遠い音楽   作:冴月

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走り出した、最高の音楽(ユメ)。


6

     ☆☆

 

「~~ッ! ストップストオオオオップ!」

 

 その声で、香澄は我に返った。

 正気に戻った香澄は、キョトンとした表情で金髪の子を見る。

 叫んだ本人は、ツインテールを揺らしながら息を荒くしていた。

 

「お前! それ一応売り物なんだからな!!」

「あ、そうだった」

「はあーっ……で、どうするんだ?」

「どうするって?」

「そのギター。ランダムスターっていうんだけど」

 

 この星のギター、ランダムスターというらしい。真っ赤で、きらきらして、星形のボディの中に、星が散りばめられたこのギター。じつにらしい名前だった。

 

「買う?」

「売ってくれるの⁉」

「そりゃあ、うち質屋だし」

「……いくらですか?」

「んー……あんた何歳?」

「15歳!!」

「じゃあ30万とんで15円」

「さんじゅ⁉」

 

 あまりの金額に噛んでしまった。三十万なんて、高校生かわバイトしていても払えるかどうか……。それ以前に、香澄はアルバイトをしていなかった為望みはかなり薄かった。

 

「た、高い……。もう少しどうにかならないかなーなんて」

「はあ? うちは質屋だぞ。簡単に値下げなんてしないぞ」

「で、ですよねー……」

 

 30万かあ……。と、何度も反芻してしまう。

 バイトをしていてもしていなくとも、高校生にとって、30万という金額ははかなり厳しい。

 けれど、だけど。香澄にとってはそれは諦める理由にはなり得なかった。

 

 

 

 

 ーーあのギターを弾いた時。聞こえたホシノコドウは、けっして間違いなんかじゃないから。

 

 

 

 

 なんとしてでもこの星を手に入れたい。この出逢えた運命を、物にしたい。香澄は、たった今、星への決意を胸にした。

 

「あ、あの!」

 

 そこで香澄は、一つ提案をしてみた。

 

「いつか……いつか必ず、この子を買うので! 取っといてくれますか!」

「は、はあ!?」

 

 勝手かもしれないが、それほど欲しいのだ。香澄にとって、ひとつの希望でもあるのだ。

 女の子は反発的な反応を見せるも、何か思うところがあるのか、考えた様子を見せた。

 うーんと、うーんとひたすら唸り、口を開く。  

 

「……あんまり長くは置いてられない。すでにネットオークションに出しちゃってるからな」

「そ、そうですか……」

「でも」

「?」

「3万と515円。オークションのキャンセル料と、15歳だから。その値段で売ってやる」

「ほんとですか!?」

 

 信じられなかった。びっくりした。願ってもない幸運だった。あれだけ悩んでいたはずなのに、いきなり値段が下がるなんて……。

 

「……私、市ヶ谷有咲」

 

 女の子がいきなり自己紹介を始めた。

   

「え?」

「あんたの名前! 教えてくれれば、それでいい」

 

 ……? なんだかよくわからなかった。頭に疑問符がたくさん湧くが、とりあえず脇に置いておく。

 

「私、戸山香澄です!」

「15歳なんだろ? 私も15だからさ、その……」

「そうなんだ! よろしくね。有咲!」

「ッ⁉ お、おう……」

 

 照れたようにそっぽを向く。心なしか、有咲の頬が若干赤くなっているような気がした。

 

 

     ☆☆

 

 あの後、直ぐに遅くなってしまうからと言って香澄は有咲と別れた心なしか有咲の顔がまだ赤かったような気もするが、それは暗がりでよく見えなかったからだろうと香澄は自己完結している。

 

 自宅の最寄り駅に着く頃には、もう既に夜が降りてきていた。電灯の灯りがつき、街を歩くのは仕事終わりの大人達。その間を、香澄はすり抜けるようにして自宅へと向かう。

 自宅に入ると、いつもより帰りの遅い香澄を心配した母親が駆け寄ってきた。いつもより少しキツめに注意されたものの、香澄がキラキラドキドキする物を見つけることができたというと、少し微妙な表情を浮かべていた。

