遠い音楽   作:冴月

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初めての高鳴り。叫ぶように胸を叩く鼓動。いつまでも冷めない「恋」をしたみたいだった。


8

「ガールズバンドの聖地ねぇ……」

 

 香澄がドリンクのメニューと睨めっこしている中、有咲がそんなことを呟いていた。

 聖地、と言うくらいなのだからとても有名な所なのかなぁ……と、香澄はメロンソーダを頼みながら考えてみる。

 

「ふーん。この、結構有名みたいだな。……知らないバンドばっかりだけど」

 

 有咲は、スマホと睨めっこして、SPACEの評価を下していた。ちなみに、有咲の飲み物はほうじ茶だった。

 

 2人でドリンクを受け取り、にぎやかな扉を開けて中へと躍りでる。

 中は以外とこじんまりとした空間だった。天井には、大小複数のライトとスピーカーが所せましとぶら下がっており既にいくつかのライトが5色に光っていた。

 正面は舞台になっていて、香澄達の身長よりも大きいスピーカーが両端に堂々と置かれている。ギター、ベース、ドラムとキーボードが、舞台には既に設置されていた。

 舞台の前方には既に沢山の人がいた。前に入ることができないと察した香澄達は、後方ながらも全体を見渡すことのできる位置を陣取ることにした。

 

「なんか、すごいね!」

 

 ワクワクする! 香澄はあたりを見回した。ペンライトを様々な色に点灯させている人、楽しそうに談笑している人……みんな笑顔だった。

 そんな様子を見ている時。

 

 バンッ!

 

 

 照明が一気に落とされた。真っ暗な空間だったのも束の間、紫色の照明が天井からステージのみを照らす。黄色い歓声が上がり、会場のテンションは一気に最高潮に達していた。

 ステージ脇から、衣装を身にまとった四人組が登場する。黄緑色を基調にした、レースのドレス。一人一人、細かい部分の装飾が異なっており、それぞれの個性を感じられるもの。

 四人が、お客さんたちに手を振る。なんだがうれしくなってしまい、香澄も一緒になって歓声を浴びながらぶんぶんと振り返した。

 

「……Glitter*Green、っていうんだって、このバンド」

「そういう名前なんだ!」

 

 緑を基調にした、このバンドらしい名前だと思った。

 四人が自分たちの位置についたようだ。中央の人が、他の三人に目配せをして、マイクを持つ。

 

「……スペース! 盛り上がる準備はできてるー⁉」

 

 中央のスタンドマイクの前。黒髪で、毛先にウェーブがかかった女性が、お客さん達をあおる。

 それに呼応して、「イエーイ!!」と皆叫び返した。黄緑色に光るペンライトを高く上げ、左右に振る。

 キラキラと輝くペンライト、ドキドキと響くマイク。

 その光景に、香澄は魅了されていた。

 

 

「――OK、それじゃあさっそくいくよ! ……"Don't be afraid!"」

 

 きらりと、楽器たちが光ったような気がした。

 

   

 ――ギターがかき鳴らされる。リズミカルに弾かれたそれは、今まで聞いた音のどれよりもきれいだった。

 曲の中に、キーボード、ドラムが合流する。最初一つだった「音」は、パズルのピースのように合わさり、「音楽」になっていた。

 ボーカルの歌が始まる。楽器の熱量、音響にも劣らない、まっすぐした歌声。歌で、会場を魅了していた。 

 

「すごい……すごいすごいすごい!!」

 

 それしか、言葉が出なかった。

 

 歌う声一つ一つ。ベースの指捌き。ドラムの親に響く音。キーボードの高らかな音色。そのすべてが楽しそうで、キラキラで、ドキドキで……。

 

 

 

 香澄は、確かにに星の鼓動(ホシノコドウ)を聞いていた。

 

 

 

 ーー脳裏に、一つの夢が浮かび上がる。

 それはまだ遠いけど、いつか現実になる。何故か、そう確信できる夢。

 まだ見ぬ仲間達と、キラキラなバンドをする夢。5人で、最高を。その手で、掴みとる夢。

 

 

 

 

 その夢を、私は――――撃ち抜きたい!!

 

 

 

「有咲!」

 

 有咲の方を向く。頬をわずかに紅潮させ、キラキラの目でライブを見ていた。

 私に話しかけられたことで、はっと、あわてたように我に返る。

 

「何!? なんて言ってるか聞こえない!」

 

 音楽が、周囲を包みむ。話してなんかいないで、私の思いを聞いてくれ……そういわんばかりに。

 

 

「バンド……バンドやろう! 二人で、一緒に夢を奏でよう!!」

 

 

 ハジケタ色の夢が、今見つかった。

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