る。

 香澄が横から覗き込んでみると、最高の笑顔で取られていた写真があった。五人組のガールズバンドであり、ドラムがポニーテールの所や、キーボードがツインテールな所。ギターが2人のところまでそっくりだ。

 そんな彼女らに挟まれるようにして、オーナーが笑顔で写っている。

 

「オーナー、笑ってるね」

「だな。あのおばちゃんでも、笑う時があるんだなぁ……」

 

 沙綾の呟きに対し、有咲がさりげなく失礼なことを言っていた。

 香澄は、そんな彼女らを他所にページをめくり続ける。

 

「……いいなぁ。みんな、この場所が大好きなんだね。私達もいつか、こんな感じで……」

 

 香澄が1人、憧憬しながらノートを読みふけっているときだった。

 

「……あんた達! 遊びじゃないんだよ!」

「うわっ、オーナー!」

 

 突如大声を上げたオーナーに、4人は飛び上がる。一応、箒などは持ったままだったがノートをネタに談笑している最中だったので。

 

「バンドが来る前に掃除は済ませときな!」

 

 ピシャリ。

 そう叱られてしまった。

 香澄が1人だけ、「はいっ!」と答えたのを確認するや否や。オーナーは、「フン」と鼻を鳴らして部屋から出ていってしまう。

 

「……こ、こえぇ」

 

 有咲が縮こまる。確かに、香澄達を射貫くような視線と、声には多少恐怖を感じるものがあった。

 

「……真面目にやろっか」

 

 りみが諭すように言う。香澄たちは、ノートを元の場所に戻して掃除を再開した。

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