成り代わりリンクのGrandOrder 外伝   作:文月葉月

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デスマウンテン

 

 その後、信用のおける者達を選んで親書を託し、大使としてゾーラの里へと送った私達は、続いてデスマウンテンにあるゴロン族の里へと向かった。

 常に溶岩を吐き出し続けるデスマウンテンは、宝石などの希少な鉱石が採れる場所として、ハイリア人からは非常に重要視されている地である。

 しかし、そこで採掘作業を行うには、地面に直に置いただけのものが燃え出してしまうという灼熱の環境が、ハイリア人にとってはあまりにも厳しすぎる。

 この環境に適応し、堅い岩盤を物ともしない剛力の持ち主でもあるゴロン族ならば、採掘作業自体は問題ない。

 けれども、彼らにとっての採掘作業は食糧である岩の確保が目的であり、彼ら曰く『不味い』らしい宝石は、ハイリア人に売れることが判明するまでは作業を邪魔する厄介ものでしかなかったそうだ。

 ……お互いに利しかない取引だった筈なのに、当時のハイリア人はどうしてそれでは満足出来なかったのだろう。

 燃えず薬のおかげで『熱い』が『暑い』で済んでいるけれど、それでも長居は無用とマスターバイクを急がせたデスマウンテンの登山道。

 思ったよりも随分と短く感じられたその道中で、私はずっと、そんな答えの出ないことを考え続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゾーラの里という前例から、多少素っ気なくされることを覚悟していた私達だけれど。

 予想に反して、ゴロン族は里を訪れたハイリア人に好意的だった。

 「ハイリア人なんて珍しいゴロね」と、笑いながら里へと迎えてくれた程で。

 族長の家も、尋ねれば普通に教えてくれて……首を傾げながら訪れた族長の下で、その理由を知ることが出来た。

 

 大らかで豪快で、細かいことをあまり気にしない性分のゴロン族は、当時のことをずっと覚えていたゾーラ族とは対照的に、かつてハイリア人との間に起こった揉め事のことをすっかり忘れてしまっていたのだ。

 族長からして「先代からそんなことを聞いたような……」という感じだったので、私とリンクはずっと張っていた気が抜けて思わず肩を落としてしまった。

 宝石の取引金額がなぜ大幅に割増しとなっているのか、どころか、そもそも割増ししてその金額になっていること自体をいつの間にか忘れてしまい。

 ハイリア人が加害者側の負い目から現状に甘んじ続けたことで、宝石がなかなか売れないのは高額だからではなく需要が無いからだとばかり思っていたそうだ。

 

 長年に渡ってとんでもない勘違いとすれ違いをしていたことに気付き、思わず崩れ落ちたくなってしまったものの、今は外交中だと自分に言い聞かせて気を取り直す。

 とは言っても、その後行われたやり取りは、外交と言うよりは商談だった。

 宝石を欲しがっている、必要としているハイリア人は多く、もっと値段が安く……と言うより、本来の適正価格に戻しさえすればきちんと売れるということを説明する。

 旅に出る前に改めて読み込んできた資料を基に、本来の価格を一覧としてまとめた私達は、『リンク』の紹介で来た者にこの金額で取引をするという約束を結ぶことに成功した。

 

 

「ゼルダの名前でなくて良かったの?」

 

「姫の名をうかつに使うと、後で思いがけない問題が起こるかもしれませんから」

 

「それもそうか」

 

 

 本当は、この件に関することをきちんとリンクの功績としたかったからというのが大きな理由だったのだけれど、彼はその説明でとりあえず納得してくれた。

 

 

「私達が一旦宝石を預かり、王都で販売した代金をお渡しする……ということも考えたのですが」

 

「山積みになっている在庫を片づけるだけなら、確かにそれで十分だけど。

 今のゴロン族に必要なのは、色々と整えさえすれば宝石はちゃんと売れるんだってことを、直接その目で確認してもらうことだ。

 もともとゴロン族は、宝石に価値を感じていなかった。

 ハイリア人がそれを欲しがったから、商売として成り立っていたんだ。

 その肝心のハイリア人が、長年に渡って宝石を買い渋る状況が続いたせいで、宝石を商品として扱うことそのものへの疑問がゴロン族全体に生まれている」

 

「商人にゴロン族の里まで赴いてもらい、直接仕入れを行なってもらうことで、宝石の需要は間違いなくあるのだということを実感してもらう必要があるのですね。

 ……今のハイラルに、そんな気概のある商人がいるのでしょうか」

 

「探すしかないな、多少あちこち回ってでも。

 わざわざ足を運んでもらうからには、燃えず薬の用意くらいはこっちですべきだし」

 

「ここに来るまでの登山道も……私達の時は、マスターバイクで一気に登ってしまったので、あまり気になりませんでしたが。

 魔物の巣をいくつか見かけました。どうにかしておかないと、人を寄越すなんて危なくてとても出来ません」

 

