成り代わりリンクのGrandOrder 外伝   作:文月葉月

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剣術大会

 

 リンクの13歳の誕生日……リンクとゼルダが旅を始めた当初に定めた、ハイラル城における二人の今後の進退がかかった大切な期限の日。

 それを、およそ二週間先に控えたある日のこと。

 ハイラルの王城と城下町から少し離れた所にある『とある施設』にて、彼は数多の視線を浴びながら剣を振るっていた。

 

 

「そこまで!!

 只今の勝負、勝者はゼルダ姫の騎士リンク!!」

 

 

 背も体格も、自分よりも遥かに優れていた者を相手に一歩も引くことなく攻め続け、ついには見事勝利してしまった少年騎士へと、観客席からの惜しみない歓声が向けられる。

 名を呼ばれて登場した時に観衆が思わず抱いてしまった、『まだ幼いとは言え、姫様の騎士ともなれば出ざるを得なかったんだろうな。可哀想に……』という初印象を紛れもない実力で以って覆して見せた己が騎士に、貴賓席のゼルダ姫も心からの拍手と声援を送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 間近に迫った期限の日を意識し始めた頃に、近々開かれる毎年恒例の剣術大会に出場しないかと、インパから提案をされた。

 彼女曰く……俺とゼルダが今まで成し遂げてきたことを、大変な思いをしながら頑張ってきたことを、時に手助けしたりされたりしながら見守ってきた城の者達はよく理解している。

 今後の功績に応じて、役職を与えるか否かを判断する。

 そんな当初の約束に十分応えた俺が、今後側近の一人として陛下とゼルダの傍で力を揮っていくことを、俺達を知る城の誰もが確信している。

 だけど、たったひとつだけ、現状で拭い切れていない不安要素があるとのことだった。

 

 

「当然の判断だったので責めるつもりは無いが、お前とゼルダ様は身分を隠しながら旅をしていた。

 この一年で二人が様々な成果を成してきたことを、多くの民は知る由も無いのだ。

 現状でお前が要職に召し上げられたとして、それが正当な評価だと知っている私達に異存が無くとも、何も知らない民達が、それが陛下の正しいご判断であると素直に受け止めてくれるとは限らない。

 姫様の騎士に箔を与えるためのあくまでお飾り、名ばかりの就任と思われてしまえば、それを撤回するための余計な手間が、今後の役目にことごとく着いてまわることになるだろう」

 

「故にお前には、今度の剣術大会に姫様の騎士として堂々と出場し、民の前で活躍を見せることを勧めたいと思う。

 確かな実力があることを証明すれば、少なくとも名ばかりのお飾りと思われることだけは無い。

 お前がただ戦士として優れているだけでなく、文官としての適性と能力も備えていることは、今後の働きを見せさえすれば自然と理解してもらえることだろう」

 

 

 インパの考えは尤もだと思ったけれど、その場ですぐに返事はせずに、ゼルダと相談してから決めることを告げた。

 剣術大会に出場すること、俺の存在を名実ともに知らしめることは、俺達の旅の終わりを意味していたからだ。

 俺達の身元が明らかになれば、今までのような当てのない気の向くままの旅をしたり、一般の人達と何気ないやり取りを交わすことは当然出来なくなる。

 最近は未開の地へと挑むことも少なくなり、以前対応した件のその後を確認したり、旅先で知り合った人に会いに行くことが旅の主な目的となっていた。

 旅に出ること自体も減って、城で過ごす時間の方が長くなってきて。

 俺もゼルダも、大変だったけれどそれ以上に楽しかった日々が終わりに近づいていることを、そんな空気を何となくは感じていたけれど。

 

 

(その為に頑張ってきたのは間違いないけれど。

 それでも、いざその時を前にしてみると、やっぱり少し寂しいな)

 

 

 王国周辺の民族達との新たな友好関係を築くという最大の目標はどれも無事に達成できたし、それ以外の国内向けの案件も順調にこなしてきた。

 俺とゼルダの功績は既に城中の皆から認められていて、旅を始めた目的は成し遂げられたと思っていいだろう。

 

 

(心残りは無い…………ああ、でもひとつだけ。

 迷いの森に行った時のことをちゃんと覚えていないのは残念だな、デクの樹サマやコログ達に会えるのを楽しみにしてたのに)

 

 

 迷いの森を抜けて懐かしい大樹の前へと歩み出たその瞬間から、大妖精様を前にしたことで盛大に殴られたかのような衝撃を受けた時までの数日間の記憶が、何故か曖昧になっている。

 そこで何が起こったのか……ゼルダなら当然知っているだろうけれど、あれ以来彼女は、迷いの森に関する話題を明らかに避けているからとても聞く気にはなれない。

 

 

(俺もゼルダも無事に帰って来ているし、デクの樹サマが持たせてくれたらしい土産もちゃんとあったから、何かが起こったとしてもそんなに深刻なことじゃない筈なんだけど。

 ……当分は無理だろうけれど、いつか時間に余裕が出来たら、また改めて行ってみようか)

 

 

