ハイラルのため、ゼルダのため。
俺が出来ることを懸命にこなしながら、あっという間に駆け抜けた二年間。
15歳を迎えた俺は、仕事や情勢が落ち着き始めた頃合いを見計らってまとまった休暇を取り、カカリコ村へ里帰りをした。
大きな目的はふたつ、ばあちゃんに会うことと……旅立ちの際に部屋に置いてきた分と、王宮で過ごすようになってからも書き続けた分を合わせて、『伝説』をきちんと完成させること。
誰にも見せられないし、見せる気が無いのも今のところは変わらない、完全に自己満足の代物だけど。
この大きな区切りをつけることはとても大切で、必要なことだと思う気持ちもまた、幼い頃から変わっていない。
ばあちゃんが食事を用意してくれている懐かしい音と匂いを感じながら、随分と小さくなってしまった机で無心にペンを動かし続けた俺に、その瞬間が遂に訪れた。
「…………出来た」
立派な装丁が施されている訳ではない。
自己流の拙い手つきで、辛うじて本の体裁を取っただけの、それでも分厚さだけは辞書並みにある代物が締めて18冊。
その表紙に俺なりに記したタイトルを、不思議な感慨深さを以って見定めていく。
ゼルダの伝説・第一章『スカイウォードソード』
ゼルダの伝説・第二章『ふしぎのぼうし』
ゼルダの伝説・第三章『4つの剣』
ゼルダの伝説・第四章『時のオカリナ』
ゼルダの伝説・魔王ガノン封印後の第一章『神々のトライフォース』
ゼルダの伝説・魔王ガノン封印後の第二章『夢をみる島』
ゼルダの伝説・魔王ガノン封印後の第三章『ふしぎの木の実』
ゼルダの伝説・魔王ガノン封印後の第四章『神々のトライフォース2』
ゼルダの伝説・魔王ガノン封印後の第五章『トライフォース三銃士』
ゼルダの伝説・魔王ガノン封印後の第六章『ゼルダの伝説』
ゼルダの伝説・魔王ガノン封印後の第七章『リンクの冒険』
ゼルダの伝説・新たな風の勇者の第一章『風のタクト』
ゼルダの伝説・新たな風の勇者の第二章『夢幻の砂時計』
ゼルダの伝説・新たな風の勇者の第三章『大地の汽笛』
ゼルダの伝説・時の勇者の末裔の第一章『ムジュラの仮面』
ゼルダの伝説・時の勇者の末裔の第二章『トワイライトプリンセス』
ゼルダの伝説・時の勇者の末裔の第三章『4つの剣+』
ゼルダの伝説・全ての最後を飾る章『ブレス・オブ・ザ・ワイルド』
「ちょっとかっこつけすぎた気がしないでもないけど。
まあいいか、どうせ俺以外に誰も見ないんだし」
ああ、でも……いつか俺が、本当の意味でこの伝説を、今の自分とは関係ない遠い過去の物語と割り切れた時には。
「ハイラルの地を舞台に、皆をモデルにして、こんな物語を考えてみたんだ」とでも言って、皆に見せてみてもいいかもしれない。
孤独な戦いを送った『リンク達』も、自分達の物語を多くの人々が知ってくれるなら、きっとそれを喜ぶことだろうと思うから。
休暇ももう終わる、明日には王宮に帰らなければ。
大きな区切りを無事に迎えられた新しい気持ちで、今までと同じようで違う日々を、ゼルダ達と共に歩み続けるのだ。
そうして、十年越しの執筆の末に『ゼルダの伝説』を書き上げた。
これを区切りに前世など割り切って生きていこうと、改めてそう思えた……その日の夜のことだった。
天に昇った赤い月が、世界を禍々しい血色で染め上げたのは。
本当はわかっていたんだ。
そんな都合のいい、優しい未来なんかある訳ないって。
『リンク』と『ゼルダ』が出会った時点で、運命は始まってしまっていたんだって。
…………………ごめんな、ゼルダ。
一緒にいるって約束、もしかしたら守れないかもしれない。