遠い音楽   作:冴月

62 / 71
58

 

☆☆☆☆☆

 

 あれから、5人は練習を重ねた。場所こそ違うものの、CiRCLINGでオーディションを想定した楽曲を作ったり、練習したり。細かい所を自分たちのペースで詰めていく。

 緊張がなかなかほぐれない中、1週間みっちりと蔵とライブハウスで練習をした。

 

 そして、ついに。オーディション当日を迎える……。

 

 

 

 

 

「「……よろしくお願いします!」」

 

 高まる緊張感。自分の指先が震え出したのを、香澄は必死に抑えつけていた。

 目の前には、険しい表情をしたオーナーが1人。その眼光が痛くなるほど、Poppin’Partyには突き刺さっている。

 

「うぅ……緊張する……」

「あんなに練習したんだもん、大丈夫だよ!」

「変なとこでミスしないようにしねーと……」

「有咲、リラックスリラックス」

「うっ……逆に緊張してきた……」

「ま、まぁ。練習思い出していこ。……準備はいい?」

 

 沙綾がポピパに問いかける。ただならぬ緊張感の中、Poppin’Partyの面々は神妙な面持ちで頷いた。

 

「じゃあ、いくよ。……ワン、ツー、スリー、フォー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーー失敗した。あんなに気をつけてたのに……。

 ーー指、上手く動かなかった……。

 ーー練習ではちゃんと弾けてたのにな。

 ーー音、ズレてた。練習が足りなかったのかな。

 

 失敗した。

 直前まで気をつけていたこととか、ちょっと不安だったところとか。案の定と言ってしまっては、あんまりかもしれない。だが、有咲、りみ、たえ、沙綾の4人は自らの失敗をひしひしと感じていた。

 

「……やりきったと思うものは?」

 

 その問いに答えられない香澄だった。

 香澄自信がやりきったかと言うと、やりきったとは言えるかもしれない。音程を外してしまったところもあったが、今までで1番、この曲を楽しく歌えた。

 だが……キラキラドキドキはしていない。

 あの時、文化祭の時のようなドキドキ。星の鼓動は、この演奏では感じる事は出来なかった。

 

「ふん、ダメだね。うちのステージに立たせる訳にはいかない」

 

 何も答えない5人を見て、オーナーは残酷にも告げた。

 落ち込む4人の姿を見て、香澄は言い訳がましく声を上げる。

 

「……また挑戦します。受かるまで、何回でも!」

「……何回でも、ね。まぁ、頑張りな」

 

 少しだけ、目じりを和ませたオーナーだった。

 ーーしんみりとした空気に包まれている中。何かを読み取ったたえはオーナーに問う。

 

「あの、オーナー。何かあったんですか? いつもと様子が違うし、それに後半のスケジュールも……」

 

 真っ白。その言葉は、香澄にひとつの予感をさせた。

 ガールズバンドの聖地とも呼ばれる程の、「LIVE HOUSE SPACE」。そのスケジュールが、何も書かれていないということはーー。

 

「花園には言ってなかったね。……近いうちに、SPACEは閉めるよ」

 

 的中した。5人の驚く顔と、息を呑む音が合わさった。

 

「どうして、ですか……?」

 

 たえが戸惑いながらもオーナーに問う。オーナーは、目を瞑りながら何かを思い出すようにして言った。

 

「……私はもう、やりきったからだよ。残りの間、よろしく頼むよ。花園」

 

 そう言い残し、オーナーはスタジオから出ていった。

 放心したまま、取り残されるたえと4人。香澄は、SPACE閉店と、今のポピパに足りなかったもの。頭の中が、その2つに支配されていた。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。