 そんなことを考えた俺は、その件に関することを一旦忘れてゼルダの下へと向かう。

 俺の活躍を皆が見てくれること、知ってくれることを喜んだゼルダの笑顔が、決断を促してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 王都近くの闘技場で行なわれる毎年恒例の剣術大会には、純粋な娯楽として以外に、兵士達にとっては地道な鍛錬の成果を観衆の前で発揮できる晴れ舞台、一般市民にとっては自分達を守ってくれている兵士達の強さを実感して安心することができるという意味合いもある。

 前途有望な少年騎士の登場と活躍によって、今年の大会は例年にない盛り上がりを見せていた。

 

 

「ゼルダ、ただいま」

 

「お帰りなさいリンク、決勝進出おめでとうございます」

 

 

 順調に勝利を修めて戻ってきたリンクと、そんな彼を笑顔で迎えるゼルダを、王を始めとした貴賓席の一同は温かく見守っていた。

 彼が城を訪れた当初こそ、リンクを重用することに対して慎重な意見を抱き、それを口にする者は多かったけれど。

 彼の確かな能力と、何があってもゼルダの力になるという気概が明らかになった今現在では、文句や不安の声が聞こえてくることは無くなっていた。

 

 

(まあ……出していないだけ、って人はいるみたいだけど)

 

 

 王やゼルダから多少離れた席、そこから刺さるような視線が向けられていることを察したリンクは、振り返ることも無いまま心の中だけでため息を付いた。

 一人、また一人とリンクとその活躍を認める者が増えていく中でも諦めず、生まれ育った環境が培う貴き心構えの大切さを、要するに碌な教育を受けていない田舎育ちの平民など頼りにしてはいけないという意見を、例の側近だけが一人、声高々に上げ続けていた。

 長年支え続けてくれた人だからと、国を思うが故だからと一生懸命大目に見ていた陛下だったけれど、最近になって溜まり溜まった苛立ちが遂に爆発したらしく、免職こそされなかったものの陛下の側近と言えるような立ち位置からは遠ざけられ、発言までも制限されてしまったらしい。

 その原因もリンクにあると考えたのか、リンクの姿が視界に入ろうものなら、それが消えるまで延々と睨み続けるのだ。

 

 

「先日、お父様が珍しく人前で嘆いておられました。

 平民であろうと構わない、能力の有無こそを重視するという自身の考えは昔からのもので、彼もそれを知っていた筈なのに……と」

 

「それで実際に、平民が要職に大抜擢なんて例は無かったから、実行する気は無いあくまで口だけの宣言だとでも思っていたんじゃないかな」

 

 

 忠臣と信じていた者が、実際には自身の理想を欠片も理解してくれていなかった。

 ようやく受け止められた事実は王を心底落ち込ませている筈なのに、悠然とした態度で試合を見守る彼の表情からは、そんな内心は欠片も窺うことが出来ない。

 心から信頼できる者、遠慮なく本音で話せる者、自身の心を理解してそれを叶えようと尽力してくれる者。

 リンクのような得がたい存在を幼くして得ることが出来た幸福と幸運を噛みしめながら、ゼルダは恐らく生まれて初めて、自身の目からは常に立派な王の姿に見えていた父の、『人』としての苦労と苦悩に想いを馳せた。

 

 

「リンク、お願いです。

 大会で優勝して、お父様を少しでも元気づけてあげて下さい」

 

「了解した」

 

 

 命令する姫とそれに応える騎士の図にしてはあまりにも気軽な、お互いを信頼しきっているが故のやり取りを交わす二人の前で、リンクの決勝戦の相手が決まった。

 健闘を称える惜しみない拍手と歓声に、笑顔で応える偉丈夫。

 ゼルダとのやり取りに夢中になっていたリンクは、彼の顔を城内で見かけた覚えがないことに遅ればせながら気がついた。

 

 

「ゼルダ、あの人誰だか知ってる?」

 

「いえ、私には覚えが」

 

「わしも知らぬ。

 インパ、あれは一体どこの者だ」

 

「…………とある方から、頼りにしている私兵として推された者です。

 外部からの出場を許可する書類には王の印が確かに押されていました、なのにご存じでないと?」

 

 

 周囲の者を混乱させないため、叫び出したいのを懸命に堪えているインパの声が、強張った体が僅かに震えている。

 彼女の言葉が意味するものを瞬時に察し、貴賓席の椅子を蹴倒す勢いで立ち上がった王だったけれど……闘技場中に響くような声を発するよりも、謎の男が行動に移る方が僅かに早かった。

 歓声に応えていた朗らかな笑顔が怖気をもたらす様な嘲笑へと変わり、途端に巻き起こった白煙と無数の赤い札が人々の視界を一瞬で埋め尽くす。

 人々が目の前で起こったことを受け入れ、理解するよりも先に、魂が掻き消されるような恐ろしい咆哮が白煙を吹き飛ばしながら轟いた。

 

 馬の下半身に人の両腕、獅子の顔に角を生やし、膂力に溢れた巨躯と目の前に立つ者を情け容赦なく鏖殺する戦闘意欲を併せ持つ最強と名高いその魔物は、獣人ライネル。

 王族や多くの一般市民が集まっている場所に突如現れたそれは、決して免れることは出来ない惨劇の先触れでしかなかった。

 一転して恐怖と混乱に支配された場内でただ一人狼狽えず、目の前の魔物に誰もが恐れ慄いていた中でその眼差しを決して逸らすことの無かった、緑衣の少年がいなかったならば。





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