これもなんかの運命かと思いまして。
記念投稿です。
I’m Never Satisfied.
─────まだまだ、足りなかった。もっともっと、感じていたかった。
もっと、弾きたい、歌いたい、奏でたし、伝えたい。
それは、いつからか彼女の心に燻っていた。物足りなさからなる小さな火種は、日に日に大きくなっていき。火種は灯火になって、灯火はほの暗い青い炎になった。
暗闇の中、彼女の中でめらめらと、ゆらゆらと燃え上がり。いつの日か、世界を真っ赤に燃やし尽くしそうな程に広がる可能性を秘めていた。マゼラン銀河に届きそうな炎だった。
拡大と収集を繰り返すそれは、拡がるその時を待っている。そこら辺の小石みたいな言葉なのか、星の光を束ねたような1つの言葉なのか。彼女の炎は、広がるその時を今か今かと待ち望んでいる──。
日数にして、約200日と…… あとどのくらいだろう?
卒業を控えた、高校三年生の戸山香澄。猫耳みたいな星型の髪型が特徴で、ガールズバンド"Poppin'Party"のギター&ボーカル。最上級生になっても、持ち前の "考えるよりも、動く!" というのは健在ではあったが、今回ばかりは動く前にカレンダーと睨めっこしていた。
「むぅ……」
教室の壁に刺された画鋲、そこに掛けられた三連カレンダーを見て、香澄は無意識に、眉間に皺を寄せて思考する。最近、有咲やりみに勉強を教えてもらっていることや、ライブハウス"RiNG"でバイトを始めたことで、多少は ”考えてから、動く!" ことを心掛けている香澄。今回は、思わずうなり声が出てしまう程に考えているようだ。
そんな香澄の様子を後方から見て、怪訝な表情をする人が1人。
「香澄、何やってんだ?」
少し巻いた金髪のツインテールを揺らし、声をかけるのは市ヶ谷有咲。香澄と同じバンドの、Poppin'Partyのメンバーであり、キーボーディストだ。
いつものように腕を組んでいる。何やらカレンダーを睨んでいる香澄を見て、「また、なにか企んでんな……」と、これから起こるであろう未来に少々不安を覚えていた。
声を掛けると、香澄は有咲の方へ向き直る。両手で指を折り、なにかの数を数えているようだった。
「あと、何回ライブできるかなーって、考えてたんだよ!」
「後……? あぁ、卒業迄にってことか」
「うん! 勉強もあるし、試験もあるし。色々大変な事沢山あるけど、やっぱりポピパでライブもしたいし!」
「ふーん……」
最近は、有咲も色々と忙しい。この花咲川女子学園の副会長を務めている有咲は、放課後のかなり遅い時間まで学校に残り、生徒会長である奥沢さんと共に活動をしている。
結構な裁量を生徒会に任されている事もあり、1回で有咲と会ったと思ったら、数分後には屋上で会ったり。放課後の練習の為に有咲の蔵へ向かうと、何故か既に有咲が座って楽譜を読んでいたりと、随分と忙しそうにしている。
香澄の言わんとした意図に気づき、納得したように頷くと、有咲もカレンダーを見つめた。ペラペラと、数ヶ月分のページをゆっくり捲った。
「言われて気づいたけど、確かにあんまりやれないかもな」
「でしょ! だからこそ、やりたいんだよ! これからどんどん時間が無くなってくるし……」
有咲ぁー。と、香澄は悲しそうに有咲の腕にしがみつく。有咲は何となく、耳をしょんぼりと畳んだ猫のように見えた。
家に居るザンジとか、バルにするように。思わず頭を手に乗せ、少しだけ撫でる。やっぱり猫みたいに、香澄が「えへへー」と、随分間延びした声をあげて、ぐりぐりと頭を押付けてきた。
普段の忙しなさから、だんだんと離れていくようだった。二人の間に、とてもゆったりとした時が流れていった。休み時間特有の、ゴキゲンな喧騒から。非日常へと、解き放たれたみたいだった。星空の海で、ゆっくりゆったり泳いでるみたいだった。
「……うっし。今日は皆で練習する日だし、蔵行ったら相談してみるか」
「うん!」
若干の名残惜しさを胸に秘め、有咲は手を離す。元気よく返事をする香澄に、有咲は若干目尻を綻ばせる。
少しの温もりを心に残したまま、二人は日常へと戻っていく。五限目と六限目との間の時間。ちょうど、睡眠欲がピークになるタイミングで、次の授業は現代文だ。
有咲が授業の準備をもくもくとしていると、不意に隣の席から声がかかった。
「あ、ありさぁ」
「ん?」
「……教科書貸して」
「……はぁ」
日常は、まだまだ続く。