大学受験を控えて、奉仕部は勉強部屋と化している。
三人はそれぞれの道を歩んで行くことになる。
私は恋心を抱いていた…。
彼は、目が腐っていて、ボッチを自称するクセにモテモテで、自分が大好きと言いながら自分が傷つくような行為で依頼を解決してきた。彼が傷つくのを見たくない…。でも、彼に頼ってしまっていた…。依存と言われても仕方ない…。そんな自分が嫌いだった…。
彼は言った…、『本物』が欲しいと…。そんなものは夢物語でおとぎ話だ。そんなことはわかっている。でも、彼と一緒に『本物』を追い求められたら…。
そんな想いを伝えられたら…。言葉にしなければ、伝わらない。言葉にしても伝えきれない。このまま、卒業して離ればなれになってしまうのか…。
由比ヶ浜さんは、受験勉強の息抜きで三浦さん達とカラオケだそうだ。息を抜きすぎなければよいが…。
今日は彼と二人きりの部活…。胸が高鳴る。
「う~す」
いつもの挨拶で彼が入ってきた。
「こんにちは、比企谷君」
いつもの挨拶を返す。
「由比ヶ浜は三浦達と息抜きでカラオケだとよ」
「由比ヶ浜さんから、連絡が来ているわ。息を抜きすぎなければよいのだけど…」
思わずため息をつく
「ふふっ」
「何が可笑しいのかしら?気持ちが悪い」
「いや、俺も聞いた時にそう思ったからよ」
「気持ち悪い。貴方と同じ思考をしたなんて、気持ち悪い」
「なんで、2回言ったの?大事なことなの?」
いけない、また悪態をついてしまった…。これでは、小学生と変わらない…。
彼が鞄から文庫本を取り出し読み始める。私も同じように本を読み始める。この時間は嫌いではない。
そろそろ一息入れようかしら…
「紅茶を淹れるわ」
「あのな、雪ノ下…」
彼が私に声をかけてくる。ドキッとする…。
その瞬間、ドアが開けられる。
「先輩!ヤバいです!」
せっかく、彼が声をかけてくれてのに、一色さんが来てしまった。
「ヤバくない、大丈夫、お前ならなんとか出来る、じゃあな」
「そんなこと言わないでください!」
一色さんに腕を掴まれ引っ張られる…。振りほどこうとすれば出来ると思うのだけど、彼は一色さんに弱い…。
「すまん、雪ノ下!ちょっと行ってくる」
仕方なく、彼を見送る。
すこし暗くなりはじめた空を見ながら彼を待つ。今日はもう少しだけ彼の顔を見たい。彼の声を聞きたい。そう思いながら、うたた寝をしてしまう…。
目を覚ますと、彼が私の方を見ていた。
「そうやって、寝ている私をいやらし目で見ていたのね、変態谷君」
胸の前で腕クロスさせて、胸を隠すポーズをしてみる。我ながら切なくなる行為だ。
「わ、悪いな、待たせちまったみたいで…」
「べ、別に貴方のことを待っていたわけではなくて、鞄が置いてあったから、取りに戻ってくるはずだから、鍵を閉めたら悪いと思って…」
素直に返事が出来ない…。
「そうか。それでも、ありがとうな」
「そう」
彼は素直にお礼を言ってくれた。素直になれない自分が恥ずかしくなって、うつむいてしまう。
「なぁ、雪ノ下」
「な、なにかしら?」
「遅くなったお詫びに、駅まで送らせてくれないか?」
「そ、そんな…」
とても、嬉しい申し出に、ドキドキしてしまう。
「外も暗くなりはじめてるし、俺じゃ頼りないかもしれんが…」
「そ、そこまて言うなら、送らせてあげるわ」
照れ隠しに、こんな言い方をしてしまう、私の悪いクセ…。
「では、鍵を返してくるから…」
「俺も行くよ」
職員室も一緒に行ってくれる。
「…」
顔が赤くなっているのがバレないように、そそくさと歩きだす。
職員室に着くと、平塚先生が待っていた。
「遅かったではないか」
「すいません、俺が生徒会に拉致されていたので」
「そうか。ご苦労だったな」
「では、失礼します」
二人で平塚先生に頭を下げる。
職員室を出る間際に呼び止められる。
「比企谷!」
「はい」
「外も暗くなり初めている。雪ノ下を送ってやってくれ」
「そのつもりです」
彼の返事に思わず赤面してしまう…。
下駄箱に着くと、あることを思い出した。
「比企谷君、貴方自転車ではないの?」
「あ~、パンクしちまってな」
「そう…。では、行きましょうか」
比企谷君の自転車は空気が読めるのかしら。そんなことを思いながら玄関を出る。
学校と駅との中間付近の公園にさしかかった時に声をかけられた。
「雪ノ下、ちょっと話したいことがあるんだが、付き合ってもらえるか?」
「少しなら…」
まだ彼と一緒に居られる…。
「ベンチで待っててくれないか。飲み物を買っていくから」
先にベンチに座り彼を待つ。
「悪いな。紅茶でよかったか?」
「えぇ。お金出すわ」
「話を聞いてもらうんだ。気にするな」
「そう」
お互いに缶を開け、一口飲む…。なんとも言えない時間が流れる。
私は彼とのこういう時間が好き。
「なあ、雪ノ下…」
「なにかしら?」
彼が空を見上げたまま、声を発する…。
「月が綺麗だな」
今夜は新月で月なんて出ていない。彼は言った何を言ってるのかしら?
「比企谷君、何を言ってるのかしら?今夜は新月で月なんか…」
私はこの言葉を思い出した。
こちらを見つめる彼の目は真剣で、吸い込まれそうになる。とても、彼らしい言葉で伝えてくれた。
彼が伝えてくれた言葉に返さなければ…
「そうね。私もそう思うわ」
彼は私に想いを伝えてくれた。私も彼に伝えたい。
「ねぇ、比企谷君」
「なんだ?」
「月が綺麗ですね」
「あぁ、そうだな」
あぁ、嬉しい…。彼の手に自分の手を重ねる。
伝えくれた想い…。伝えられた想い…。彼に吸い込まれていくような感覚…。そして、唇を重ねあう。
だいぶ遅くなってしまった…。
「行くか」
「えぇ」
二人でベンチから立ち上がり、歩き出す。
彼の手をしっかり繋ぎ、駅まで歩く。
もうこの手を離したくない。やっと繋がった想い。
愛しい彼の手…。卒業した後はどうなってしまうのだろう…。離れてしまうのだろうか。
今は考えるのはやめよう。これから、彼と話していけばいい。
愛する人と歩く、新月の夜…。
終