遠い音楽   作:冴月

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☆☆☆☆

 

 

「……ふふ、ふふふっ。ここに花園ランドを建設するんだぁ。世界で1番幸せな瞬間を、少しでも沢山分かち合える楽園を作るんだ……」

「お、おたえちゃん戻ってきてー!」

 

 SPACEの閉店を告げられた後。香澄達は蔵へと戻り反省会をしようとしていた。

 ……が。そこに居たのは現実逃避をするたえと、それを何とかしてなだめようとするりみの姿であった。

 

「……なんだあれ」

「現実逃避、かな。SPACEが閉店しちゃうし……」

 

 有咲と沙綾が苦笑いをしながら言う。何とか、たえを現実に引き戻すことに成功したりみが一息つこうとする頃に、今まで黙っていた香澄が口を開く。

 

「……みんな。私、オーディション合格したい」

 

 いつもとは違った様子で言う。

 ノートに何かを書き連ねながら、香澄は言葉を続ける。

 

「多分、今日のライブは私の歌が先走っちゃったのが原因だと思うんだ。沙綾とりみりんのリズムをちゃんと聞いていれば、そんなこともなかっただろうし、有咲とおたえも無理に着いていってミスをすることもなかったと思う」

 

 ノートには、今日ミスをしてしまったところ。逆に良かったところ。そして、ミスをしないためにはどうするか、そこまでしっかりと記載されていた。

 

「私、頑張るから。だから、絶対合格したい!」

 

 語尾を強める。

 真剣な眼差しと、表情。香澄のその姿に感化され、たえ達はもその決意をしっかりと感じとった。

 

「……うん。まだやれること沢山あるし、まだ諦めたくないな」

「そうだね。まだ閉店まで時間もあるし、頑張ろ!」

 

 沙綾とりみが立ち上がる。互いに頷き合いながら、リズム隊の打ち合わせを開始する。

 

「私も、花園ランドは合格してからにするね」

「合格しても作らせねーし!」

 

 ギターを構えるたえに、ツッコミを入れる有咲。たえの言う「花園ランド」とやらを少しばかり見てみたい香澄だったが、それはそれ。香澄も、たえの元に駆け寄りギターの指導を受ける。

 

「……私も、足引っ張らないようにしねーと」

 

 携帯スマホに移した楽譜を譜面台に置き、読み込む有咲。気になるところにはマーカーを引いていき、しっかりと復習する。

 

 みんなで、ひとつの目標に向かって突き進んでいる感じ。暖かな幸せを感じながら、香澄も弦を弾いていく。

 

 

 

 

 

 そして、3日後の放課後。再び、SPACEのオーディションを受けた香澄達であったがーー。

 

「……足りないね、ダメだ」

「えっ……!」

 

 オーナーからの、不合格通知。ミスらしいミスをしなかった香澄達だったが、それでもまだ足りないという。

 ……いったい、何が足りなかったんだろう。静かに自分たちのライブを、香澄は思い返す。

 

「……あっ、香澄ちゃん! あれ見て!」

 

 りみが上の方を指さす。

 下を向いて、自分達のライブについて考えていた香澄はりみの指先をおった。

 

「……あ、あれって!」

「……CHiSPAだ。そっか、ナツたちも受けてたんだ」

 

 やや上の方にあったのは、オーディションの様子を映し出しているモニター。そこに映っていたのは、つい最近一緒にライブをしたCHiSPAであった。

 香澄たちがその演奏に見入っている中、沙綾はなんだか嬉しそうにモニターを見る。

 

「……やりきったかい?」

 

 オーナーが、一言だけ言葉を発する。ジリジリと、焼けるような視線を感じていた夏希だったが、自分自身の全力と、バンドとしての全力。その双方を実感していた。

 

「……はい! やれることは全部、やったつもりです!」

 

 ……沈黙の数秒間。オーナーと、CHiSPAとの視線が交差する。

 4人の表情と、眼差し。ふたつをしっかりと見定めていたオーナーは、少しだけ表情をやわらげた。

 

「合格だ。次のライブ、よろしく頼むよ」

「え……? あ、ありがとうございます!!」

 

 泣いて、笑って、抱きつきながら全員で嬉しがるCHiSPA。モニター越しでも伝わってくるその嬉々とした様子は、Poppin’Partyの面々を驚かせた。

 

「……何が足りなかったんだろう」

 

 驚きを早々に抑えたたえが、考え始める。

 

「演奏技術? ちゃんと返事できたから?……それとも曲が良かったのかな」

 

 色々な原因を考え始めるたえ。ポピパ達は何も言うことなく、ただその場で考え込んでしまった。

 

 

「……とりあえず、色々考えてみよ! 足りないとことか、もーっと色々!」

 

