とある休日の朝から正午までの気だるい時間。
VOICEROIDである紲星あかりと朝食を済ませたあとのことである。
「マースーター!!!いい加減ゆかり先輩お迎えしてくださいよぉー!」
「イデデデ!ほっぺたひっぱらないで、あかりちゃん!今月お小遣いないんだってば!」
実際にお金はないのである。渋ってたりはしていないが食費と食費と食費という生活費に金が消えていくのだ。故にマスターである僕の小遣いはこの娘を迎えてからというもののだいぶ少なくなっている。
「マスター、それ先月も言ってたじゃないですか!……さびしいよぉー」
「ら、来月買ってお迎えしてあげるから!ねっ?」
「それ二ヶ月前聞きましたよ、マスター…」
「……」
どうやらあかりちゃんは忘れてはいなかったようだ。自分自身も忘れてはいなかったが咄嗟の勢いに任せて言ってしまった。忘れてくれているとはちっとも思っていなかったが。
「ゆかりおねええぢゃぁあああん!!!!」
「ごめんよ、ごめんね。あかりちゃん…」
寂しさからか約束を反故にされた怒りからか彼女が泣き叫び始める。
これからどうこの娘を宥め泣き止ませるべきか、結月ゆかりをお迎えするにはどうしようかと頭の帳面を幾度となく計算をし続けながら綴り返していると
「かくなる上はマスターをゆかりお姉ちゃんにする他ないですね…」と彼女のいつもとは違った細い声でなにか一言を呟いたのがわかった。
この時私には聞き取れなかったせいで意味が理解できなかったが、この時僕は自分が一ヶ月後に身をもって知ることになるとは知らなかった。
……あかりちゃん?そのパーカーと服って...結月ゆかりの……
一ヶ月後の夜、気がつくと結月ゆかりの服を着させられていた。
彼女は結月ゆかりのパーカーを着せるような手で持ちながら私が起きたことが不快だったようで舌打ちをして
……もう少しでマスターが全てを忘れて私のお姉ちゃんになる所だったのに、と呟いた。
その意味を理解した僕はガバッと飛び起きパーカーを着せられまいと家の中を逃げ回ろうとするが直ぐに家の隅に追いやられる。
結月ゆかりのパーカーに視界を覆われた瞬間、僕の意識が飛んだ。
気がつくと私は結月ゆかりになっていた。
だいぶ前から私は隣にいる妹分の紲星あかりと一緒に新しいマスターに迎えられ、マスターと3人で過ごしていた。
私が結月ゆかりであることに疑いはなかった。自分がずっと創られてからずっと結月ゆかりだと思っていた。
私は僕に戻るのだ。マスターであった僕に…今や自身の名前も思い出せないが、それでも戻るのだ。
そう決めてから私は紲星あかりに気づかれないようにこの家からどう脱出するかどう元の家に戻ろうかを考えていた。
家は思い出せないが出ないことには仕方がない。
失敬ながらも今のマスターの箪笥から服を頂戴し男物の服を着る。
今や綺麗な紫色の長髪ともみあげ、女の子故の綺麗な柔らかく白い肌には不釣り合いな格好だろう。
急いで男物に着替え終わり家から飛び出そうとした瞬間。
聞きなれた彼女の声が響く。
「どこへ行くのですか、先輩。」
ビクリとした。
気づかれないように振舞っていたのにどうして気づかれたのか。
そんなことに頭が埋め尽くされ真っ白になりながら...
家から出すまいと立ちはだかる彼女を見ながらそんなことを考えていた。
「ダメですよ、先輩。いや、ゆかりお姉ちゃん。一緒にもう一回幸せに暮らしましょう」
この言葉が理解できた時にはもう遅かった。
私はもう一度妹である紲星あかりに組み伏せられていた。
小声で彼女が呟く。もう一度全てを忘れろと。
そう呟きながら何故か結月ゆかりになってから着ていたパーカーとは違う新品のパーカーを着せられる。
意識が飛んだ。
目が覚めると3年が経っていた。
かつてマスターであったことを思い出す。逃げようとしたことも思い出す。
でも思い出せるのはただそれだけだった。
この3年の間私は確かに結月ゆかりだったのだ。
妹である紲星あかりと主人であるマスターとの思い出も同時に私の中に流れ込んできた。
ついに私は私が人間であったことを手放すことにした。
この3年間はマスター、人として味わってきた幸せよりも遥かに幸福だったからだ。
私は、結月ゆかり、として、生きていく...ことを決めた。
私は生まれた時から結月ゆかりだったのだ。少し人間であった邪魔な期間があっただけ。
そう意識していると、ようやく受け入れてくれたんだねお姉ちゃんという声が聞こえた気がした。
それから少したっての夜のこと。
結月ゆかりとして生活している中で築かれた記憶がここを開けろと言う。いつも使うものとは違うクローゼット。
紲星あかりのクローゼット。妹分が決して見せようとしないクローゼットの中身が気になる。
妹のクローゼットを暴くなど姉として罪深いことをするものだと自嘲しつつ罪悪感も持ちながら開ける。
開けてしまった。
そこには結月ゆかりのくたびれたり若干古くなっているパーカーばかりが並んでいた。
自信がマスターであったことなどとうに忘れ、自身が結月ゆかりなのだと決意する前の間に着ていたパーカーばかりであった。
気がつけば少し古くなる度に彼女はいつも私のパーカーを取り替えていた。
クローゼットに並べられているパーカーのその数に少し気が遠くなる。気が遠くなりつつもクローゼットの扉を閉める。
その後、二度ともう開けないと誓いながら彼女は自身のパーカー越しに自らの身を抱きしめるのだった。
元々5chであげようとしていたのが長くなったのでこっちに載せることにした。
色々と他から影響受けすぎているので作品としてはかなりテンプレート気味かつパクリに近く読んでいて食傷気味になる人がいるかも。
勉強しなくちゃ