遠い音楽   作:冴月

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 ライブ当日。香澄達は、オリジナルの衣装を身にまといステージに立つ。

 全員の耳には、イメージカラーの星型イヤリング。ポピパのお守りだった。

 

「もうすぐ出番だね! はぁ……、緊張してきた」

「イヴとか、はぐみとか見に来てるって。クラスの子も沢山いるよ!」

 

 りみが自らの手のひらに人の字を書いて飲み込んでいた。たえも、舞台袖から客席を覗いていて、なんだか落ち着かない様子だった。

 

「ナツ、いいライブしてる。私達も、負けないくらいのライブしないと……!」

「うっ、なんだかお腹痛くなってきた……」

 

 沙綾と有咲も落ち着いてなんかいない。しきりにCHiSPAのライブを見ていたり、有咲に至ってはお腹に手を当てていた。

 そんな面々。不思議と、自分でも驚くくらい落ち着いていた香澄は、

 

「……りみりん!」

「えっ? か、香澄ちゃん?」

 

 りみの手を取った。急な出来事に、りみは握られた手と香澄の顔とを交互に見ている。

「りみりん! ここまで来たら楽しんじゃおうよ! 失敗するとか考えないで、目一杯!」

 

 りみの手をキュッと握る。

 

「おたえ! 一緒に痺れるギターを弾いちゃお! 眩しくなるくらいに!」

 

 たえの手を取る。

 

「有咲! 大丈夫! 私達がいるもん、一緒に頑張ろ!」

 

 有咲の手を取る。

 

「さーや! 誰よりとか関係ないよ! 一緒にキラキラドキドキしちゃおう!」

 

 最後に、沙綾の手を取った。

 そんな風に励ましている中、CHiSPAのライブが終わる。軽く挨拶を済ませた香澄達は、全員の手を取り、円陣をする。

 

「いくよ……。せーのっ!」

 

「「「「ポピパ! ピポパ! ポピパパピポパ!!」」」」

 

 香澄達は、星を胸にしてステージ立つ。

 高まるボルテージの中。SPACEのライブ、その最後のトリを任せられたPoppin’Partyは、早速演奏を始める。

 

 曲名はーー"前へススメ!"

 私はひとりじゃない。めぐり会う日々が、今日ここで繋がったような気がした。飛び跳ねちゃいたいくらいに、ポピパが愛おしくなった。

 

「こんにちは! 私達ーー」

 

 "Poppin’Partyです!!"

 

 笑い合う。ただひたすらに、この夢のような時間が愛おしい。できることならば、夢ならば醒めないで欲しい。この、摩訶不思議な気分を、このパーティをいつまでも続けていたい。

 自己紹介を終え、香澄達は次の曲へと移る。

 

「……"夢見るsunflower"」

 

 まぶしい。眩しすぎる光を、向日葵のように手を広げ。皆に伝えたい。

ポピパに伝えたい。夢をもう忘れたりなんかしい。好きを忘れたりなんかしない。想いのまま、走り続けたい。

 

「ーーありがとうございました! 残念だけど、次が最後の曲です!」

 

 観客達から、残念そうな声が上がる。

 それもその筈。会場のボルテージは、かつてないほどに高まり続けていた。

 

「……今日、ここでライブできたことを、私は絶対忘れません! 何年経っても、何世紀経っても、ずーっと!」

 

 Poppin’Partyの、アニバーサリー。みんなで立っているこのステージが、かけがえのない思い出として繋がっていく。

 

「最後の曲……。"キラキラだとか夢だとか~Sing Girls!~」

 

 みんなで歌う。いつまでも、何処までも、果までも、何度でも、弾けて突き抜けて。未来へとドアを開けて、香澄達は歌い続ける。

 ふと、五人の星が夜空に浮かぶ。目の前に落ちていた奇跡を一つづつ拾い集めて、ここまで来たのだ。

 けど、歌はいつか終わりが来る。惜しまれつつも、香澄達は退場しなければならない。時間は、有限だ。

 

「ーーありがとうございました! Poppin’Partyでした!」

 

 ステージ裏へと戻る。終わらないでと聞こえてくるも、それに答えることは出来ない。

 楽屋へと戻っていく香澄達。だがその際にも。観客達は帰る様子を見せず、歓声が高まり続けていく。

 

