☆☆☆☆☆
「……凄い」
圧巻。その一言に尽きた。
Glitter*Greenも、もちろんかっこよかった。あの時、この場所で、私を導いてくれたような音楽を、奏でていた。
けど、けれど。このRoseliaは、何かが違う。Glitter*Greenみたく楽しくやっている訳ではなく、頂点を目指しているような感じ。香澄は、そんな事を感じ取っていた。
「あのギターの人、花女うちの風紀委員の氷川先輩だよな。あれで、私達とひとつしか違わないなんて……」
有咲が感心している。正確性の塊と言えるようなその演奏、その影響は、ギター担当の2人だけではなくPoppin’Party全体にまで及んでいた。
「……ありがとう。次で、最後の曲よ」
青薔薇のマイクを握った、銀髪のボーカリスト。ーー湊友希那が、目を瞑ったまま言う。
「……『BLACK SHOUT』」
ーー鐘が鳴る。Roseliaの黒き咆哮が、白を真っ黒に染めていく。
香澄達は、その姿をただ口を開けて見ることしか出来なかった。
「……叶えたい夢! 勝ち取れ、今すぐにーーshout!」
夢を、勝ち取る。不安まみれの世の中のイロハ、誘惑に負けずに、未来を勝ち取って見せるという強い決意を感じる。
本当に、勝つためのバンド。そんなイメージを想起させるRoseliaに、Poppin’Partyはただただ圧倒されていった。
「うーん! ライブ、凄かった!」
「そうだね! お姉ちゃん達もかっこよかったけど、Roseliaの人達も凄かった!」
ライブ後。お客さんが帰ったのを見計らって、りみと感想を言い合う香澄。Glitter*Greenはいつもながら最高だったが、Roseliaという湊友希那さん率いるバンド。あの音楽が、耳から離れない香澄だった。
「ボーカルの人、凄かったな。湊さん……だっけか。プロレベルじゃね?」
「……うん。全部の楽器の、演奏のレベルも高かった。普段、どんな練習してるんだろ」
有咲とたえも互いに感想を言い合う。Roseliaの演奏に感銘を受けたのか、しみじみと頷いていた。
「……あ。ねぇ、あそこにいるのRoseliaの人達だよね?」
沙綾が指差す方向を香澄たちは見る。
そこには、あのステージで見せた姿とは一転。みんなで集まり、慰めている姿が見えた。
「……ごめん、みんな。肝心なとこでとちっちゃって……」
茶髪の、活発そうなベーシストーー今井リサが、顔を抑える。
嗚咽を抑えながらも、涙を流すその姿。どれだけ、このライブに本気だったかを伺える。
ーー私も、いつか。こんな風に泣いたりするのかな。
香澄は、そんな事を考えた。
本気だからこそ、失敗して泣く。バンドに本気で向き合っているからこそ、夢に向かって突き進んでいるからこそ、悔しくて泣く。嬉しくて泣く。
そんな、そんな事を、このPoppin’Partyでできるのかな……。香澄は、改めてポピパの面々を後ろから見つめていた。
「……こんなとこで落ち込んでんじゃないよ」
「……オーナー」
いつの間にか現れていたオーナーが、慰めるRoseliaに声をかける。
いつもの険しい表情から一転。オーナーは、少しだけ温和な表情を見せていた。
「……ライブは、完璧な演奏が100点な訳じゃない。客は、どうしてライブハウスまで歌を聞きに来ると思う?」
「……それは、その」
面と向かって聞かれたリサが、回答が出ずに言葉に詰まる。明確な回答が出ないのだろう。その話を聞いていた香澄も、思考をめぐらせたがこれといった答えが出ずにいた。
その様子を見たオーナーは、リサに向かって微笑む。
「今この瞬間。あんた達がどんなステージをやりきってくれるか、楽しみに来てるんだ。……あんた達、やり切ったんだろ?」
「っ! ……はい」
「だったら、胸張って帰んな」
鼻をすすりながら、涙を流しながらリサはハッキリと返事をした。
そんなリサが落ち着いたのを見計らい、友希那は短くお礼を言って部屋から出ていく。
「……なんか、オーナーって先生みたいだね」
「うん。バンドの事、好きだって言うのがわかるな」
ガールズバンドの聖地とも言われているこの「SPACE」。涙もあり、笑いもあり、バンドが大好きな、ちょっと厳しめのオーナーが経営しているライブハウス。
そこで繰り広げられる演奏。全力でやりきること。……全力でやりきるって言う事は、いまいちよく分かっていない香澄だったが、これだけは確実に理解していた。
「……私、ここでライブしたいな」
呟く香澄。かなり小さな声で呟かれたものだったが、なんと運のいいことか。その言葉はPoppin’Partyの全員まで伝わりきった。
「私も! 見てるだけじゃなくて、ここで演奏してみたい!」
「うんうん! やろ! ライブ!」
りみと二人で盛り上がる。その一方で、たえはスマホでカレンダーを指さし言った。
「次のオーディション、一番早くて来週だけど……どうする?」
「出よう!」
間髪入れずに、香澄が声を上げる。一拍遅れて、有咲が驚いたように声を上げる。
「はぁ!? 何も準備してないだろ!」
「練習すれば、大丈夫!」
「練習って……」
有咲と香澄が言い合う。「できる!」「できねぇ!」と、何度も何度も掛け合っていた。言い合うふたりを見つめながら、何かを思ったようにりみは、
「……今日から毎日練習しなきゃ!」
手を握り、決意したように言った。
勇気を出したりみを見て、有咲は溜息をつきながらーーちょっとだけ嬉しそうにして、
「ったく。しょうがねーな……」
と、乗り気になったようだった。
「何だかんだ、のってあげるんだね」
沙綾が有咲をからかう。ふんと鼻を鳴らし、恥ずかしそうにそっぽを向く有咲を見て、沙綾とたえとりみは暖かい目を向けながら微笑んだ。
彼女らの様子を見て、なんだか暖かくなる香澄。自分の夢を共有してくれたような、バンドとして走り始めたような……そんなことを、感じ取っていた。
「よーし! みんなで頑張ろー!」
「「「おー!」」」
香澄の号令に手を挙げながら、4人は掛け声に乗った。