遠い音楽   作:冴月

61 / 71
57

 

☆☆☆☆☆

 

「……凄い」

 

 圧巻。その一言に尽きた。

 Glitter*Greenも、もちろんかっこよかった。あの時、この場所で、私を導いてくれたような音楽を、奏でていた。

 けど、けれど。このRoseliaは、何かが違う。Glitter*Greenみたく楽しくやっている訳ではなく、頂点を目指しているような感じ。香澄は、そんな事を感じ取っていた。

 

「あのギターの人、花女うちの風紀委員の氷川先輩だよな。あれで、私達とひとつしか違わないなんて……」

 

 有咲が感心している。正確性の塊と言えるようなその演奏、その影響は、ギター担当の2人だけではなくPoppin’Party全体にまで及んでいた。

 

「……ありがとう。次で、最後の曲よ」

 

 青薔薇のマイクを握った、銀髪のボーカリスト。ーー湊友希那が、目を瞑ったまま言う。

 

「……『BLACK SHOUT』」

 

 ーー鐘が鳴る。Roseliaの黒き咆哮が、白を真っ黒に染めていく。

 香澄達は、その姿をただ口を開けて見ることしか出来なかった。

 

「……叶えたい夢! 勝ち取れ、今すぐにーーshout!」

 

 夢を、勝ち取る。不安まみれの世の中のイロハ、誘惑に負けずに、未来を勝ち取って見せるという強い決意を感じる。

 本当に、勝つためのバンド。そんなイメージを想起させるRoseliaに、Poppin’Partyはただただ圧倒されていった。

 

 

 

 

 

 

「うーん! ライブ、凄かった!」

「そうだね! お姉ちゃん達もかっこよかったけど、Roseliaの人達も凄かった!」

 

 ライブ後。お客さんが帰ったのを見計らって、りみと感想を言い合う香澄。Glitter*Greenはいつもながら最高だったが、Roseliaという湊友希那さん率いるバンド。あの音楽が、耳から離れない香澄だった。

 

「ボーカルの人、凄かったな。湊さん……だっけか。プロレベルじゃね?」

「……うん。全部の楽器の、演奏のレベルも高かった。普段、どんな練習してるんだろ」

 

 有咲とたえも互いに感想を言い合う。Roseliaの演奏に感銘を受けたのか、しみじみと頷いていた。

 

「……あ。ねぇ、あそこにいるのRoseliaの人達だよね?」

 

 沙綾が指差す方向を香澄たちは見る。

 そこには、あのステージで見せた姿とは一転。みんなで集まり、慰めている姿が見えた。

 

「……ごめん、みんな。肝心なとこでとちっちゃって……」

 

 茶髪の、活発そうなベーシストーー今井リサが、顔を抑える。

 嗚咽を抑えながらも、涙を流すその姿。どれだけ、このライブに本気だったかを伺える。

 

 ーー私も、いつか。こんな風に泣いたりするのかな。

 

 香澄は、そんな事を考えた。

 本気だからこそ、失敗して泣く。バンドに本気で向き合っているからこそ、夢に向かって突き進んでいるからこそ、悔しくて泣く。嬉しくて泣く。

 そんな、そんな事を、このPoppin’Partyでできるのかな……。香澄は、改めてポピパの面々を後ろから見つめていた。

 

「……こんなとこで落ち込んでんじゃないよ」

「……オーナー」

 

 いつの間にか現れていたオーナーが、慰めるRoseliaに声をかける。

いつもの険しい表情から一転。オーナーは、少しだけ温和な表情を見せていた。

 

「……ライブは、完璧な演奏が100点な訳じゃない。客は、どうしてライブハウスまで歌を聞きに来ると思う?」

「……それは、その」

 

 面と向かって聞かれたリサが、回答が出ずに言葉に詰まる。明確な回答が出ないのだろう。その話を聞いていた香澄も、思考をめぐらせたがこれといった答えが出ずにいた。

 その様子を見たオーナーは、リサに向かって微笑む。

 

「今この瞬間。あんた達がどんなステージをやりきってくれるか、楽しみに来てるんだ。……あんた達、やり切ったんだろ?」

「っ! ……はい」

「だったら、胸張って帰んな」

 

 鼻をすすりながら、涙を流しながらリサはハッキリと返事をした。

 そんなリサが落ち着いたのを見計らい、友希那は短くお礼を言って部屋から出ていく。

 

「……なんか、オーナーって先生みたいだね」

「うん。バンドの事、好きだって言うのがわかるな」

 

 ガールズバンドの聖地とも言われているこの「SPACE」。涙もあり、笑いもあり、バンドが大好きな、ちょっと厳しめのオーナーが経営しているライブハウス。

 そこで繰り広げられる演奏。全力でやりきること。……全力でやりきるって言う事は、いまいちよく分かっていない香澄だったが、これだけは確実に理解していた。

 

「……私、ここでライブしたいな」

 

 呟く香澄。かなり小さな声で呟かれたものだったが、なんと運のいいことか。その言葉はPoppin’Partyの全員まで伝わりきった。

 

「私も! 見てるだけじゃなくて、ここで演奏してみたい!」

「うんうん! やろ! ライブ!」

 

 りみと二人で盛り上がる。その一方で、たえはスマホでカレンダーを指さし言った。

 

「次のオーディション、一番早くて来週だけど……どうする?」

「出よう!」

 

 間髪入れずに、香澄が声を上げる。一拍遅れて、有咲が驚いたように声を上げる。

 

「はぁ!? 何も準備してないだろ!」

「練習すれば、大丈夫!」

「練習って……」

 

 有咲と香澄が言い合う。「できる!」「できねぇ!」と、何度も何度も掛け合っていた。言い合うふたりを見つめながら、何かを思ったようにりみは、

 

「……今日から毎日練習しなきゃ!」

 

 手を握り、決意したように言った。

 勇気を出したりみを見て、有咲は溜息をつきながらーーちょっとだけ嬉しそうにして、

 

「ったく。しょうがねーな……」

 

 と、乗り気になったようだった。

 

「何だかんだ、のってあげるんだね」

 

 沙綾が有咲をからかう。ふんと鼻を鳴らし、恥ずかしそうにそっぽを向く有咲を見て、沙綾とたえとりみは暖かい目を向けながら微笑んだ。

 

 彼女らの様子を見て、なんだか暖かくなる香澄。自分の夢を共有してくれたような、バンドとして走り始めたような……そんなことを、感じ取っていた。

 

「よーし! みんなで頑張ろー!」

「「「おー!」」」

 

 香澄の号令に手を挙げながら、4人は掛け声に乗った。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。