「……はぁ、全く。あんた達、もう一曲やれるかい?」

「えっ……」

 

 ポピパに向けて、困ったような表情を向けるオーナー。

 

「アンコール、聞こえるだろ。……あたしはね、客の期待を裏切りたくないんだ」

 

 本当に困り果てたように……けれど、どこかそうなったことを嬉しそうに。オーナーは、香澄に依頼をする。

 

「……はいっ!」

 

 香澄達は、再びステージに立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 香澄たちが再びステージに現れた時、観客達の声は最高潮を再び迎えた。

 ほかのメンバーが楽器を再び準備するのを待っている中、香澄はマイクを手に取る。

 

「アンコール、ありがとうございます!」

 

 オーディエンスが、これでもかと言うほど反応をする。その心地いい声が収まるのを待ち、香澄は口を開いた。

 

「……実は私、ちょっと前までスランプになりかけてたんです、私の勝手な行動で、勝手な考えでーーこのPoppin’Partyを勝手に無くしかけてたんです」

 

 静かに聞いている。沙綾、たえ、有咲、りみも、準備は終えていたものの黙ったまま聞いていた。

 

「でも! 仲間達は、声をかけてくれた! 私を見て助けてくれた! 夢を、共有してくれた! ……また、歌うことが出来た!」

 

「SPACEも一緒だよ! 今日でなくなっちゃうけど、これは終わりなんかじゃない。ーーだから、これから歌うのは……新しい"はじまり"の歌! 最高で、最強で! 無敵な仲間たちとの音楽(キズナ)の物語!」

 

 SPACEは終わってしまうけれど、バンドが、音楽が、歌が終わるわけじゃない。むしろこれは始まりなのだ。みんなの夢は、環状線を回る電車の如く回っていき、同じ景色を見せていく。

 それを、香澄は伝えたかった。

 

「私たちの新しい始まりを、聞いて下さい! "ときめきエクスペリエンス!"」

 

 固く、閉ざされていた扉。それを開け放つ鍵となったのは、あの日感じた「キラメキ」と、あの瞬間聞こえた「ヒラメキ」。そして、今感じている「トキメキ」。

 そんな中で、香澄はぼんやりと自分のやりたい事を見つけ始めていた。

 

 ーーこの、五人で奏でる音楽(キズナ)を、伝えたい。溢れる意志と勇気を歌声に変えて、私は歌いたい!

 

 ……アンコールの曲が終わり、退場していく中。香澄は考えていた。

 この世界は1人じゃないってこと。SPACEのオーディションに合格するのに、足りなかった「見えないもの」。この世界は一人じゃないよって、手を差し伸べてくれるような、そんな曲を私はみんなに届けたい。

 

 曲名は……うん。あの言葉が丁度いい。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーLight Delight。

 

 香澄は、楽屋のノートにひっそりとそれを書き加えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 終演後、メンバーから少し遅れてSPACEを出る。

 少し遅れだからこそ、電柱の影でこちらを見ている少女の姿を、香澄は見つけた。

 香澄がその姿に首を傾げていると、シュシュを付けた少女が電柱から離れ、香澄に近づいてきた。

 

「あの……Poppin’Partyさん! 楽しくなるようなステージを、キラキラで素敵な演奏を、ありがとうございました!」

 

 明確に伝えられる感想。香澄が何となく、伝えたかった事が伝わったかのようだった。

 なんとも言えない嬉しさに、香澄は身体が震える。

 

「……えへへ、ありがとう」

 

 ーー伝わった! 私の届けたいことが、まだちょっとだけど伝わった!

 

 五人の音楽(キズナ)が、伝わったのだ。香澄達の思いが伝わり、受け継がれ、循環するきっかけとなるライブに、この時始めてなれたのだ。

 ありったけを詰め込んだラブソングを、世界を勇気づけるラブソングを、今なら作れるような気がした。

 

「おーい、香澄ー! そろそろ行くぞー!」

 

 思いに耽っていると、有咲から声がかかった。何でも、この後打ち上げをやるらしく、泊まりで有咲のうちに集合だという。これは遅れてられない。

 

「はーい! ーーそれじゃあ、またね!」

 

 告げてくれた少女に手を振り。香澄は、ポピパの元へ走り出した。

 




これにて、「遠い音楽」は完全完結です。
ご愛読、ありがとうございました。
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