 暗い空気を吹き飛ばすかのように、香澄が声をかけた。その提案に乗ったポピパ、そのまま蔵に直行し、足りないところを次々とノートに書出していった。

 「成り上がりJump Out!」と題された香澄達の努力の結晶は、各メンバーの意見を次々と吸収していった。

 

「りみ、おたえ、香澄。もう少し沙綾の音を聞いてみないか? 自分の感覚だと、音ズレるし、マシになるかも」

「そうだね。……りみりん、私たちは特に合わせよう。私とりみりんがズレちゃうと、他の3人まで狂っちゃうし」

「うん! 沙綾ちゃんの音しっかり聞くね!」

「有咲。私のギター、走りすぎかな」

「いや、おたえはそのまんまでいいかも。リードギターだし、むしろ香澄を引っ張ってくれるかんじでいいかもな。……そうだ、香澄はボーカルもやってるんだし、香澄のパートを少しだけ弾けないか?」

「うん。大丈夫……香澄?」

 

 たえに呼ばれていた。だが、振り向かない香澄。自分のギターと楽譜を睨んだまま、たえの声がすり抜けてしまったかのように弾き続ける。返事することは無った。

 

「……おい。……香澄!」

「わぁ!?」

 

 大声を出した有咲。その声に驚いた香澄は、ついピックを落としてしまった。

 

「香澄ちゃん、随分集中してたみたいだけど大丈夫?」

「あんまり根詰めてやっても、煮詰まるだけだよ。……はい」

 

 沙綾がペットボトルのお茶を差し出してくる。沙綾の言う通り、少しばかり煮詰まっていた香澄は、お礼を言ってお茶を受け取った。

 ーーおいしい。沸騰した頭が、体内に落ちていく冷たいお茶によって冷めていく。

 

「香澄、あんまり無理すんなよな。オーディションはまだあるんだし」

 

 有咲がひとつの、甘納豆を香澄の口に詰め込んだ。

 納豆繋がりということだけあって、あまり食べないようにしていた甘納豆だか、適度に疲れた身体にはよく効く。甘さが、香澄の緊張を緩ませた。

 

 ふわーー。有咲が眠そうに欠伸をする。

 恥ずかしさからなのか、慣れていないからなのか。あまり、みんなの前で自分の気持ちを吐露することは無い有咲だったが、その心意は欠伸をしていてもわかる。

 

 有咲は真剣だ。ポピパが大好きだからこそ、一緒にあのステージに立ちたい。そういう感情が、有咲のキーボードを通して伝わってくる。

 有咲以外もそうだ。りみも、沙綾もたえも。本気だ。

 

 ーー失敗したらどうしようとかじゃない。聞いてくれる人に楽しいなって思って欲しい。楽しく弾けるようになるまで本気で駆け上がりたい!

 ーーもう、離したくない。みんなで立てるはずのあのステージに、ナツたちと同じステージに立ちたい!

 ーーポピパのみんなと一緒に奏でる音楽を、諦めたくない。100回でダメなら101回、それでも無理なら、1000回でも!

 

 それを感じとったからこそ、香澄も本気で向き合う。始めたばかりだとかは関係ない。それはただの言い訳だ。

 

「……今度こそ」

 

 諦めずに、走り続ける。私には、兎に角突き進むことしか出来ないんだからーー。そう思い、思いつくことをただひたすらにやっていく香澄。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……だが、

 

「……ダメだ。全然ダメだ。バンドとして、肝心な物が見えちゃえない」

「……はい」

 

 この、有様だ。

 何がいけないんだろう、何が足りなかったんだろう。ただ、ポピパが楽しいから、本気でこのステージに立ちたいってことじゃダメなのだろうか。なんで、なんで……なにが……。

 オーディションの失敗が4回目になろうと言う時。残酷にも、香澄は告げられる。

 

「……あんたが1番、何も見えちゃいない。よく考えるんだね」

 

 1番見えていない。その言葉が、香澄の頭の中で反芻する。

 見えていないーー? 何が見えていないのーー? 技術なのか、経験なのか、覚悟なのか……。

 香澄には、何も分からない。

 

「……今日は、練習止めとくか。蔵は開けとくから、自主練したいなら」

 

 それだけ言って、有咲は帰路に着く。

 特に声を上げることも、反対することもなく、自然に自分の帰路へと面々は着いていく。

 その日は、香澄も素直に帰宅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗闇の中、香澄は一人夜空を見上げていた。

 ーーいつの間にか、ハッキリと輝くようになっていた星空が、暗黒に飲まれて見えなくなっていく。一つ……二つ……三つ……四つ……。暗く、全てが見えなくなっていく……。

 永遠だと思われたこの音楽は息止めて。香澄を暗闇へと誘っていく。

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