遠い音楽   作:冴月

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記念投稿Part2です。


I’ll Be Not Satisfied.

 香澄と有咲は、二人仲良く練習場所へ向かう。普段ならなんて事ない距離でも、学校から有咲の蔵(ドリーム・ガレージ)へ行く最中に汗だくになってしまった二人。蔵に着くやいなやエアコンの温度を限界まで下げて、冷房最強設定で過ごしていた。

 やはり、エアコンは最強の家電かもしれない。暖かくもできるし、涼しくもできる。真昼の暑さを引き摺る真夏日の夕方でも、こうして猫を愛でることが出来る。

 

「はぁ~……。極楽、極楽……」

 

 まるで、湯船に浸かっているかのような感想を口にする香澄。ソファに全力でもたれかかっており、全力で脱力して座っている。膝上には、ザンジが香箱座りで鎮座していた。

 

「香澄、なんか飲むか?」

「飲む!」

「ん。わかった」

 

 膝上に乗っていたバルを抱っこして避け、有咲は蔵を上がっていった。

 

 

 

 エアコンの穏やかな風音だけが、部屋の中を満たす。緩やかな風が、香澄を吹き抜ける。手持ち無沙汰になった香澄は、何となく手癖でザンジを撫でる。

 温もりを掌で感じながら、香澄は部屋を見渡した。

 

 香澄、たえ、りみの楽器スタンドに、有咲のキーボード。そして、沙綾のドラムセット。いつも皆で集まって、あの場所で練習をして、演奏をして。そして、ライブをした。皆の荷物も増えていって、嬉しい事に、随分狭く感じるようになった。

 今でこそ5人だけど、最初は有咲と2人だけだった。蔵の中も色々な物で埋まっていたし、あるのはソファ位だった。それでも、当時は広く感じていた。

 

 なんとなく、昔を思い出したくなった。香澄はスマホを取りだし、アルバムアプリを起動。ちょうど、花咲川女子学園に入学したくらいから、写真を見ていく。

 

 赤い、星型のランダムスター。有咲と私のツーショット。おたえとギターの練習をしている姿。商店街ライブで、4人で撃ち抜くポーズで決めた写真。学園祭ライブで、演奏する私達(Poppin'Party)。最後の最後。"SPACE"でライブをして、円陣を組むPoppin'Party。写真を見ると、あの頃の情景が未だ鮮明に思い出す。ポピパの思い出達は色褪せないままだ。色褪せないままだから、今の私へと繋がっていくようだった。

 

 

 師匠として、おたえを迎えた。おたえの路上ライブを見て心を打たれ、思わず申し込んだがおたえは快く承諾。有咲の蔵で練習が始まった。

 循環する三つの協和音(スリーコード)を学び、トゥインクル・スターダスト(きらきら星)を歌う。幼い頃、星空の元。優しく、雄大に瞬く星界の下で、両手を広げ。心行くまで、いつまでも、どこまでも。終わらない永遠を祈るように歌った。星の鼓動(スタービート)を感じたあの日を、再び思い出した。

 

 あの日を思い出したまま、ライブハウス"SPACE"で急遽ライブをした。Glitter*Greenが乗った飛行機が遅れてしまい、ライブに間に合わないと言った時の咄嗟の判断だった。

 "(ネガイ)を打ち抜ける曲"。夢を夢で終わらせない為の曲。Yes! BanG_Dream!(奇跡の曲)を歌い上げる。

 そして、Glitter*Greenは間に合った。ゆりさん達と、お客さん。そして、りみりんの夢を、壊さず撃ち抜くことが出来た。

 

 そして、商店街でのライブ。大成功だった。キラキラドキドキは、鳴り止まなかった。皆、星の瞬きのように輝いて見えた。1音弾く度、ひとつになっていく気がした。

 

 学園祭。Poppin'Party(私達)結成の時。沙綾と、私と。有咲と、おたえとりみりんと、決意と覚悟を決めた日。"私達は、いつまでも。止まらない音楽(キズナ)を奏で続ける"と、心に決めた日。

 

 "SPACE"でのライブ。大変だった、オーディション。大切なものを見失った。一人で突っ走って、皆が見えなくなっていた。黒い曇天でも、闇が広がる深夜でも、いつだって空は晴れ渡っているということ。星は輝いて、瞬いていること。

 見えなかったものが、見えるようになった瞬間だった。

 

 

 そんな思い出達が蘇る。写真を通じて、ときめきが溢れた日が蘇る。そんな愛おしい記憶のカケラ達。

 一枚捲る事に、香澄たちPoppin'Partyが形作られていくようだった。時々取り出して、確かめてみて。あの日始まった事、その全てをまた思い出す。

 

 思い出して、取り出して、確かめて、香澄は思った。もしかすると……、もしかすると。これ以上の、とびきりの1枚は、まだまだこの先にあるんじゃないだろうか。まだ撮ってない、撮ったことのない最高の一枚は、未来にあるんじゃないだろうか──。

 過去と未来が交差するその一瞬。美しくも優しいような物語。音楽(キズナ)と、星の鼓動(スタービート)。そんな奇跡(ミラクル)。完璧な1日。一瞬、一秒。この日の為に、今迄の自分があったと思えるような、ミラクルな1日。

 

 思い出は、そんな日に向かう為の、切符みたいなものなのかもしれない。みんなと一緒に行ける、希望行きの電車なのかもしれない。

 

 

 香澄は今日。"あと何回ライブができるかな"と考えていた。けど、けれど、それはちょっと違うように思えてきた。

 あと何回とか、どこかで終わりがあるとか、そういうことじゃない。一瞬を重ねていって、一生にする。永遠になっていく……。

 

 まだまだ、足りなかった。みんなが大好きだから、きっと終わらないと思った。いつまでだってこの青春は終わらないと思った。終わらせたくないと思った。手を繋いで輪を描きながら、いつか、世界のどこよりも眩しい場所(エルドラド)に着くような──。私達で環を描いて、黄金のらせんが描かれるような──。ぐるぐる回っていく、すべり台(ヘルター・スケルター)みたいに、ずっと、ずっと──。

 

「ほら、麦茶。……香澄?」

「ふぇ!? あ、ありがとう!」

 

 不意に話しかけられ、思考の海から浮上した香澄だった。いつの間にか戻ってきていた有咲に驚いたことで、思わず変な声を上げてしまう。有咲は、不思議そうな顔をしてこちらを見ていたが、何も無かったかのように、またソファへ座った。

 

 絡まった思考をより透明にするように、香澄は用意してくれた麦茶を飲む。

 一回で飲み干した麦茶のコップから、 透き通った氷がカランと、再開を伝える起動音を鳴らした。

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