安心と心配な表情が入り交じった様子。しかし、最終的には陽だまりような笑顔になり、

 

「やるなら頑張りなさいよ」

 

 と、ギターの足りない分のお金を出してくれたのだった。親孝行をちゃんとしなきゃなと、改めて感じた香澄である。

 

 妹の明日香からも「ちょっと心配してたんだー。なんか元気なさそうだったから」という言葉をいただいてしまった。

 あまりの姉思いな妹に、香澄はついつい抱き着いて撫でてしまったが、恥ずかしそうにもがきすぐ部屋に戻ってしまった。少し、残念な香澄だった。

 そして次の日。学校をそわそわと過ごした香澄は、お母さんが出してくれたお金と、自身のお小遣いをもって流星堂に向かう。

 再び星をたどり、流星堂へと辿る。ちょっと古くなっている呼び鈴を押して、香澄は有咲を待った。

 ピンポーンという音の後に、「はーい」と有咲とは違う声が聞こえる。それもそのはず。ドアから出てきたのは、割烹着を着た優しそうなおばあさんだった。

 

「はい、はい。いらっしゃい。……あら? 昨日来てた子よね?」

「はい! 有咲とおしゃべりしてました!」

「あら、そうなのね。どうぞ上がって頂戴」

「お邪魔します!」

 

 やけに嬉しそうな表情を浮かべるおばあさんに見送られ、家に上がる。有咲のお家は、古くからあるような伝統的な日本の家という感じだった。畳のイグサのいい匂いがほのかに漂っていて、居心地の良さを感じた。

 

「戸山さん」

 

 奥からから有咲が出てきた。昨日とは違って、白いエプロンを身に着けている。

 

「有咲! 昨日ぶりだね!」

「お、おう。そうだな……」

 

 照れたように顔をそらす有咲。なんでだろうか。

 

「有咲、どうかした?」

「な、なんでもねぇ! ……それより、連絡通り持ってきたんだろうな?」

「うん! はい!」

 

 香澄は、茶封筒に入れた30,515円を渡す。有咲はひーふーみーとお金を数え、エプロンのポケットにしまった。

 

「毎度あり。それじゃあ着いてきてくれ」

 

 玄関を出て、質屋に……ではなく、その近くにあった倉庫のようなところへ向かう。

 ポケットから鍵を取り出し、ガチャリと鍵を回す。重たそうな扉を開けると、中にはダンボールの山、山、山……。そして紙束と、なんだか色々な物がごちゃごちゃとしていた。空間は少し埃っぽく、香澄はクシャミがでそうになり鼻をひくひくとさせた。

 

「ここだ」

 

 クシャミを抑えながら有咲の示す先を見る。床に、古ぼけた地下室への入口が鍵穴と共に存在していた。

 有咲は、鍵束のなかでも1番古そうな鍵で穴を回し、入口を開けた。

 なんだか、秘密基地に突入するみたいで、香澄は1人、ワクワクしていた。

 

「……さて。それじゃあご対面だな」

 

 明かりをつけた。

 

 

 

 そこには、ギタースタンドに立てられた、真紅のランダムスター。ガラスに輝きが反射しているせいか、昨日より綺麗になっている気がした。

 

 ……1層ドキドキが止まらない。これから、この子が、私のものになるのだ。好きに掻き鳴らして、ポーズを決めて。世界を勇気づけるLove songを叫ぶことだってできる。

 武者震いが止まらない。有咲に促され、香澄は慣れない手つきでギターのストラップを首にかける。震える手で、溢れる想いを少しだけ表に出しつつ、ギターのボディに触れて、

 

「ーーこれから宜しくね」

 

 ポツリ、そんな事を呟いた。

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