「ひとつひとつ、確実に片づけていこう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 解決すべき課題は多いけれど、すべきことはハッキリしているから大丈夫。

 そんな当初の認識、予想を遥かに上回って、目的達成までの道のりは果てしない上に手間がかかるものだった。

 まず最初に、大量の燃えず薬を用意するために、材料となるヒケシトカゲやヒケシアゲハを探して灼熱のデスマウンテン周辺を探索した。

 ゴロン族との通商が滞り、デスマウンテンを訪れる人や機会が減ったことで燃えず薬の流通が激減していて、自分達で作った方が早かったからだ。

 少しでも気を抜けば意識が遠のきそうな暑さの中で、ヒケシトカゲは逃げ足が速いし、ヒケシアゲハは小さくてなかなか見つけられないし。

 私達自身も燃えず薬を使う必要があるので、目標数を揃えるのに時間がかかってしまった。

 

 

「昔のゴロンの里では、ハイリア人用の耐火装備を扱っていたそうなのですが……」

 

「需要が増えればまた作ってくれるだろうから、それまでは地道に頑張ろう」

 

 

 探したい素材を登録すれば、近くにある時に教えてくれる機能がシーカーストーンに備わっていなければ、達成前に心が折れていたかもしれない。

 そんな弱音は、素材探しと並行して周辺の魔物退治までこなしていたリンクの前では、口が裂けても言えなかった。

 魔物に日々採掘作業を邪魔されて、他の所と同じように困っていたゴロン族達は、そんなリンクの活躍を喜んでくれた。

 ハイリア人でも過ごしやすい部屋を、わざわざ拠点として用意してくれて、私達が上手く出来さえすればゴロン族との関係は必ず良くなるということを改めて確信する。

 これから来ることになる商人を迎える準備として、ハイリア人用の部屋を増やしておいてもらうことを頼んだり、岩以外の食事を知らないゴロン族でも用意出来る、焼いて塩を振るだけの簡単な料理を教えたりした後で、私達は一旦デスマウンテンを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰を仲介するのかに関しては、馬宿の実態調査を兼ねて各地を巡りながら、商売に対する気概と誠実さを兼ねた者を行商人の中から探すことにした。

 姫とその騎士という立場を、そうそう振りかざすわけにはいかない私達の儲け話など、区切りとして成人を迎えただけの子供が戯言を口にしていると思われても無理はない。

 店舗を構えて、安定した仕事をこなしているような商人は、そんな確証の取れない話に一か八かで乗るようなことはしないだろうと判断したからだ。

 案の定、話を受ける以前に、まともに聞く姿勢を取ってくれた者すら数えられる程で。

 最終的に引き受けてくれた人だって、私達が信用できる者なのかを確かめたいという理由で頼みごとをしてきて、それをこなすのもまた一手間だった。

 

 そうやってやっと集まった数人に、デスマウンテンの登山道近くの馬宿まで赴いてもらって、そこから私達が……というより、リンクが護衛と案内を務めながら揃ってゴロンの里へと向かった。

 商人達に合わせて、改めて徒歩で登るデスマウンテンはやはり過酷だった。

 女性ということで気を遣われていた私でさえそうだったのだから、なぜかすぐ逸れそうになる商人達を誘導したり、随分と退治した筈なのにまだ残っていた魔物を倒しながら先導を務めていた、リンクの苦労は相当なものだったと思う。

 最後の関門と言わんばかりに、登山道の真ん中に立ち塞がるかのように現れたマグロックを倒して、ようやく里へと辿り着いた私達をゴロン族達は笑顔で歓迎してくれた。

 

 

「山積みになっていた宝石が本当に全部売れたゴロ!」

 

「リンクとゼルダの言っていた通りゴロ!」

 

「宝石を買ってくれただけでなく、珍しいものをたくさん売ってくれたゴロ!

 ハイリア人はみんないい奴ゴロ!」

 

「宝石をこんな大量に仕入れられるわ、在庫は完売するわ。

 道中は大変だったけど、ここまで来て、話に乗って本当に良かったよ」

 

「次からは何とか自分で来られるようにする、紹介してくれた君達の顔を潰さないように気をつけないとね」

 

「昔色々とあったとしても、ゴロン族は今更そんな細かいことは気にしないゴロ。

 リンクとゼルダが、ゴロン族とハイリア人の為に一生懸命頑張ってくれた事実こそが大事だゴロ。

 ハイリア人がもっと過ごしやすいように色々と工夫するゴロ、だからいつでも遊びに来てほしいゴロ」

 

「俺達は友達ゴロよ」

 

 

 その言葉を受けて、苦労の連続に全身を煤けさせていたリンクが、疲れを忘れて思わず浮かべた嬉しそうな笑顔が、私にとっては一番の報酬に思えたのだった。






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